第31話 お兄ちゃんの彼女

 

 私はずんずんと二人に向かって歩く……あの人は危険だ……私の頭の中で警告音がなり響いている。


 お兄ちゃんに彼女が出来たら……ずっと不安だった……でも私にはなすすべは無かった……今までは。


 でも今は違う、私は今最強なんだ、妹で彼女……私はお兄ちゃんの彼女なんだ!


「あの会長……私ちょっとお兄ちゃんと話があるんですけど」


 会長がお兄ちゃんに色目を使っている……いつもの光景……今までは黙って見ていた……でも今は違う、今の私にはそう言う権利がある。


 私は邪魔と言わんばかりに会長にそう言った。勿論嘘じゃない、お兄ちゃんと話す事が無い日は無いのだから……。


「あら、妹さんいらっしゃったのね」

 お兄ちゃんと嬉しそうに話していた会長さんは私の方を見て笑顔でそう言う。


「居たら駄目ですか?」

 この人にとって私は邪魔者私は騙されない……その笑顔に隠された表情には……。


「まあ、お言葉ね」

 そう言って尚も笑いながら私を見る……この笑顔に騙されてはいけない……この人は危険だ。

 今すぐお兄ちゃんの腕を取りこの人は私の彼氏だ、私の物だと物と宣言したい……でも……そんな事をしたら……今後の生活に、学校生活に支障が出る……。

 私はいい……お兄ちゃんさえ居ればそれでいい……でもお兄ちゃんに迷惑がかかる事は、なるべく避けなければ。


 兄妹のジレンマ……でも……こうなる事は百も承知……。


 私は会長から目を反らしお兄ちゃんを見る……お兄ちゃんは心配そうに私を見て、そして周りを見回した。


 うん……わかってる……お兄ちゃんも私の事を、クラスでの事を心配している。


 わかっているよ……お兄ちゃんも私と同じ考えなのは……。


 私とお兄ちゃんは心の底でしっかりと繋がっている。

 年子の兄妹として、双子の様に育った私達……同じ物に興味を持って、同じ物に感動して同じ物を美味しいと思って……親でさえ本当の兄妹と勘違いしてしまう程の間柄。


 唯一わからなかった事は……お互いに恋をしていたと言う事……。


 兄妹だから、兄妹が故に……まさかお兄ちゃんもなんて思わなかった、思ってもみなかった……自分が異常だって……自分がおかしいって……そう思い込んでいた。

 それはお兄ちゃんもだった……私は泣いた、お兄ちゃんも……と知って心の中で泣いた、嬉しくて……ではなく……悲しくて……お兄ちゃんが私と同じだと知って……お兄ちゃんも辛い思いをしていたんだと知って……悲しくて泣いた。


 嬉しい……でも悲しい……兄妹じゃないと知ってから……そんな複雑な状態だった


 でも……もうそんな事はどうでもいい、それで悩む必要はない……もう知っているのだから、お兄ちゃんも私の事を好きって事は知っているのだから。


 私達は恋人になったのだ、兄妹で恋人という最強の関係になったのだから。

 今は全部わかる……手に取る様にお兄ちゃんの事がわかる……でも、今まではここで引いていた……お兄ちゃんの迷惑にならない様に……私はお兄ちゃんも為に、控えめな妹を演じていた。


 でも……今は違う……今は前とは違う……ここからは……引かない……引けない。


「ごめん……お兄ちゃん」

 私は聞こえない様に小さくそう呟くと、隣の席の椅子を手に取りお兄ちゃんの横にくっ付けた。


 そして手に持っているお弁当をお兄ちゃんの机に置く。


「会長さんお昼ご飯なので、もし何かご用でしたら食べてからにして貰えますか?」

 お兄ちゃんと一緒に食べるのは私……この時間は私の物……絶対に譲らない。


 学校で唯一お兄ちゃんと一緒に居られる時間、私は縄張りを荒らす敵を威嚇するように、会長と、そして周囲の人に向けてそう言った。


 ここは、ここだけは私の場所、私の物、私の時間……と、そう宣言した。


「……そ、そうね……短い休み時間なのに……邪魔しちゃってごめんなさいね」

 会長さんはも少し考え、そう言って席を立つ。

 私の勢いに押されてなのか? 食べる物を持ってきていない為に一緒にとは言えなかったからなのか?

 会長はあっさりと引いた……。


 でも……これでわかった……わかってしまった。


 この人はお兄ちゃんの事が好きなんだと……私と同じ様に大好きなんだと……。


 お兄ちゃんの邪魔はしたくない……嫌われたくない……。


 私が強く言って、彼女も強く出てきたら、困るのはお兄ちゃんなのだから……。

 私は少し後悔した……今お兄ちゃんは少しホッとしている……彼女に対して好感度が上がっている。


 彼女が、会長がここまでお兄ちゃんの事を思っているとは思わなかった……もっと強く私に当たってくると思っていた。


「失敗したかなあ……」


「え?」


「ううん何でもない……さあお兄ちゃん食べよう」

 私は笑顔でそう言いながら、教室を出ていく彼女の、少し寂しそうな生徒会長の後ろ姿をチラリと見ていた。


 好い人……何だろうな……って、もし私が本当の妹だったら……ああいう人がお兄ちゃんの彼女になったら……喜んでいた……のかもしれない……。


 そう……思ってしまっていた。


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