第6話 生産性

「同性婚になんの生産性がありますか?」

 ある政治家が声高にそう主張した。

「男性も女性も、社会のために奉仕するべきだ。女性は家庭的であれなどと、旧時代的なことを言うつもりはもちろんない。能力がある者は社会にでて活躍すればいいし、そうでない者は活躍する夫を支えればいい。だが、同性同士で支え合うのは非生産的だ」

 議論の場でも、彼は大口を開け、牙をむき出しにして、ユウに詰め寄った。

 ユウも負けじと言い返した。

「私はレズビアンで、同性婚をしました。ですが、こうして政治家として活動をし、社会に奉仕しています。パートナーのナナは、私を支えつつ、養子を取って立派に育てている。これのどこが非生産的なんですか?」

 ずんぐりと太り額にぬらぬら油をたぎらせた政治家に、鋭い意見を返すユウ。化け物退治をする勇者のような姿だった。

 政治家の言葉は「同性愛者に生産性はない」と一種のスローガンのように拡散されたが、それは彼の思惑と逆の方向に働き、“非生産的”発言は広く物議を醸すことになった。

 学業や仕事に勤しみ、努力をし、懸命に生きていても、LGBTだというだけで社会の毒のように言われる。これこそが差別の典型だとユウは訴えた。ユウを支持するアキラたちの団体も、これを機に、全国的な差別撲滅キャンペーンを打って出た。

 キャンペーンは全国的な盛り上がりを見せ、“非生産的”と発言した政治家は、その失言の責任を問われ、最終的には議員辞職した。

 しかし、ユウに対する風当たりは強いままだった。

「私もこうして社会に出て働いていますが、子どもを三人産み育てています」

 “非生産的”の政治家が失脚すると、今度は別の政治家がユウに突っかかってきた。彼女は少し前まで、料理研究家をしていたミナミという女性で、夫は有名企業の役員だった。

「仕事や性的趣向など、様々なこと言い訳にして子どもを産まない女性が増えていますが、それでは出生率は低下するばかりです。仕事ももちろん大切ですが、女性には子どもを生むという使命があるのを忘れないでください」

 男性が駄目なら、女性でいこうとでも考えたのだろう。浅はかと言うより他にないが、ユウたちに対立する政党が、ミナミを担ぎ、ユウの好敵手として祭り上げたのだ。

「なかなか痛いところを突いてくるわね、議会では、私たちが子どもを産んでいないことを批判してきたわ」

 夕食を食べながら、ユウはそう小言をこぼした。

「大丈夫なの? ユウを失脚させたくてうずうずしているみたいだけど」

「平気よ、まったく問題ないわ。あんな女に、私は負けないから」

 言葉通り、議会ではなんどもユウがミナミを論破した。

 最初こそ意気揚々と吠え、ユウに口撃をしかけてきたミナミだが、論戦に敗れるたびに勢いを失っていった。

「女性の使命が子どもを産むことだと決めつけるなんて、偏見を広げるばかりです。女性のあなたがどうして自ら、女性の自由を奪おうとするんですか?」

 ミナミが大人しくなりだしたところに、ユウが追い打ちをかける。

「自由を奪うつもりはありませんけど……」

 ミナミの言葉は歯切れが悪い。

「女性にだって、子どもを持たない選択が許されていいはずです。それなのに!」

「でも、女が子どもを産まないと……」

「それが決めつけだと言っているんです」

「でも、子どもを産める女性の数は限られています。限られた資源なんですよ」

 ミナミのこの言葉は、数々の権利団体に怒りの火を灯した。

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