第36話 停学処分


「りっくううううううん、うええええええええん」


「ど、どうだった?」


「うえええええええん、かなちんがあ、かなちんがあああああ」


「ええええ! か、会長?」

 会議が終わるまで俺と妹は放課後教室で二人を待っていた。

 外からは野球部のノックの音と吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。

 基本的に中等部から続けてやる者が多い部活動、既に目ぼしい人材は中等部の時点で各部活の顧問が目を付けており、入学前から練習に参加したり、交流練習等をしている。

 その為高等部での大規模な新入部員の勧誘等はない。

 必然的に帰宅部だった者も、高校で自ら始めようという意思を持っている者以外は、ほぼそのまま帰宅部に入部する事になる。

 

 僕と妹も中等部からの帰宅部なので、そのまま帰宅部となっていた。

 まあ妹は運動神経抜群なので、僕と違い、各部の部長等から、かなり勧誘を受けていたけど……。


「花村さん……だからこれは仕方のないっ事だって言ったでしょ?」


「でもお、でもおおおおお」


「か、会長?」


「ああ、うん、とりあえず結論から言うと、停学一週間という結果になったわ」


「一週間? それは……」

 それは……かなり軽い処分なのでは?

 まあ、反省文や補習等、もっと軽い処分もあるけど、今回は最悪退学まであると思っていただけに、一週間はかなり軽い処分と思えた。


「ふええええええん、かなちんがあああああ」

 僕にしがみつき涙を流す花村さん、いや……あの……シャツがデロデロに……。


「お兄ちゃん……」


「うん……」

 僕と妹はさっきまで話をしていた。今回の処分は僕達に関係するかもと……。

 だからこの処分がどういう事で決まったのか、非常に興味があった。


「会長……かなり軽い処分だと思うんですが?」


「そうね……まあ、大事にはしたくないってのが学校側の本音みたいだけど、結局状況が状況だから」


「状況?」


「それは花村さんが……」

 そう言われ僕は花村さんを見る、僕の腰にしがみつき、涙と鼻水でドロドロになった顔を上げ僕を見る。

 そしてぺたりとその場に座り込みさらに声を上げながら花村さんは泣き出した。

「かなちん……ずっと義理のお兄さんに……色々されているって……前から相談されてて、いつもはうちに避難してたけど、先週家に親戚が集まってて、それをかなちんが知って、それで、それで遠慮して彼氏の家に……うえええええええん、かなちんごべんなさいいいいいい」

 地面にへたりこんで泣きじゃくる花村さん。


「先生方も親御さんから色々確認を取っていたんだけど、まあ仲が悪いのは認識していたみたいね、ただ、親御さんに嘘を付いて、つまり花村さんの家に泊まっていると嘘を付いて、その、男の人の家に行ってたらしいの……それが停学の一番の理由ね」


「……そうですか……」

 僕は会長の話を聞くとそのまま花村さんに目線を合わせるようにしゃがみこむ。

 そして小学生の様に目の下に手を当てながらベタに泣いている花村さんの顔を真っ正面から見る。


「残念だったけど、頑張ったね……」

 そう言って頭に手を乗せゆっくりと花村さんの髪を撫でた。


「ふ、ふええええええん……かなちん……私に内緒で……彼氏……ふええええええん」


「──うん……」

 色々複雑だったんだろう、大親友の停学……その一因が自分にあった。そしてそのせいで金村さんは花村さんに黙って彼の家に……迷惑がかかると思ってなのか? それとも親友よりも彼氏を取ったからか? それは金村さんに聞かなければわからない……。

 そしてその原因が義理の兄との不仲という……その結果に僕も若干複雑な気分になる……。

 

 とりあえず結果は出た、一週間の停学、裁判ではないので基本的に異議申し立ては出来ない、これが不服なら本当に裁判するしかない……。


 学校側は大事になる事は避けないのだろう、場合よっては未成年略取等でその彼氏もまずい状況になりかねない。

 金村さんも、恐らくこれ以上のゴタゴタは裂けたい所だろう停学のつまり今回はこれで終わりという事に。


「花村さん、今、金村さんが一番辛いと思う……だから、ね……泣き止んで」


「……ふぐ、ふ、ふん……うん」


「だからすぐに連絡して、ちゃんと話を聞いて上げて、ね、多分今彼氏さんとは会えないと思うし……頼れるのは花村さんだけだと思うから」


「…………で、でも……」


「ほら! 立って、ハナカナコンビは永遠だって中等部の頃から言ってただろ? また二人の漫才で僕を笑わせて、ね?」


「──ま、漫才コンビゃうわ!」

 花村さんはそう言って僕の胸に向かって、ベタな漫才師の様に水平チョップをして突っ込んだ。


「会長もありがとうございます」

 僕はそのままの姿勢で、会長を見上げてそう言った。


「ううん……私は何もしてない……花村さんが一生懸命先生方に金村さんの事を言ったから」


「……それでも……ありがとうございます……あの約束の件は必ず」


「……う、うん……」

 

 僕達4人はそこで話を終え教室を後にする、会長は生徒会室に向かい、花村さんは下駄箱で靴に履き替えると、「キーーーン」と言いながら手を飛行機の様に広げ、急いで金村さんの家に走って行く、そして妹は……。


「お兄ちゃん……約束って……何の事?」

 二人が居なくなった瞬間、僕の腕を掴むと僕を睨み付けながらそう言った。


「いや……えっと、詳しくは……前回を読んで」


「前回って何よ! 会長と何を約束したの? お兄ちゃん!」


「いやその……買い物にって」


「買い物……って、お兄ちゃん私に黙ってそんな約束…………お、お兄ちゃんの……浮気者!!」


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