第2話 ゆきやまの温泉宿

ギンギツネたちの住む宿へ辿り着いたかばん一行……

『やっぱりここは真っ白だねー!』

かばんの周りをサーバルが飛び回りながら言う。

『あはは、そうだね、サーバルちゃん。とりあえず中に入ろっか?』(寒いなぁ、後で温泉に入らせてもらおうかな?)

———ガララッ—————

『すいませーん。』

見回しながらかばんが言う。

『あら、かばんじゃない!どうしたの?』

奥から少し驚いた顔で答えたのはギンギツネだ。彼女はパークの中では珍しい、機械工作ができるフレンズだ。

『私もいるよ!』

食い気味にサーバルが割り込む。

『あはは……サーバルちゃん、ちょっと落ち着こうか…』

真剣な眼差しでかばんが続ける。

『ギンギツネさん、今日はお話があって来たんです……』

『あら、そうなの?とりあえずここじゃなんだから、上がって?』

ギンギツネが手招きしながら言った。

『あっありがとうございます』

————客間にて————————————

『……で、話って?』

お茶と茶請けを出しながらギンギツネは尋ねた。

『あっ、そうですね。えっと、ここ最近のセルリアンの大発生について、なんですが……』

『あぁ、それね。私も気になっていたのよ。今はまだなんとかなっているけど……』

(やっぱり、2人だけで話し合う方がいいかな?)

『かばんちゃん、私、ちょっと出るね!』

『えっ?あっちょっとサーバルちゃん!?』

サーバルはそそくさと客間を出た。廊下から聞こえてくる声から機嫌が悪い訳ではないと察してかばんは安堵する。

『ふふっ、サーバルが怒って出ていっちゃったと思ったのね?』

わかり切った顔で問いかけるギンギツネ。その笑みはいやらしかった。

『えっいや、その……はい……』

かばんは顔を真っ赤にして答える。

『あははっ、ごめんなさい。ちょっと意地悪だったわね。……本題に入りましょう?』

誤魔化すように話を戻す。

『あっはい、えっとセルリアンの大発生について、原因を知りたいんですが……』

『それが私もわからないのよ……ごめんなさい……』

ギンギツネが目線を落としながら言う。

『あっいえ、大丈夫です今回は協力して原因を突き止め、解決していきたいと思ってここに来たんですよ……』

『なるほど、それで……』

————ゲームコーナー———————

『さっきまでいなかったし、キタキツネは多分…』

—バシン、バババ……ババドドド…————

『やっぱり居たー!!』

『あっサーバル…!久しぶりだね…!』

キタキツネが笑顔で振り向く。

画面には【YOU WIN】の文字が。

『あれれ?もう1人、いるの?』

サーバルが不思議そうに問いかける

『……うん。一緒に、ゲームしてたんだ……!』

満足そうにキタキツネは答えた。

『あー何よー!アンタ強すぎるじゃななーい!もっかい!もっかいやるわよ!……って、アンタ…サーバルじゃない!』

筐体から顔を出しながら叫ぶのはカラカルだ。サーバルの親友だが口が少し悪い。

『あっカラカル!どしてここにいるのー?』

サーバルが筐体に乗り出しながら尋ねる。

『最近セルリアンが多いから、巣の中でも出来ることを調べてたら、ゲームってのを見つけたのよ。……アンタは?』

『あっ、私はかばんちゃんと、その原因を見つけに来たんだよ!』

ふふんと言いながら腰に手を当て、自身満々で答える。

『ふーん……じゃあ、どうしてこんなトコにいるのよ?』

目を細め、呆れたような声でカラカルが尋ねる。

『あっ、えっとぉ…それは————』

『どうせ分かんないから遊びに来たんでしょ?』

言葉に詰まるサーバルにカラカルが遮るように言った。その時だ。

彼女らの耳に微かな悲鳴が聞こえた。

『……なんだろ?』

『セルリアンかもしれないよ!』

『そうね、行くわよ!』

『『うん!』』

カラカルの呼びかけに2人は答え、廊下を走って行った。

————少し時は戻って客間————


『うーん、何かいい案は……』

『そうだ、かばん?セルリアンの大発生って、全ちほー・エリアで確認されてる訳じゃないわよね?』

『あっ、はい。その筈です。ただ……』

『ただ?』

少しうつむくかばんにギンギツネは覗き込むように問いかける。

『えっと、大発生を認めていない、さばくちほーのオアシス周辺、ジャングルちほーこはんエリア、そして、ゆきやまちほーの温泉宿周辺では、いずれも大型のセルリアンが複数目撃されています……ラッキーさん、お願いします。』

『分カッタヨ。地図データヲ、表示スルネ。』

ブゥン…という鈍い機械音の後、すっかり湯気の無くなったお茶の置かれた机に細かな印がつけられたデジタル地図が表示された。

『この小さいバツ印が小さいセルリアンが沢山現れたところです。』

かばんが地図を指して説明する。

『なるほどね、だいぶ調べ————』


————キャァァァァァァ!!————

客間の静寂な空気を悲鳴が切り裂いた。

『何!?』

『セルリアンかも知れません!』

『行きましょう!かばん!ボス!……あれ?』

『アワ、アワワワワ……』

突然の悲鳴に処理が追いつかず、ラッキービーストはフリーズしていた。

『ラッキーさん……仕方ない!行きましょう!』

かばんの中に無造作にそれを突っ込みながら走り出した2人。

外に出るや否や、宿の2〜3倍はあろうサイズのセルリアンが居た。しかしそこに悲鳴の主は見当たらない。

『流石にこの大きさじゃ……!』

『それに、遅かったみたいよ……』

ギンギツネは、目を伏せてそう言った。

『えっ』

そう尋ねたのと同時にサーバル達も合流した。

『かばんちゃん!あれって……!』

『うん、この辺りでよく見られていたのとそっくりだよ!』

『来るわよ!アンタ達!避けなさいよー!!』

その巨体に見合った太い腕が、一行に影を落とした、その刹那、一筋の光が走った。

————ガササッ!キイィン!———

何かが一太刀横切り、その腕を切り落とした。

『……早く離れて!…のだ…』

マントで体を覆い尽した女が言った。その手には、ナイフのようなものがあった。

『えっ?』

かばんが問う。

『早く!』

吐き捨てるように女は怒鳴った。

『あっああ、はい!』

かばん達が宿へ引き返すのを見て、女—もといアライグマは満足そうに笑った。

『ふははー!デカセルリアンめ!ハンターに代わってアライさんが仕留めてやるのだ!』

『アライさ〜んイシは背中にあるよー』

まっすぐ突っ込むアライグマにフェネックが助言する。

『おお!流石フェネックなのっだぁっ!』

アライグマは、そのままセルリアンの背中へ飛び乗り、イシを一突きにした。

バシュゥン!という音と共にセルリアンは消滅した。

その音を聞いていたかばん達も外へ飛び出した。

『ああっ……!セルリアンが倒されてる……!?』

そこには、ただ一面に、銀世界が広がっていた……


続く


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