第17話 思いの共有


 妹の部屋の前、勇気を出してノックをする。


 返事はない……。


「入るよ」

 僕はそう言って扉を開けた。


 思えば中学に入った頃から僕も妹もお互いに断りもなく部屋の扉を開けなくなった、部屋に勝手に入らなくなった。


 小学生の頃迄は勝手に入っても、入られてもなんとも思わなかった。むしろ来てくれて、一緒に居られて、側にいてくれて嬉しかった。


 でも……中学生になった頃から部屋にいない時や寝ている時、返事がなければお互いの部屋に入る事は、ほぼしなくなった。


 思春期だから? そう思っていた。

 

 でも違う……それは違った……入らなくなった理由……それは……好きだから、嫌われたく無いから……妹は……女の子だから……。


 そう……僕は妹の事を好きと、一人の女の子として好きだと自覚してから……勝手に部屋に入れなくなってしまった。


 そして妹も丁度同じタイミングで僕の部屋に入らなくなった。


 ずっと前から好きではいた……でもこの気持ちが恋だってわかったのは中学生になってからだ……初恋は妹……今でも妹以外の人を好きになった事は無い。


 そして妹も……そう……そうなんだ……僕と妹は同じなんだ……ずっと前から同じだったんだ。


 同じ食べ物を美味しいって言い、同じ本を読んで泣いたり笑ったりして、同じ景色を見て感動したりした。

 

 容姿は違うけど、双子の様に育った僕達兄妹……でも違う……違うんだ。


 僕は妹が好きだと言ったから、僕も好きになった、妹が面白いと言ったから面白いって思った、妹が感動している姿を見て僕も感動したんだ。


 主体性が無い、自分の意志じゃない……一瞬そう思った。


 でも……違う……そうじゃない……それは妹も一緒だったんだ。僕が好きそうだから妹は好きって言ったんだ、僕が感動しそうだから妹は感動したんだ。


 そしてそれは僕も同じだ。

 妹が好きそうだから、妹が面白そうだから……。


 僕達は一心同体……同じ考えを、同じ思いを、相手の思いを、ずっとずっと共有していたんだ。


 つまり……何故妹はさっき泣いたのか……そう考えたら直ぐにわかった……。


 僕が妹だって言ったからだ……ずっと兄でいるって言ったからだ……妹は僕の事を好き……だから僕も好きって言わなければいけなかった。それは兄妹として、今までの僕達兄妹として、同じ物を好きって事を共有しなければいけなかった……。


 共有出来ていない事に妹は絶望した……今までそんな事は無かった……思いが初めて共有出来なかった……。


 そんなの兄妹じゃないって……そんなの僕と空じゃないって思ったんだ…………。




 僕はベットで膝を抱えて泣いている妹にそう伝えた……。

 僕達は今、思いの共有が出来ていないって事を、僕は嘘をついたと言う事を妹に伝えた。


「……お兄ちゃん……ごめん……よく……わからない」

 妹は膝から顔をそっと持ち上げ、泣き腫らした顔で僕を不安そうに見ながらそう言った。

 うん、そうだね……結論から言ってしまったので、妹はわからないだろう……。


 僕は改めてそう思った経緯を、さっき深く考えた事を、今までの僕の思いを、隠していた思いを語った。


「……ごめん……僕はずっと嘘をついてた……何年も空に……嘘をついてた……さっきも嘘をついた……」


「……嘘」


「そう……僕はずっと演技をしていたんだ。空のお兄ちゃんとしての演技を……だからごめん……ずっと騙して……ごめん」


「…………」

 妹は何も言わずに僕をじっと見つめている。僕も暫く妹を見つめた……良いのだろうか……この関係を壊しても……本当に……良いのだろうか? これを言ったら僕と妹の関係が全部壊れる……かも知れない……もし妹がそうじゃ無かったら……僕の思っていた通りじゃ無かったら……僕の勘違いなら……全てが終わってしまう。


 でも……やるって決めた……そう決めたんだ。


 そして……僕は覚悟した……今から壊す……妹との関係を、思いを……全部壊す。


「僕達はずっと兄妹だった……ずっとずっと前から兄妹だった……でも……もう嫌だ……空となんか兄妹になりたくない……知ってしまったから……僕達は兄妹じゃ無いって……知ってしまったから……」

 

「──お兄ちゃん……」


「僕は……空が好きだって……ずっとずっと前から好きだって思ってた……兄妹なのに……ずっと好きだって……そんな……気持ちの悪い……そんな兄だったんだ……ずっと隠してた……ずっとずっと隠してた……ごめん……ごめん……なさい」


 涙が出た……悔しくて、憎くて、悲しくて、そして妹が好きすぎて、恋しくて……愛しすぎて……あらゆる気持ちが感情が涙となって溢れてくる……。


「お、お兄ちゃん!」

 その時、妹が僕のお腹の辺りに抱きつく、そして僕をベットに押し倒した。


二人でベットに倒れ込むと妹は僕のお腹に抱きついたまま顔を埋めた。


「わ、私も……ずっとずっと隠してた……ずっとずっとお兄ちゃんを騙してた……ずっとずっと……妹を演じてた……自分が気持ち悪いって思ってた……だから……私も同罪……同罪なの……」


 妹がそうカミングアウトした……やっぱりそうだった……思った通りだった……。


 そう、僕はさっき考えた時……ひょっとしたら……妹も僕と同じなのでは? と思った、そう思った瞬間……全てわかったんだ。


 僕達は思いを共有していた。小さい頃から双子の様に育った僕と空はどこの兄妹よりも兄妹だった……親が忘れてしまう程の完璧な仲の良い兄妹だった。


 そして……本当に血の繋がった兄妹だったら……こんな思いにならなかったのかも知れない……僕たちは無意識に感じていたんだろう……血が繋がっていない事を……。


 そんな不安定な関係だから、僕達は兄妹でいるために、仲良くするために、お互いの好きが共有された……相手の好きな物が好きって思う様になった。


 そしてさらにこう思ったんだ……僕は妹が好きな自分が好き……妹は僕が好きな自分が好き……そしてその好きな自分、の好きな人……になった。自分の中で好きがどんどん増幅され、そしてその増幅された思いが共有された。


「……良かった……好きでいてくれて」


 僕は妹が好き……自分が好き……妹を好きな自分が好き……それでよかったんだ。

 気持ち悪くなんか無かった……僕は自分が気持ち悪いって、そんな考えを持つ自分が気持ち悪いって、実の妹が好きな自分が気持ち悪いってずっと思ってた。


 でも違う……妹が好きだから、妹が僕を好きだから、僕は自分が好きになった……そしてさらに妹も好きになった……ただそれだけだ。


 そして妹も……同じように思っていた……。


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! 好き好き好きなの!」

 僕のお腹にしがみ付きながら妹はそう叫んだ……。

 僕はそっと妹を抱きしめそしてその顔をそっと持ち上げる。


「僕もだよ……僕も好きだ、大好きだ……空を……愛してる……」


 僕がそう言うと妹の顔が歪む、くしゃくしゃに顔を歪ませそして目からボロボロと涙が溢れる。


「う、うえええ、うえええええええええええん、お兄ちゃん、うえええええええええええん」

 妹がまた泣いた、もう……ここの所泣いてばかりだ……でも、一つだけ違った。


 その歪んだ顔は、妹の泣き顔は今までで最高に美しかったそして……。

 

 ボロボロと涙を溢す妹の目は、今までに無いくらい、幸せに満ち溢れていた。



◈◈◈


 少なくとも僕達は昨日迄は兄妹だった。世界で一番仲の良い兄妹だった。

 仲が良すぎるが故に兄妹でありながらお互いの思いが恋に迄発展してしまった。


 そして僕はそれを今ぶち壊した、兄妹という関係を、思いの共有という手段を……全部壊してしまった。


 もう元には戻れない……もう僕達は今までのような兄妹には戻れない……だから……これから……妹と一から築いていかなくてはならない、今日から、今から、妹との関係を、新しい関係を築かなくてはならない……。


 義理の兄妹? 恋人? 赤の他人? どんな形になるか全くわからない、一緒に住み同じ学校に通う僕と妹……。

 この先かなりの苦難が待ち受けてるかも知れない、逆に物凄く楽しい事になるのかも知れない……。


 この先一体どうなるのか? でも……妹となら……一緒に行ける、築ける……好きだから、大好きだから……。


 僕と妹の新しい、全く新しい関係は、一体どうなるのか……。



【あとがき】

 

 この後に始まるイチャイチャ読みたい方は是非とも応援宜しくお願いします(笑)

 ちなみにカクヨムはなろうよりも増量して投稿してます。


★レビューとフォローそして♥エピソードに応援等の応援をお待ちしております。


 特に! レビュー★は重要で、作者のやる気につながりますので、是非ともよろしくお願いいたします。


 ★レビューは文字を書き込む必要はありません、トップページの下若しくは、最新話の下から星の数を入力出来ますので、是非とも宜しくお願い致しますm(_ _)m


カクヨムコン短編出品作品

ラブコメ部門

『妹に彼氏が出来なかったら、俺が責任を取る事になった。』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893367777

恋愛部門

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893419319

「ツインズ」

他にも数点出してますので合わせて宜しくお願いしまーす。(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る