第27話 僕達の新しい関係

 

 今日妹と恋人同士になった。

 なったと言っても特に変わる事はない……僕と妹は今までの兄妹という関係を維持したまま恋人になるというとんでもない事を目指すという選択をした。


 新しい形のカップル……僕と妹にしか出来ない関係を作る。


 でも……そんなに上手く行くんだろうか……そんな事が可能なんだろうか? 僕は家に帰って来てからずっと考えていた。本当にそんな事が、兄妹でありながら恋人になるなんて事が……可能なんだろうか? 恋人……僕と妹が? 


 妹であり恋人である……家族と恋人……妹と恋人……そんな事をずっと考えながら、僕はいつの間にか眠りについていた……。


 そして僕は夢を見た……昔の、子供の頃の夢を見た……妹と一緒に遊び、一緒にお風呂に入り、一緒に寝る……ずっとずっと一緒だった……毎日毎日一緒にいた、学校でも家でも……。


 家族だった、ずっと家族だった。


 そんな頃の夢……。


 はしゃぐ妹、怒る妹、泣く妹、笑う妹……ずっとずっと見てきた見続けてきた……。


 今までの妹が小さい頃から最近迄の妹が走馬灯の様に現れては消えていく……。


 そんな夢を見ていた。


 そして僕は思いだす……家族になると恋心が薄れるって言われる事を。


 結婚して家族になって、なお恋人のままの気持ちでいる夫婦は少ない……。

 幼なじみがそうだ、ずっと一緒にいる、小さい頃から、家族になると恋心が消える……ときめかない……恋心とは知らない事、知りたい事。

 全てを知ってしまった人には魅力を感じない。

 だから最後はときめく人に持っていかれる。幼なじみは負けヒロインと呼ばれる……。


 一度家族になると恋人にはなかなか戻れないから。


 じゃあ僕と空はどうだったか? 少なくとも僕は空を家族と思っていた。ただ僕は空が誰よりも好きだった……今でも間違いなく……心の底から誰よりも愛している。


 僕は妹に対する気持ち……その好きという気持ちはとっくにカンストしていると思っていた。


 でも、血が繋がっていないと知った時、僕は妹がさらに愛しくなった。そして今もどんどん好きになっていっている、雪だるまの様にその思いはどんどん大きくなって行く。


 血の繋がりが無いから……将来僕達の関係が……壊れてしまうかも知れないから……そんな儚い関係だからこそ尊いと感じる……プラスチックのコップよりもガラスのコップの方が高そうとか、豪華そうとか思うのと同じかもしれない。壊れる物にはそれ相応の魅力があり、壊れる物よりも大事にする……僕と妹の関係をそんな風に思ってしまう。


 今までとは全く違う思い……今日一緒に出かけたのも、今まで買い物等で出かけていたのとは全く違う感情が僕の中に芽生えた……そして今日も妹がさらに好きになった。


 もっともっと……妹と色んな所に行きたい、色んな経験がしたい……そうすればもっともっと好きになると思う……例えば……そう……小さい頃にしていた事を、今すれば……さらに好きになれると思う……。


 今、このベットに妹と二人で寝たとしたら……当たり前だけど、小さい頃とは全く違う感覚になるだろう……。


 僕は小さい頃の妹と遊ぶ夢を見ていた……一緒に遊んで一緒に寝て一緒に起きる夢、そんな仲の良い兄妹の日常の夢……。


 そんな夢を、気分よく見ていたが……ふと目が覚める……。


 今は何時だろうか、せっかく楽しい夢を見ていたのに……なんだろう……今、人が部屋に入って来た気がした……。


 天井が見える……僕の部屋のいつもの天井……。


「スーースーー」


「スーー?」

 寝ぼけているのか? でもはっきりと隣から音が聞こえてくる……寝息の様な音、僕は枕に頭を乗せたまま、そっと隣を見た…………。


「……は?」


 僕の部屋で……ベットの上で……僕の隣で、一緒の掛け布団の中で……妹が寝ている……空が……寝ている……え?


 ど、どういう事? え? あれ? 告白して、恋人になって、一緒に帰って来たよね……でも……今日はそのまま別々の部屋に……え?


 まさか! これって……朝チュン!


 え! 僕……まさか……。


 恋人になってすぐに……手を出しちゃったって事? え? そんな……記憶にないよ……でも……この状況……言い逃れ出来ない……。


「恋人なったからって……何もかもずっとばして? 空と? 経験しちゃった……まさか……え? あれ? 今日が最終回?」


「いや……でも……そ、そうだ、もしそうだとしたら…………空は……まさか今……裸?」

 僕はごくりと唾を飲み、勇気を出して、ゆっくりと空に掛かっている掛け布団を捲った。


「……う、ううん……お兄ちゃん……寒いよお」

 目を覚ました妹が、目をこすりながらそう言った……よ、良かったとりあえず裸じゃない……でも着替えてから寝るって事も……そういえば僕もパジャマを着てるし……いや、まさか着たまま? 初めてでそれってありなの?


「そ、空……その……僕らは……しちゃったの」


「……うん? なにを?」

 いつもの可愛らしいふわふわパジャマを着た妹が眠たそうに半分開いた目で僕を見る……いや何をって……。


「あの……その……エッチ……しちゃったの?」


「……え!」

 空はびっくりした表情で飛び起きる、そして自分の身体をさわり始めた……。


「──そんな……そんな……私覚えてない……お兄ちゃん! 責任取ってもう一度!」


「いや、ちょっと、マジで?」


「お兄ちゃんが私の部屋に来て……まさか寝ている間に……酷い……ズルい、私何も覚えてないよおおお、お兄ちゃんばっかり! ずるいいいいいい!」


「……は? いやいやちょっと待て、ここは僕の部屋だ!」


「……え?」


「ここは僕の部屋! 僕のベット!」


「……あれ?」


「いや……あれ? じゃなくて……」

 辺りを見回してキョトンとしている妹……一体なんなんだ……そもそも僕が寝ている間になんて……するわけないだろ?


「…………ああ! 夢か」


「夢? 今起きてるって、現実だって」

 このドキドキは夢じゃない……くっそ……それにしても、そのパジャマを来た妹は可愛すぎるんだよ、目も赤いしウサギかよ! 目が覚めたらウサギのぬいぐるみがあったら絶対に抱くよね? 今すぐ抱いていい?!


「ううん違うの、さっき小さい頃の夢を見てて、なんとなくお兄ちゃんと、今、一緒に寝たらどんな気持ちになるかなあって、それでそっと入っちゃった」

 そう言うとテヘペロをする妹、くっそ可愛すぎんだろう、テヘペロ最強かよ!


「いや、でも…………僕も……同じ夢……見た……僕もそう……思った」

 同じ夢を同じタイミングで……二人の思いの共有はこんな所でも……。


「えへへへ……」


「……ふふふ」


「じゃあお兄ちゃん久しぶりに一緒に寝よう!」

 妹はそういうと再び仰向けに寝転んだ。


「え? い、いや、駄目だよ」


「大丈夫なんにもしないから」


「……いや、僕がしそうなんだよ……」


「ん?」


「な、なんでもない!」

 もうこうなったら毒を食らえば皿までだ! 僕もそのまま仰向けになって寝ると妹は自分と僕にそっと布団を掛けた。


「えへへへ……懐かしいねえ」


「……うん」

 掛け布団を顔までかけ、布団の中で見つめあう……懐かしい……子供頃こうやって母さんにバレない様に布団の中で遅くまで話しをしていた。あの頃には感じなかった匂いが、空の甘い匂いが布団から香る。


 ほら……僕は今ドキドキしている……そして今、また妹の事が好きになった。

 一体どこまで妹の事が、空の事が好きになるんだろう……そう考えたら僕は少し怖くなった……。だって既にどうしようもなく愛しいのに……これ以上好きになってしまったら……僕は狂ってしまうんじゃないかって……そう思ったら怖くなった。 


「お兄ちゃん……手……繋いでいい」


「……うん……いいよ」

 布団の中で手を繋ぐ、そして指を絡め合う。

 妹と手を繋ぐと、さっき思った恐怖が和らいでくる。早鐘の様に打っていた僕の心臓の音がゆっくりとなっていく……恋人とのドキドキと家族との安心感、その二つが僕の中で同居しているのがわかる。


 そうか……これが……妹との新しい関係……なのかも……知れない。


 そう思いながら僕と妹は手を繋いだまま一緒のベットで……ゆっくりと眠りに落ちていった。

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