第35話 生徒会長の弁護

花村紫はなむらゆかりさんね……うん今日の職員会議で処分の件で話し合う事になっているわね、その……処分が決定するまで極秘だからあまり大きな声では言わないでね?」


「はい……その一応僕のクラスメイトなので……それで、その……なんとかならないかと……それを先輩にお願いしたいって……」

 いつもの様に休み時間に僕のクラス前に来ていた浅見先輩に、そっと花村さんの事をお願いする。

 休み時間、廊下の隅でこそこそと目立たない様に話す僕と会長……。少し嬉しそうに僕と話をしている会長に少し不安が募る……。一人の生徒の人生が掛かっているかも知れないのに……と。


 家庭の事情により彼氏の家に一時避難していた花村さん、それが学校に発覚。

 つい数年前迄、恋愛さえも禁止とされていた古い体質の我が校、さすがに人権侵害だとその辺の校則は撤廃されてはいるが、古い考えの教師も多く、ましてや未成年の高校生が同棲ともなれば処分は免れない。


 しかし、学校側だけの会議で処分を決めるのはどうなんだと、数年前に問題提起をした生徒会長がいた。

 そこで色々と試行錯誤をした結果、生徒が問題を起こした場合、その弁護をする者を置く事が決まり、処分等の会議の際生徒会長とその生徒が指名する生徒1名、合計2名が職員会議に参加する事になった。


 金村さんは勿論花村さんを指名、生徒会長と花村さんの2名が会議で金村さんの弁護をする事になっている。


「言われなくても、私は会長として出来る限りの事はするつもりです」


「で、ですよね、す、すみません」

 キッパリとそう言い切る生徒会長……そうなんだ、彼女は生徒会長なのだから……。


 うちの生徒会長選挙は、いつ自分の身に降りかかるかも知れないこう言う事態に備え、ディベートの達者な者、生徒間で信頼されている者が選出される傾向にあるとの事。

 こう言う所は中高一貫校の利点で、中等部時代からこの辺の情報はかなり聞き及んでいた。


 故に、彼女は、浅見先輩は、現生徒会長は、校内で最も信頼されている生徒と言う事になる。


 スレンダーな身体、金髪の美しい髪、整った顔立ちだけでは無い、中身も最高レベルの人なんだと言う事……なんだけどねえ……でもなんかいつも僕の回りをウロウロしているので、僕は今一凄さが伝わらないんだけどねえ……。


「でも……何でそんなに金村さんの事を? そんな親しい間柄には見えなか……いえ、聞いてはいないんですが?」


 見えなかったを撤廃して聞いていないと言う会長……どっちにしても僕の事を……僕とクラスメイトの間柄を本人なり他人なりに、確認している事になる……うーーむ……やっぱり……ストーカー? まあ今はそれどころじゃない、とりあえず会長のストーカー疑惑は置いておこう。


「中等部からのクラスメイトですし、ちょくちょく話もしているし……」

 僕がそう言うと少々怪しむ目付きで僕を見る生徒会長……いや、まあ……半分は嘘なんだけど……ね。


 そう……僕と金村さんは、そこまで親しくは無い、他の女子生徒とあまり代わりは無い、勿論彼女に恋愛的興味も無い。


 問題は一つ……これが、今回の件が……同棲だから。


 もし……これで……彼女が有無を言わさずに退学なんて事になったら、そんな事例が、前例が出来てしまったら……僕と妹はどうなってしまうか……。


 これは試金石になる……金村さんには申し訳無いけど、僕達の今後を左右する事柄になる……かも知れない。


 条件は大きく違うけど……でも僕達兄妹が付き合ってるとバレた時どうなるか? の参考にこの件が、なるかも知れない。


 退学なんて最悪な事になれば、当然よく知るクラスメイトが居なくなるなんて事態は見たくも無いのだけど、それ以上に僕と妹の今後が、学校での生活が脅かされかねない事に。


「……そうですね……あ!……そ、その……でも……私も人間ですし、何か……その……ご褒美とかあれば……その……最もやる気が」

 僕がそう考えていると、会長が突然奥歯に物が詰まった様な言い方でモジモジしながら僕を見てそう言いだす……ご褒美……。


「……ご褒美? えっとお金はあまり無いんですけど」


「いらない! そんな物!」

 廊下で会長が大きな声でそう言う、その声に廊下にいた生徒が僕達に注目する位……。

 ただでさえ目立つ会長が僕に向かって声を荒げる……うわ……皆こっちを見てる……。

「か、会長?」

 僕は慌てて何事も無いかの様に振る舞いながら会長にそう目配せをする。


「ご、ごめんなさい……えっと……お金なんていらない……」

 会長は周囲に笑顔を振り撒きながら声のトーンを下げ僕にそう言った。


「じゃあ?」


「あ、あのね……その……デー……ううん、今度……その……一度……お買い物に付き合って欲しいって言うか……その……」


「……買い物?」


「ええ……そのね、好きな人にプレゼントを買いたくて……それを選んで欲しい……って言うか協力って言うか……」


「協力……ですか?」


「うん……ほら、私あまり親しい殿方がいないので、男性の方の好みとかわからないから……その……」


「……ああ、そうなんですか……それなら」

 そうか……なんだ……会長には好きな人がいたのか……。

 僕はその言葉に少し安心し……そしてほんの少し残念に思った。


 ひょっとしたら……会長の好きな人って、僕と同じクラスの中に……だからいつも教室の前をウロウロしていたのかも?


「……そう言う、事なら」


「本当に?!」


「……はい!」

 僕がそう言うと会長は満面の笑みになる……今まで見た事の無い笑顔で僕を見た。

 僕は妹が空の笑顔が世界で一番綺麗で美しいって思ってた……でも、今見ているこの会長の笑顔も……意外に……いやいや。


 その会長の可愛い笑顔に、僕も笑顔で答える。


 それにしても、僕は少し自意識過剰なのだろうか?

 金村さんも会長も僕の事少しは……な~~んて思ってたから……。






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