第8話 合流

フェネックは砂漠にある古巣へと足を運んでいた。

『アライさん……ずるいよ。そんな大事な事隠してさ……』

そんな独り言を呟きながら歩いているうちに心の中で一番ずるいのはこうして逃げ出した自分なのではないかと考えていた。

『ごめんね……私……』

涙をこぼしながら歩くフェネックの足跡は風に呑まれてすぐに消えていった。

しばらくして家にたどり着き、扉を開け、中へ消えた。

『…………』

————————————————————


倒れたかばんを乗せたバスは、アライグマの案内の通りに砂漠を進んでいた。

『こっちから匂いがするのだ!』

『いや〜危なかったわ……アンタ達がこなけりゃ私達……』

カラカルがそう言いながら額を拭った。

『そういえばなんでバスをほったらかしてっちゃったのよ?』

ギンギツネが尋ねる。

『あ……電池が、切れちゃって。その……』

かばんが身体を起こしながら答えた。

『かばんちゃん、寝てなきゃだめだよー!』

サーバルが心配そうにかばんを寝かせようとした。

『大丈夫だよ、ありがとうサーバルちゃん。』

ギンギツネが話題を戻すように尋ねる。

『でもボスを置き去りにして大丈夫なわけ?ここは慣れた場所じゃないから……』

『アライさんは良く行くのだ!大丈夫なのだー!』

アライグマが胸を叩いて言った

その時だ。

『何か見えてきたよ……』

キタキツネの指した方には少し盛り上がった砂の洞穴だった。よく見ると扉もある。

『あれはフェネックのおうちなのだ!』

キタキツネがバスを近くに停めると同時にアライグマはバスから降りて扉に駆け寄った。

『フェネック〜!いるのかー!?』

アライグマは声を掛けるが、まるで生気を吸い取られたかのようにしんとしていた。

『フェネック……開けちゃうのだ!』

『……やめてよ。』

『えっ?』

突然聞こえてきたくぐもった声に少し驚くアライグマ。

『アライさんなのだ〜!開けて欲しいのだ!』

『今は……いや、開けていいよ……』

『変なフェネックなのだ……』

キィと音を立てて扉が開いた。

中はそれほど広くもない。が、タンスが一つに埃をかぶった食器が二つあるだけなので、ギリギリ全員入った。

『何も出せなくてごめんねー』

フェネックが困り顔で言った。

『大丈夫だよー!』

『それより、この辺りは危ないんです。早く戻りましょう!』

かばんがフェネックに言った。

『黒い砂嵐のことかい?』

フェネックの表情が変わった。

『知ってるんですか?』

かばんが尋ねる。

『さばくは元々縄張りだからねー。この前の噴火の時から発生してたんだー。』

『じゃ、あの砂嵐ってもしかして、サンドスターの塊なんじゃない?』

『でもサーバル、サンドスターって虹色じゃない?』

カラカルがそういうとギンギツネはこう続けた。

『としょかんで見たんだけど、セルリアンを生み出す黒いサンドスターもあるみたいよ。』

『それ、結構ヤバくない?』

『みんな、砂嵐が今近くにはないよ……』

『とにかく、一旦戻りましょう!』

『わかったよー』

扉を開け、バスに乗り込んだ時だ——

『あっ、砂嵐だよ!』

サーバルが指を指した先には砂嵐が砂を掻き分けていた。

『ねぇ、あれ何か粒が大きくない?』

『え?』

『こういうのは見た方が早いのだ!バスを向かわせるのだ!』

『危ないけど……近くで見た方が何か手がかりがあるかも知れません!』

『わかったよ……!』

バス近づけて様子を見ていた時だ。

『何かサンドスターがちょっとずつ飛び出してるよ!』

『いや、もしかしてこれ、小さなセルリアンが大量に飛び出してるのよ!』

二人の言葉を聞いて、かばんは少し考えた後言った。

『もしかして……水辺で大きなセルリアンが現れるのって…泥ができるのと同じように、撒き散らされたセルリアンがくっつくからでは?』

『なるほど……あの砂嵐が砂のセルリアンを作るなら確かに……理にかなってはいるわね。』

ギンギツネは続ける。

『この砂嵐を先に解決してから大型セルリアンを倒さなきゃね?』

『うーん……でもどうやって?』

サーバルの単純かつ最大の疑問が一行の手を詰まらせた。

『細かくて大変ならでっかくすればいいのだ!水をぶっかけてやるのだ!』

単純には単純。とでもいうかのように提案された意見だが、十分実行に値する提案ではあった。

『じゃあ水を汲みに一旦戻りましょう!』


かくして一行は再びじゃんぐるに戻る……


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る