第5話 変革期

 男性うけする美貌と、女性から憧れられるさばさばとした凛々しさ。その両方を併せ持ったユウが、世間から注目を集めだすまでに、そう長い時間はかからなかった。

「このたび、政治の世界に足を踏み入れようとお考えになった理由をお聞かせください」

 国会議員選挙に当選したユウの元には、沢山の取材陣が訪れた。

「いくら法的に同性婚が認められても、実社会には差別や偏見が根強く残っています。差別意識を持ってしまうだけならまだしも、その感情から不当に部下を解雇しようとしたり、差別をしない者を悪く言ったり、仲間に差別を強要して差別意識を植え付けたりする人も少なくありません」

「それは、ユウさんが前にいた職場の話と考えてよろしいですか?」

「いえ、違います」

 ユウはため息をついて、首を横に振った。

「どこが、誰が、ではなく、社会全体の問題なんです」

「全体と言いますと?」

「一見すると上手くいっているように見える組織にも、差別の種は埋まっています。根本から是正していかなければ、差別の意識はなくならない」

 差別していないつもりでも、同性愛者を気持ち悪いと思ってしまったり、異性愛者が普通で同性愛は異常だと考えていたり。普段は仲良くしていても、嫉妬や嫌悪の感情が芽生えた途端に、差別意識が爆発することもある。差別の根は深く、表面的な改革では取り除けない。ユウはそう訴えた。

「では、どのような社会の在り方が理想だとお考えですか?」

「男性だとか女性だとか、ゲイ、レズ、トランスジェンダーだとか、障碍者か健常者か、そんなことを意識しなくていい社会になればいいと思います」

「なるほど」

「私も、あなたも、何をしてどう生きているかが重要なんです。身体や外見なんて心の付属物に過ぎない。そうでしょう?」

 ユウは記者を見つめて言う。

 女性記者は、その視線に、頬をほんのり紅潮させた。

「女性でも、男性でも、その存在価値は変わらない。良いことをすれば尊敬されるべきだし、悪いことをすれば軽蔑されるべきだと思います。そんな当たり前なことが、当たり前な世の中になって欲しいと願います」

 ユウの人気は日に日に増してゆき、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。しかし、それを良く思わない者も少なくはなかった。

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