第2話 私の事

 私の勤めている会社は本社が東京にある、有名な会社の東北支店だ。

 支店といっても、本社との差は歴然。

 本社はまさに、大企業。エリートのみが採用される。

 東北支店とはいえ、地方にあるのは大体が製造工場だ。

 恐らくどこの支店でも、毎日単純な流れ作業が繰り返されている。


 本社に出張に行った同僚からある話を聞いた。

 本社で部品を設計するエリート軍団の中に、極上のイケメンがいたそうだ。

 そのイケメンの名前から部品名が決定したとか。

 鹿島かしまだから『KSMプレート』になったとか。

 エリートがノリで付けた部品名を、私たちは必死で覚えた。

 ここで取り扱う部品数は百を超える。その全部の部品名を覚える事から始まるのだ。

 最終的に、同じ作業を繰り返すだけになるのだが。部品も、自分の工程では十個も使わない。


 最近のニュースで繰り返し報道されているのが、某大企業社員の過労死だ。

 あのニュースを見て同僚が「うちの会社は、あそこよりまだマシなのかね」などと云っていた。

 過労死するまで働かせる会社と比べて「まだマシ」だなんて思う事自体がおかしいのではないだろうか。比べるものからして狂っているので、適正な判断は出来ない。


 大企業といっても、ノリで仕事しているような人と追い込まれてしまう人がいる。

 どこからが分かれ道なんだろう。


    〇


 まだ水曜日だ。週の真ん中、平日のみ。

 本社は水曜と金曜がノー残業デーらしく、エリート軍団は合コンしまくっているらしい。

 私には、愉しみな曜日など一つもない。

 自分とエリートの違いは、どこから生じたんだろう。


 中学生の時、担任教師が「腐ったりんご」の話をした。

 有名な話なので、すでにクラス全員が知っているようだった。

 腐ったりんごがあると周りも腐るみたいな。

 私は何だか、その話はしっくり来なくてでも腐ったりんごにはなりたくないと思っていた。

 もし学校の勉強を放り出して、就職が出来なくて路頭に迷ったら嫌だと思ったから。

 とりあえず学校は卒業して、仕事する人になろうと思った。


    〇


 高校はそこそこの学校を受験した。

 進学校で無理するよりなら、少しくらいレベルが低くても愉しく過ごしたかった。

 高校三年生の時、彼氏が出来た。

 目の前の事に精一杯で、成績なんてどうでもよくなっていた。

 今まで少女漫画を読んで、恋という夢見ていた事が現実になったのだ。

 嬉しくて愉しくて、夢中だった。夢中になり過ぎて私は依存症のようになり、暫くしてフラれた。

 成績は下から数えた方が早かったけれど、私は就職試験に合格をした。

 

 それが今の会社だ。電子部品を使った製品の製造会社。

 大きな会社の東北支店に入社出来た。

 私は大きくホッとした。とりあえず、安泰な仕事に就いたと。

 同期入社の、進学校出身の人たちはエリート課へ配属された。

 私のような普通高校出身の人たちは、単純作業現場へ配属された。

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