第33話 二人の夜
手に汗がじわりと滲む、心臓の鼓動がいつもよりも早い……。
何だ? まさか僕は緊張しているのか?
ふわふわパジャマに身を包む猫か? ウサギか? この可愛らしい生き物を目の前にして、僕はドキドキが止まらない……。
十数年一緒にいたのに、毎日顔を合わせていたのに……僕はどうしてこうも緊張しているのか?
ついこの間迄妹だった、いや今も妹なんだけど……。
義理の妹とわかっても、ここまで緊張しなかったのに……彼女となった途端に、部屋で二人きりのシチュエーションで、こんなにも緊張するなんて……やっぱり僕の妹への思いは変わったと再認識する……。
まあ、そりゃそうだ……今目の前にいるのは、他でもない僕の愛する彼女なのだ。
想像してみてくれ、付き合いたてのホッカホッカ彼女が夜にパジャマ姿で自分の部屋にいる……。
初めての彼女、初恋の彼女と付き合い始めで、高校生になったばかりで、そんなシチュエーションなんて早々起こり得ないだろう……しかし今、現実に僕の目の前には可愛い彼女がいるのだ。
まあ一緒に住んでるのだから当たり前なんだけど……
妹はいつも着ているピンクと白のふわふわパジャマ……足は膝から下が出ている。
白い生足が僕のフェチ心を擽る。
「お……お兄ちゃん……あまり見られると……恥ずかしい……」
僕の正面で妹は赤い顔で少しうつ向きモジモジと指を絡めながら上目遣いで僕を見る……。
……こ、殺すきか?
そうか……妹は僕を殺しに来たんだ……そうやって僕を萌え殺す気なんだ……。
「ご、ごめん……その……可愛すぎて」
「ひうっ!」
僕がそう言うと妹はさらに真っ赤な顔になり、今度は完全にうつ向いてしまう。
二人向かい合ったまま無言でうつ向く……ど、どうしよう……。
「……えっと……座る?」
「……うん」
とりあえず立って話すのもなんなので妹を座る様に促すと、妹は僕の思惑とは違う場所にちょこんと座った。
「……え! べ、ベット……」
「……あ! そ、そうだよね」
「ううん、いいんだ」
いつも勉強している様に折り畳みのテーブルを妹が出し、僕がクッションを用意する……とばかり思っていたが、妹は普通に僕がさっきまで寝ていたベットちょこんと座った。
僕は妹の隣に座ろうか一瞬悩んだが、別に変な考えは無いとばかりに堂々と横に腰掛ける。
「えっと……どうしたの?」
いきなり部屋の前にいた妹……何か僕に用があるのかと訪ねると妹は僕の目をじっと見て答えた。
「……お兄ちゃんに……会いたかっただけ……駄目?」
真っ赤な顔でそう言うと妹は僕から目を反らしうつ向く……はい今、僕は一瞬死にました。1機死にました。
とんでもない所から弾が飛んで来たシューティングゲームの様に僕の心を破壊する。
どうどう? 可愛すぎるでしょ? これ僕の彼女だよ? 信じられる?
「ううん、ぼ、僕も……会いたかったから」
本当思いが繋がっている……今まさに僕も妹の部屋に行こうって……。
「……嘘……」
「え……う、嘘じゃないよ」
「……だってお兄ちゃん学校でも、帰りでも平気そうな顔で……私ばっかりドキドキして、昼休みも生徒会長の前でニコニコして……」
「え? 僕ニコニコしてた?」
いや、妹が……空が生徒会長に焼き餅を妬いている様だったので……つい嬉しくて……かも。
「してた、こーーーーーーーーんなに鼻の下伸ばしてた!」
妹は人差し指でしょうグイっと鼻の下を伸ばす……うーーん可愛すぎて変顔にならない……。
「そんな事無いよ!」
「……会長さん……お兄ちゃんの事好きだよ絶対」
「え? そう……なの?」
やっぱりそうなのかなあ?
「あーーーーー今ちょっと嬉しそうな顔した!」
「いったいいぃ」
妹は右手で僕の二の腕辺りをぎゅうっとつねった。
「お兄ちゃんの浮気者!」
ほっぺを膨らまして僕の反対側を向く、後ろを向いてキラキラと輝く髪の毛から膨らんだほっぺたが見え隠れしている。マジで何だろうこの可愛い生き物……。
ああ、ほっぺた突っつきたい……抱きしめたい……後ろからギュってしたい。
もう今は恋人同士なのだから……でも……。
まだ恋人になったばかり……それに下には母さんがいるし……。
僕ははやる気持ちをグッとこらえ、妹に向かって言った。
「僕の好きなのは……空だけだから」
そう言うと妹の手に自分の手を重ねる。
妹は僕の方に振り向き、手の甲に押し当てている手を見てニッコリと微笑む。
その笑顔を見て僕は思った。
言おう……皆に本当の事を、僕と妹の関係を……母さんに、学校の皆に言おう……。
祝福して貰える様に言おうって……きっと祝福して貰える筈だから……。
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