第7話 砂・漠・地・獄
『うーん、飛び乗ったはいいけど結構難しいわね……』
ギンギツネはハンドルに手をかけながら言った。
『貸して。』
『え?あっ、ちょっ——』
—ブロロッ!キキィーッ!ブロロロー……—
『もうちょっと優しく!丁寧に運転してよ!』
ギンギツネは少し怒ったように言った。
『でもドリフトした方がミニターボが……』
『それなんてマリカーよ……』
そうこうしている内にバスは道中の森に差し掛かった。
その時だ。
『あっ、ちょっと前!前!』
ギンギツネが慌てて指を指した先には倒木があった。
『これは……!ブレーキ全開!インド人を右に!』
キタキツネは訳の分からない事を口走りハンドルを右に切った。
キィィィイイッという音を立てて倒木を回避し、また元の道へ戻った。
『ふぅ……しかしアンタ、割と運転できるのね、って思ったけど雪そりの時もそうだったわね。』
ギンギツネがキタキツネを見て言う。
『ゲームで鍛えてるから……!』
キタキツネが嬉しそうに言った。
(この調子なら十分間に合うわね!)
ブロロロー……
—————————————————
『よし!さばくまで後半分くらいですよ!』
かばんがラッキービーストの地図中の印を見て言った。
ブロロロー…
『そうだ、アンタはなんでこんなモン使って戦ってんのよ?』
カラカルがアライグマに尋ねる。
『それは、パークを危機から救いたいからなのだ……』
『危機ってセルリアンのことですか?』
かばんの問いかけにアライグマは頷く。
『そっかー!アライグマはすっごいんだね!』
『全然すごくないのだ。アライさんはフェネックを悲しませてしまったのだ。一人のフレンズの心さえ守れなかったのだ……!』
『でもさ、ここまで来て、みんなの為に一緒に戦うって決めたのはアライグマ。あなたなんだよ。それってすごいと思うんだ!』
うつむくアライグマにサーバルはそう言った。そしてかばんが続ける。
『僕たちはあなたに助けてもらったんです。その事実は変わりませんし、フェネックさんもきっと大丈夫ですよ。』
『そうよ。アンタが一人で背負い込む必要ないの!いざって時、アンタ一人だけ戦えないなんて承知しないんだから!』
カラカルの一言の後、バスは緩やかに停止した。
『何よー!もう、早く走りなさいよー!』
『バス死んじゃったの?動けー!』
『ラッキーさん、もしかして……』
『電池ガ、無いヨ。』
『やっぱり……』
ラッキービーストとのやりとりの後、かばんは続けた。
『ここから先は歩いていきましょう。』
『まぁ歩くしかないわよねー。』
『歩くのもたのしーよ!』
かばんらがバスから降りるなかアライグマは1人バスにいた。
『どうしましたか?』
かばんが優しく問いかけた。
『すまないのだ。アライさんはみんなにメーワクをかけているのだ……』
アライグマは震えた声で答える。
『アンタ、まだそんなこと言ってんの?もっとシャキッとしなさいよね!』
『アライグマは気にしないで、前に進めばいいんだよ!』
『僕達は、迷惑だなんて思ってませんよ。ここまで来たのは全て、僕達の意思です。』
『うぅ……みんな、ありがとうなのだ……!』
アライグマが目をこすりながらバスから降りた。
『よーし!行くのだー!』
『ラッキーさん、バスを、お願いできますか?』
『分カッタヨ。任セテ!』
こうしてかばん一行はさばくに向けて歩き出した。
———————————————————
『ねぇ、これって……』
キタキツネが指を指した先には停止したバスとラッキービーストがいた。
『かばんたちのバスよ!なんでこんなとこに……?』
『中には誰もいないから、歩いて砂漠に行ったのかも……!』
『多分そうね、急ぎましょう!』
『わかった!』
そう言うとキタキツネは、アクセルを踏み込んだ。
砂漠はすぐそこだ。
ギュルルル…ブロロロロー……
————————————————————
10分ほど歩いたところで森を抜け、ひらけたところにあったのは、一面砂に覆い尽くされた砂漠。その筈だった。
一行の目に映るのは文字通り黒い砂嵐が複数渦巻く、まるで地獄巡りの一つかの様変わりした砂漠だった。
『な、なんなのよ、これ……』
カラカルが眉をひそめて言った。
『すごいおっきいよ!気をつけなきゃ!』
『あれは……前にもこんなのがあったのだ。』
アライグマが砂嵐を見て言った。
『そうなんですか?もしかして良くあるんですか?』
かばんが尋ねる。
『いや、残念ながらこれは異常事態なのだ……それにこの数……フェネックが危ないのだー!』
アライグマが我を忘れて飛び出そうとしたが、
『ダメです!考えなしに行っては何があるか分かりません!』
かばんの一言でアライグマは我に帰った。
『すまないのだ……つい飛び出したのだ。』
『アンタ本当にあの子が好きなのねー』
カラカルが言う。
そして砂嵐を見つめるかばんが言う。
『この砂嵐、少しずつ移動してますね。数は多いわけではないので周りに気をつけながら進みましょう。』
『それは良いんだけど、どうやってあの子を探すのよ?』
カラカルがかばんの方を見て尋ねる。
『それならニオイを辿ればいいのだ!』
アライグマは自信に満ちた声で答えた。
『そっかー!ずっと一緒だもんねー!』
『ここはアライさんに任せましょう!ただ暑いのでみなさん気をつけて!』
——30分後——————
『うまく歩けないのと暑いのでなかなか追いつけないわね……』
『フェネックさんは砂漠に慣れてますからね……どんどん離れているでしょうね……』
『どうしよう……』
『ア、アライさんも疲れてきたのだ〜……』
『なんかかばんちゃんが沢山いるよー!』
『アンタねぇ……しっかりなさいよー……』
叱るカラカルだが、その目は虚ろだった。
一行は途方に暮れていた。
——————————————————
『無事だと良いんだけど……』
『この砂嵐を避けながら探すのは難しいね……』
ギンギツネたちがバスで砂漠にいるかばんたちを探す。
『んー……あっ、これ。』
キタキツネがシート周辺のボタンを押した。
『近隣のパークスタッフ、及びお客様を検索します。』
『アンタちょっと何したの!?』
ギンギツネは機械音声に驚き身を後ろに下げながら尋ねる。
『ナビって書いてあったから……』
キタキツネはボタンを指して答える。
『近隣のパークスタッフを確認。ナビゲートを開始します。』
『これに従えばかばんたちに会えるよ!』
『わかったわ。今は信じるしかないわね……!』
ブロロロ……
砂嵐を避けながら砂漠を少し進んだところで倒れる寸前の体を押して歩くかばんらの姿が見えた。
『かばんー!かばんー!こっちよー!』
ギンギツネが呼びかけた。
『あ、ギンギツネさん達が、来ました……よ。』
安心した途端にかばんは疲れに押しつぶされたかの様な感覚の後、倒れた。
『かばん!?』
『とりあえずバスに乗って……!』
『うん!よい、しょ!』
サーバルらも朦朧としかけている意識の中かばんを背負ってバスに乗る。
果たして一行はフェネックを探し出せるのか?
続く
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