第26話 最強のカップル
海岸でまったりした後、ショッピングモールへだいぶ遅いランチを食べに行く。
ネットで調べておいたお洒落なイタリアン、美味しそうにスパゲッティーを頬張る妹を見て益々思いが高まる。
僕は決心していた……今日妹との関係に決着を付けると……。
緊張で全く味なんてしなかったランチを済ませ僕は引き続きチャンスを伺った……。
ショッピングモールで買い物をして、観覧車に乗る定番のコース。
夕方の観覧車で……と……そう思ったけど、乗ったのはシースルーのゴンドラ。
妹がそのゴンドラを見るなり「これに乗りたい!」と僕に言った。
希望通りシースルーのゴンドラに乗り込むと、遠くに見える景色や足元から見える眼下の景色を見てはしゃぎ捲る妹、その姿についつい見とれてしまい、肝心な事を言うタイミングを逸してしまう……だってはしゃぐ妹なんて……可愛さなん最強だもん……。
でも言わなくては……そう決めたんだ……僕は今から決定的な事を、僕達の関係を、これからの事を、妹に話す為にタイミングを伺っていた。
「あのさ、帰りもレインボーブリッジ渡ろうか? 今度は夜景が綺麗だから」
「うん!」
チャンスはさっき渡って来たレインボーブリッジ遊歩道しかない……。
妹と二人で通って来た道を引き返す。
手は殆んど繋いだまま、ご飯を食べている時もテーブルの上で時々繋いでいた。
でも……レインボーブリッジに到着すると僕は妹と繋いでいた手を離した。
「え?」
歩いている時はずっと離す事無く繋いでいた手を、僕が突然離したので妹は戸惑いの表情を浮かべた……。
でも、僕はすぐに手を繋ぎ直す……指を互い違いに絡め恋人繋ぎをした。
「は、はわぁ……お兄ちゃん……」
そう言って妹は少し驚いた表情に変わった。
なぜこんな事をこのタイミングでしたか……これには意味がある……多分妹はわかっていないけど……。
来る時はお台場側の遊歩道を歩いていたが、帰りは晴海埠頭側を選択した。
キラキラと形を変えて輝く観覧車のイルミネーションや色とりどりにライトアップされた夜景も綺麗だけど、晴海埠頭や東京タワー、都内のビル群等、街灯や窓の明かりが中心の静かな夜景が見られる晴海埠頭側、暗くなってからカップルで歩くには、静かな夜景のこちら側がお薦めだ。
芝浦側から歩いた時はエレベーターで昇り遊歩道に出られる。そこから橋の真ん中まで緩やかに昇り坂が続き、その後はお台場までずっと下り坂が続いていた。
つまりお台場側から芝浦方面へ歩くには、そこそこキツイ上りの勾配が続く。
朝から歩きっぱなしの僕達は……かなり疲労がたまっていた。
小学生の様に交互にお互いの手を引っ張り合いながら橋の中腹辺りにある夜景スポットまで到着。
「ちょっと休憩……景色を見よう」
僕は立ち止まり景色を見ながら妹に向かってそう言った。
「うん……疲れたねえ……あ、でも綺麗……」
眼下には赤いランプをぶら下げた屋形船が何隻もレインボーブリッジ下を通過していく。
そして目の前には東京タワー、遠くにはスカイツリー……さらに都内の夜景が一望出来た。
「うん……綺麗……」
その夜景を楽しそうに見つめる妹は、夜景なんかよりも、どんな景色よりもずっとずっと綺麗だった。
僕は再び夜景に目を戻す。一度深呼吸をして緊張を解す。
そしてずっと考えていた事を、言葉をもう一度頭の中でまとめ直す。
よし! 言うぞ! と、心の中で気合いを入れ……僕は妹に言った。
「空……そのまま聞いてくれ、いや下さい…………僕は……ずっとずっと前から貴女の事が好きでした……妹だから……兄妹だからとずっとその思いを隠してた……でも兄妹じゃないと知って……悲しい気持ちと嬉しい気持ちが僕の中でごちゃごちゃになったんだ」
「お、お兄ちゃん?」
僕が突然の告白を始めると妹は驚きの顔で夜景から僕に視線を移す。僕は恥ずかしくて妹の顔が見れない……だからそのまま夜景を見続けながら言い続けた。
「空とこうやってデートをして、お喋りをして、食事をして……手を繋いで……凄く楽しい……そして思ったんだ僕達は何も変わって無いって……まだ兄妹のままでいるって……」
「──兄妹……でも……お兄ちゃん……私……」
「ごめん……最後まで聞いてくれないか?」
「──うん……」
何か言おうとした妹を制して、僕は話を続けた。
「僕たちは血が繋がっていなかった……でも今までずっと兄妹として育って来た、そしてそれは……今も変わらない……僕達は兄妹で居続けられる……って思ったんだ……」
「…………」
妹は黙って僕を見つめている……。
僕は夜景から妹に視線を移す……妹の瞳に夜景が映りキラキラと宝石の様に輝いている。
「でも……僕はもう空と兄妹で居続けられない……知ってしまったから……だから今ここで……僕は空と兄妹を止める……兄妹でいる事を止める……」
「お兄ちゃん……」
妹の瞳から涙が溢れる、また泣かしてしまった……でも……まだだ、まだ言い終わっていない。
「一生続く関係を捨てる……さっき手を離した様に……空と兄妹を止める……」
「ふ、ふぐ、……」
空が泣き始める……僕も感極まって涙が溢れそうになる……。
「そして今から……この瞬間から……空が許してくれるなら、僕はこの手の様に繋ぎ直したい……」
僕は涙をこらえ繋いでいる手を持ち上げた。
「お兄ちゃん?」
「空……僕の恋人に……なって下さい……」
「お、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんじゃなくて……陸って……名前で呼んでくれないかな?」
まだ僕達の関係は、兄妹としての関係は壊れきっていなかった。
さっき同じ景色を見て同じ様に感動して……今までと一緒だって僕はそう思った。
このまま兄妹でいれば居続ければ一生変わらないでいられる、一生……空と兄妹として居続けられる……そう思った……でも……嫌だ……それは……もう出来ない、僕は空を愛してる、もう……どうしようも無く愛してしまっている。
だから……僕は決心した。一生続かないかも知れない……でもそれでも先に進みたい……兄妹として立ち止まるのは嫌だって……そう思った。
そして……それは空も……思ってくれている筈……。
「…………いや」
「え?」
「いや!」
空は泣きながら僕にそう言った。
「──いや……か……」
絶望が僕を襲う……空は僕と恋人になる事を拒絶した…………と思った。
「恋人にはなる! でもお兄ちゃんはお兄ちゃん! ずっとそう呼んで来たんだから!」
「────ええええええ?」
「お兄ちゃん! 好き好き大好き! 私、お兄ちゃんの恋人になる!」
「え? いやちょっと……」
い、意味がわからない? 妹は僕の恋人になる事を嫌だって言ったんじゃないのか?
「何で止めるなんて言うのお兄ちゃん? 私は嫌だよ」
「いや……でも……」
「ずっと兄妹で居続けてそして恋人で居続ければ一生一緒でしょ?」
「ば! そ、そんな事……」
「出来るよ! だって私はずっとそう思って来たんだから、だからこれからもそう居続ければ、思い続ければいいんだよ? そうすれば、私達は兄妹で恋人……最強のカップルになれるんだよ?」
「そ、空………………そうか……そうだよな」
そうだ……そうだった……僕は妹との買い物をずっとデートって思ってた……ずっと妹の事を女の子として見ていた、恋人ってずっと想像してた。
「お兄ちゃん!」
空は繋いでいる手を離しそして僕に抱きつく……僕は空を……妹をギュッと抱き締め返す。
どちらかを捨てないと、壊さないと先には進めない……そう思っていた……でもそんな事はない……温故知新って言葉もある。僕達の関係は、同じ関係の人は、他にはいないんだから……。
だから壊す事はない……無かったんだ……僕達は今のままで進める……何も変えずに進んで行ける……そうすれば妹の言った通り……最強のカップルになれる……一生続く……続けられる……兄妹で恋人の最強のカップルに……。
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