第21話 お兄ちゃんに近付く者は……。


 お兄ちゃんと手を繋いだ……もう今までとは違う……控えめな妹を演じる必要はない……お兄ちゃんの手……暖かい……嬉しい。


 でも、あまりグイグイ迫って行くとお兄ちゃんが困っちゃうかも知れない……もっとくっつきたいって思ったけど……腕にしがみつきたいなんて思っていたけど……お兄ちゃんに迷惑がかかるって遠慮していたら……。


「りっくん~~腕組んで良い?」


「えーーー?! だ、駄目だよお」


「こら花! 抜け駆け禁止でしょ! 皆に怒られるよ!」


「えーーー私抜け駆け協定なんて参加してないしい~~、別に怒られてもいいし~~えーーい!」


 そう言いながら花村さんはお兄ちゃんの腕に抱き付くってえええええ!。


「だ、駄目だって!」


「こら! 花!」

 金村さんはお兄ちゃんの腕にしがみつく花村さんの腕を掴み剥がそうとした。


「あああああ、もうちょっと、もうちょっとだけええ」

 金村さんに腕を引っ張られた事を逆に利用し、花村さんは剥がされない様にさらに力を込めてお兄ちゃんの腕にしがみつき、その豊満な二つの突起物をお兄ちゃんの腕に押し付ける。

 ああああ、止めてえ、お兄ちゃんに、お兄ちゃんに、そんな物押し付けないでええええ!


 今すぐ奪還したかった、本当は私もそれくらいしたかった。手だけで、手を繋ぐだけで我慢したのに……ずるい……そしてあのおっぱいも……ずるい……。


 花村さんは必死にしがみつくも、強引に金村さんに引き剥がされた。


 それはほんの一瞬の出来事だったけど、私は……かなりのショックを受けていた。


 お兄ちゃんはあまり気にせずに私を見てニッコリと笑う……私も笑い返したけど……内心は……内心は! ああ、同様を隠しきれない……うううう、花村、覚えとけ……いつか……してやる! 


 ああ、駄目……お兄ちゃんの事を考えると、歯止めが聞かない、焼きもちが、嫉妬心がどうにもならない……お兄ちゃんに近付く女の子は全員死ねばいいのに、って思ってしまう……。


「よーー朝比奈! 空ちゃんもお早う」

 そして私がどうやって花村さんを……しようか考えていたら、突然背後からお兄ちゃんの肩を抱くクラスメイトの……この人誰だっけ? 名前は覚えてないけど……確か『いが』なんとか……イガグリ? って男子がお兄ちゃんの肩に手を回して馴れ馴れしく挨拶をしてくる。


「お前うぜえ」


「なんだよぉ俺達親友だろお?」


「だーーかーーらーー親友になった覚えはねえ」

 そうだそうだ! 馴れ馴れしいぞ! 前言撤回、女子だけじゃない、お兄ちゃんに近付く男子も……死ねばいいのに……。


「はうぅふわわわ……」

 私がそう思っていると隣にいた金村さんが目を輝かせながら奇声を発して、お兄ちゃんとイガ……何とか? の二人を見つめて……ああ、もう、お兄ちゃんで変な想像しないで! どいつもこいつも死ねばいいのに……。


 いけない、自分の性格がどんどん悪くなっていく……でもお兄ちゃん以外になんて、どう思われても別にいい、そんな事に興味は無い……お兄ちゃんさえいればいい……。


 私の中で皆にバレてもいい……お兄ちゃんは私の物だ……という思いが膨れ上がる。


 でもここで宣言出来る程確かな物は無い……ただ兄妹ではなかったというだけの話し。


 でも遠慮していたら……お兄ちゃんを誰かに取られる可能性が……でも……お兄ちゃんに迷惑が……私は葛藤していた。


「あら、お早う陸君、偶然ね」

 そう言うって考えていた直後、どう考えても待ち伏せしていた悪役令嬢、金髪の生徒会長、阿佐見先輩が目の前に現れた……。


 うん……こいつもだった……ああ、もう皆揃って死ねば良いのに……。


 これは遠慮している場合じゃない……私は覚悟を決めた。


 やれる事はやろう……お兄ちゃんにアピールしよう……家でも学校でも……。

 

 私はそう決心した。



◈ ◈ ◈


 そして昼休み私は早速行動に移す。


「ごめん、今日はお兄ちゃんとちょっと話したい事があるんだあ」

 私はそう言っていつもお昼を一緒に食べる友達に謝りお兄ちゃんの元へ向かう。


「お兄ちゃん一緒に食べよう!」


「……え? あ、ああ、うん……」

 お兄ちゃんは一瞬戸惑うも、お弁当を手前に置き直し私のスペースを開けてくれる。

 私は不在になっている前の席の椅子を借りてお兄ちゃんの前に座った。


 家では見慣れているはずなのに、距離が近いせいかドキドキしてしまう。

 学校で一緒に食べるのなんて、小学生で同じ班になった時以来?


 お兄ちゃん……あ、駄目だ、これは駄目な奴だ……お兄ちゃんと近すぎる……胸がキュンキュンしちゃう……苦しくなっちゃう……。


「あ、ちょっと狭いね、机も借りよう」

 そう言って机を移動させお兄ちゃんの机にくっ付ける……離れてしまって残念だけど、あのままじゃご飯も喉を通らない……これでもいつも家で一緒に食べている時よりも近い。


 お兄ちゃんは私に向かって微笑みながらお弁当を食べ始める。

 

 はきゅううん、お兄ちゃんの笑顔が……ああ、可愛い、お兄ちゃん可愛すぎる。まだ食べてないけどお兄ちゃんの笑顔でお腹一杯になる……お兄ちゃん……ご馳走さま……。


「あ、それ私が作ったの、美味しい?」

 ダメダメ、今日からどんどんアピールしようって決めたんだからと、私はお兄ちゃんがベーコンアスパラ巻きを食べた瞬間そう言った。


「え? そうなんだ」


「うん、今ね、一生懸命お母さんに料理を習ってるんだ」


「へーー知らなかった、朝早く起きて?」


「うん……あ、でも夜に準備するからそんなに早く起きなくても平気」


「ううん、でも凄い、大変だよね、ありがとう美味しいよ」

 お兄ちゃんがそう言って褒めてくれる……ああ、嬉しい……涙が出そうになる……でも我慢だ……ここで泣いたら駄目だ。


 私は嬉しくて飛び上がりそうになるのを抑えながら、ふと周りを見回した……うん……大丈夫、今の所注目はされていない……兄妹でお昼ご飯はセーフだ。


 もう今までとは違う……私は我慢しない……お兄ちゃんとこれからも繋がる為に……私は戦う……お兄ちゃんは誰にも渡さない。


 

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