第3話 その後…
セルリアンが撃破され、一面の銀世界を見渡していたかばん。
『やっぱり、あの悲鳴の主は、もう……』
雪の中に残る動物の足跡を見てかばんは膝から崩れ落ちた。
『……切り替えていかなきゃダメよ、かばん。』
ギンギツネは呟くように言った。
『うぅ……わかっては、いるつもり、です。』
かばんが俯きながら答える。
『なら、早くこの問題を解決しましょう?』
『ちょっとギンギツネ!それは酷いよー!かばんちゃんだって、そう思ってるよ!……でも!——』
サーバルが睨む。
『今はそんな感傷に浸ってる場合じゃないのよ……っ!』
拳を握りながら放ったギンギツネの声は、震えていた。
『ギンギツネ……ちょっと、言い過ぎだよ……?』
キタキツネが心配そうに言う。
『当たり前でしょう!?次は、私たちの誰がああなるか分からないのよ!気を引き締めていかなきゃダメよ!!』
そう言うとギンギツネは奥の部屋へと行ってしまった。
『ごめんなさい。ボクの為に……。でも、ギンギツネさんはきっと、守り切れなかった自分自身に、悔しい気持ちがあるんだと思います。』
『『うん……』』
『また、お客、減っちゃったね——』
———ギンギツネの部屋———
『はぁ、何やってんのかしら。私……かばんに八つ当たりしちゃうなんて、サイテイね……』
ギンギツネのすすり泣く声が小さな部屋でこだました。
(温泉にでも入って気持ちを整理しましょう。そして、ちゃんと謝らなきゃ……)
—————アライさんサイド——————
宿のそばの茂みに、2人はいた。ちょうど宿の真後ろの為、バレることはないだろう。
『ぐぬぬ……アライさんは、アライさんは!ヒーロー失格なのだぁぁぁぁ!!』
アライグマが頭を抱えて叫んだ。
『どうしてさ〜アライさーん?』
フェネックが問いかけた。
『アライさんは、襲われたフレンズを助け出せなかったのだ……アライさんは弱いのだ……こんなのヒーローじゃないのだ!』
アライグマが泣きそうになりながらフェネックに訴えかける。
『なるほどね〜、でもさ、それって当たり前の事なんじゃないかな〜?』
『でも……でも!アライさんはヒーローでありたいのだ!』
アライグマは拳を震わせながら言う。
『それって、"ひとり''じゃなきゃ駄目なのかな〜?』
フェネックが不意に問いかけた。
『えっ?———』
『たしかに、アライさんひとりじゃ、ヒーローにはなれないかも知れない……いや、多分無理だろうね〜。』
『うぅ……』
フェネックの冷静な考えにアライグマはうなだれていた。
『だからさ、"私"じゃなく、"私達"でヒーローになろうよ〜。』
四つん這いになるアライグマにフェネックは手を差し伸べながら言った。その口元は優しく笑っていた。
『へねっくう……』
こうしてヒーロー・アライ改めヒーローズ・アラフェネが産まれた。
もちろん正体は彼女らには秘密だ。
(このナイフ、こここんな形だったかな〜?まぁいいか。)
———かばん一行————————————
ギンギツネが居なくなったあと、宿の中には静寂があるだけだった。
しばらくの沈黙を経て、キタキツネが言う。
『……ねえ、温泉に入らない?』
『アンタねぇ、今どんな——』
『それ、いいかもしれませんよ!休息は大切ですし……』
『それ、ギンギツネもよく言ってたよねー!』
『それじゃ、ついて来て……!』
『『うん!』』
『あーアンタ達!何よー!待ちなさいよー!』
進み出した一行にカラカルは慌てて付いていく。
————温泉にて—————————
ガララッ——————
かばんが引き戸を開けると、そこにはギンギツネが居た。
『『あっ……』』
二人は無意識に、目線を逸らした。
『あっあの……!』
『ごっ、ごめんなさい!さっきは、あんな事言っちゃって……その——』
かばんが言葉を詰まらせた時、ギンギツネはそう言った。不思議な感覚がギンギツネの顔を赤くした。
『いえ、謝らなきゃいけないのは僕の方ですよ。むしろ、ありがとうございました。』
『えっ?』
ギンギツネが拍子抜けしたように返す。
『あの時、あなたに言われなければ、立ち止まっていた気がするんです。でも今は、あのフレンズさんの為にも頑張ろうって思えるようになったんです。』
かばんが微笑みながら言った。
湯気の所為なのか、なんなのか。ギンギツネにはそれが滲んで見えた。
『あっ、あの……』
かばんがみんなの方へ向き直り続けた。
『もう一度、みんなで解決策を考えませんか?』
そう言ってまもなく。
『うんっ!このままじゃ、やっぱりダメだよ!』
『うん、ボクに出来ることがあるなら、手伝いたい……!』
『あなたたち……』
ギンギツネは不意に口元を隠した。
『あの、カラカルさん、あなたの力も、貸していただけませんか?』
『えっアタシは———』
構えていたつもりだったカラカルだが、いざとなるとやはり焦る。
『あぁ、いやあの……無理に、とは言いませんよ?』
『何よー!ここではいそうですかって帰れるわけないじゃない!……まぁ、アタシに出来ることでいいなら、その、手伝ってあげてもいいわよ?』
カラカルの顔は赤く、目は泳いでいた。
『やったぁ!ありがとうございます!』
—————数分後————————
『では、セルリアンの出現箇所や、数など、今わかっていることをもう一度整理しましょう。ラッキーさん、お願いします。』
『任セテ。』
ブゥン…という音と共にさっきの地図が机の上に表示される。
『さっき見せてもらった時思ったんだけど、大型セルリアンが発生してるのって水が比較的多くあるところだけなのよね……』
『多分、小さいヤツは水が嫌いなのよ。というか、多分水に弱いんじゃない?』
カラカルが言う。
『じゃあ、多分火属性か地属性だよ……』
キタキツネが少し楽しそうに言う。
『アンタそれゲームの話でしょ……』
ギンギツネが呆れたように返す。
『あははったのしーねー!みんなで考えるの!』
『サーバル、アンタなんも考えてないでしょ……』
はしゃぐサーバルとは対照的に呆れ顔で答えるカラカル。
『とにかく、小さいセルリアン達は水が弱点である可能性は高いです。ですが、今なんとか出来る小型より、我々では太刀打ちができない大型の手がかりが——』
『それならあるわよ。』
俯きかけたかばんにギンギツネはそう言って、何かの破片を取り出した。
『これは……?』
『あの時、セルリアンを倒した奴が持っていた武器の一部よ。かなり無理にイシを叩いたから欠けたみたいね。』
『これが何か分かれば、僕たちも大型のセルリアンに対抗できますね!』
『そうなんだけど……これが一体なんなのか、全然わからないのよ。だからかばん。私をはかせのとこに連れてってくれない?一緒に調べたいんだけど……』
『てか、これの持ち主の正体も気になるわね……なんとなく嗅ぎ覚えある匂いだったのよね〜。』
カラカルが首を傾げながら言う。そして、こう続けた。
『ねぇ、私もついてっていい?やっぱり色々気になるわ。』
『もちろん、いいですよ!みんなで協力して解決しましょう!』
こうして一行は宿を発つ準備をした。
『キタキツネも来るのー?』サーバルがバスの屋根から顔はを逆さに出して尋ねる。
『うん。みんなと一緒に頑張りたい……!』
『ちょっとー狭いじゃなーい!』
すでに定員に達しているがギンギツネの道具があるおかげでバスはすし詰め状態だ。
ある意味一刻を争う中、一行はとしょかんへと向かう。
——ブロロロロロロ……——————
続く
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