『第七話』
第二章 『第七話』
女神が人と憩う——同時刻。
水の流れ落ちる音が響く森。
粛然と——"密やかに進む者"あり。
『"————"』
それは人に似た形をしているように見える。
しかしその実、"形が定まっているようで定まってもいない"——揺らぎの光。
隆々の麗しき体は朧げな粒を纏い、"騒音となる世界の波"に隠れて遠隔の
『——……』
開かれる瞼——現出する炎——"赤"の虹彩。
酸化した鉄にも似たその色味は暗い凝血の如く。
だがやはり、眼の中央で輝いて見えるのは"夢"——星の灯火——"神の視線"。
『…………』
頭頂部で揺らめく炎は髪か。
ギラつく"白"は"銀"にも見えるだろう。
『……——』
そして何より、見る者がいれば——"無事にその姿を直視出来る者がいて"、その者が人であれば間違いなくに言及せざるを得ないのは——"顔"。
顔、顔面、
"呪文の波"を放とうと口を窄める今でさえ気品があり、しかし雄々しく——"輝いて良く見える"。
『——"果たして"』
背も相当に高く、身も丈夫——これ最早"美丈夫"。
獅子にも似た"獣"の輪郭を鎧として纏うこの者、この神——吐き出す声も当然に
良く通る内密の低音波動で世界を震わす。
『"我が期待に応える者"——』
『それは、獣でないならば——』
『——"
『……それとも——』
『——あの女神か』
『……"どれであっても構わない"』
止まる足。
水面に映る見目佳き顔は神のもの。
落ち続ける滝と、その注ぐ森奥の泉で突き出す太腕。
握られているのは——"青の液体"——血液。
『——"挑戦と試練の時"』
『"殺意を核"とし——"次の始まり"』
陽光が水で反射して見せる景観の美。
透き通る水の透明、光浴びる葉の緑——鮮やかさの中で慎ましき岩と大地の色。
面の際に立つ麗神と合わさっての——輝く一枚絵。
『今より生まれ、下される
『それは——"殺戮の衝動"』
しかし、美丈夫は趣を持たず楽しまず。
突き出す腕の翳す手から零れ落ちる"血"。
垂らされるその深い青色が水面で作る波紋。
一滴一滴が落ちる度——泉の底で集まっては身を結ぶ。
"新生の熱"——光——生じる命。
『忘れることなかれ』
『"
『お前の生存に許された道、それは——』
『"殺生ただ一つのみ"であると』
誕生を祝す呪いの言葉。
生き様を定められる命——じわりじわりと光は呪文の進みに呼応し——見せる広がり。
くすねられ、その全てを低温の内に注ぎ込まれた液体は今や形を得て——呼吸、昇らせる蒸気。
『吐息。運ぶのは"
『"摘み取る"は程よく。実りし——』
『——"人の命"』
そうして一定の大きさと相成った肉体。
それは扁平でも分厚く、円盤のような胴体から——より正確に言えば
『そして結びに——"王から王へ"、願い奉る』
『"最初にして最後の謁見"』
『
そして、己だけに表明する所信。
『神は——オレという神は"神を殺す"のだ』
妖しく語る眉目秀麗の
その腕で装着された物——折りたたまれ、人の使うそれとしては不自然な程に『握る柄』の上下共に細く薄く研磨された——"武器"。
其処から凶刃の放ち射る時を今は黙して待つ——その武器こそ——。
『
神の造りし——『弓』であったのだ。
————————————————
「——さあ、いらっしゃい! どれも新鮮だ。今日はお得意様よりの貴重な山菜もあるよ!」
「——おっ。そいつはいい。だったらそれを一つ貰おうか。育ちの早いものばかりで飽きた舌には珍しい苦味が丁度いいだろう——ほい、お駄賃」
「はい、毎度あり! 確かに受け取っ——」
「け——ほっ、ごほっ……!」
「おっと、大丈夫かい? 店主のアンタ」
「——ぁ、ああ。 少し噎せただけさ。風邪気味なだけで、なんてことはないよ」
「それならいいんだが、暑い日だってまだまだ続く。体には気をつけてくれよ」
「心配かけてすまないね。勿論、元気出して若い
「——我らの女神の見守りくださる"渡り"の時まではまだ早い。今のアタシにだって夢の一つ二つはあるんだ」
「その時が来たら笑顔で見送って貰えるよう——精一杯、生き抜いて見せるさ」
「さあさあ! いらっしゃい、いらっしゃい——」
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