第12話 お兄ちゃんの腕


 入学式が終わり掲示板に貼られているクラス発表を見た……やったやったお兄ちゃんと同じクラスだ!

 

 私は嬉しさのあまり、隣にいるお兄ちゃんに抱き着こうって思ったけど……ここは学校だった事を直ぐに思いだし……自重した……ちぇ。


 とりあえず、お兄ちゃんの腕を掴んで思いっきり笑った……するとお兄ちゃんも笑顔で応えてくれた……嬉しい? 私と一緒で嬉しい?。


 私が凄く凄く嬉しいって気持ちをお兄ちゃんにぶつけると、お兄ちゃんも凄く凄く嬉しいって返してくれた。

 ああ、可愛い笑顔……お兄ちゃんは天使の様に微笑んでくれた……お兄ちゃんもぉ……わらしとぉ……同じクラスになってヘぇ……喜んでくへたぁ……はああうううぅう、きゅううううん、おにいしゃん……しゅきぃい……。


 だ、駄目だ……私は朝からお兄ちゃんの事を意識してしまっている……お兄ちゃんを見ると脳が蕩ける、何も考えられなくなる、その場にヘタリこんでしまいたくなる。

 

 今まで学校では、お兄ちゃんの妹として振る舞う……恥ずかしくない妹として頑張るって、ただそれだけを思って過ごしてきた。


 私が学校で確固たる地位を作っているのはその為、でも最近それが仇となっている……友達が多いせいでお兄ちゃんとの生活が阻害されている。


 でも……それでちょうど良かった……だって私は妹だったから、この恋心は表に出してはいけなかったから、学校でお兄ちゃんにベタベタするのは、妹として、ううんお兄ちゃんが迷惑するから……。

 

 でも……気になる……気になっている……いつもお兄ちゃんの視線が、お兄ちゃんの行動が……そして……周囲の女子達が、皆お兄ちゃんを見ている事が常に気になっている。


 お兄ちゃんは気がついていない……自分はモテるって事に……。


 お兄ちゃんは可愛い系男子……隠れファンと言うか、クラスの同級生の女の子達は抜け駆け協定を結んでいる。


 中性的な魅力……腐の付く女子達は女の子と付き合ったら魅力が半減するとかしないとか……。

 バカらしくも中等部の時、女子の間でそんな話し合いがあった。


 私は妹だったからその協定外だったんだけど……でも……もし妹じゃない、血が繋がっていないってバレたら……。


 私はどうなってしまうんだろうか? 今まで築いて来たものが全部崩壊する……ううんそれだけじゃ済まない、皆を騙して来たって思われ、最悪いじめられる迄ある……。


 私だけならそれでもいい……お兄ちゃんさえいれば私はどんな事にでも耐えられる。

 でも……それでお兄ちゃんに迷惑生じるのは嫌だ……お兄ちゃんの学校生活脅かされるのは絶対に避けなければいけない。


 だから今は言えない……私達の本当の事を……。


◈◈◈


 クラスでの顔合わせも終わり、帰ろうとした所私はいつもの様に帰る間際友達に囲まれた。


 でも……今日からは、帰りもお兄ちゃんと一緒に……帰りたい。


 お兄ちゃんは中等部の時と同様に私に気を利かせて一人先に教室を出ていく……。


 ま、待って私も一緒に……今は片時もお兄ちゃんと離れたくない……私は周りの友達に「今日はお兄ちゃんと用事がある」と言ってお兄ちゃんを追いかけた。


 すると教室の扉をふさぐ様に、女子二人が廊下を伺っている……。


 よく見ると、その二人は卒業式の時にお兄ちゃんからボタンを貰っていた花村金村凸凹コンビだった……ああ……同じクラスだったのね。


「な、何してるの?」

 お兄ちゃんを追いかけなきゃいけないのに! 私は邪魔と言わんばかりに二人に問いかける。すると小さい方の花村さんが扉の隙間から外を伺い私の方を向かずに言った。


「今、外でりっくんと会長さんが何か話してるでやんす……」

 り、りっくん? やんす? 何を言ってるのかわからない私に、大きい方の金村さんが私を見て言った。


「お兄さんと会長さんが何か話してる……って」


「──お兄ちゃんと……会長!」

 入学式の時に在校生代表として出てきた生徒会長に見覚えがあった。そう……あれは……阿佐見先輩だ。


 中等部の時から何かとお兄ちゃんに近付いていた先輩……どう考えてもあれはお兄ちゃんを狙っていた。まずい……先輩だと抜け駆け協定の範囲外だ。


「お、お願い……通して……お兄ちゃんの所にいかないと……」

 私がそう言うと二人は素直に扉から離れてくれた。私は扉をそっと開け二人を見るとなにやら阿佐見先輩がお兄ちゃんに話している。私は二人の会話、阿佐見先輩が何を言ってるか聞き耳をたてた丁度その時、阿佐見先輩は「これから一緒に……」ってお兄ちゃんを誘うセリフを吐く。


 『駄目!』


 私は考えるよりも先に身体が反応した。


 素早く扉から廊下に出ると、お兄ちゃんと阿佐見さんの間に飛び込む、そして咄嗟にお兄ちゃんの腕を掴みそのまま流れる様にお兄ちゃんを連れ去った、去ってしまった。


 駄目だ……いつもならこんな失礼な事はしない、しちゃいけない……でも今日は、今は……お兄ちゃんが他の女の子と仲良くしてるのが耐えられない……お兄ちゃんは私の物……誰にも上げない、上げたくない……。



 そしてそのまま、お兄ちゃんの腕を掴み続け少し強引だったけど一緒に帰宅の徒につく。

 

 お兄ちゃんの細い腕……制服の上からでもわかるお兄ちゃんの腕の形。

 女の子とは違う、細いけど筋肉がついていて少し硬いその腕を少し強く握る。


 お兄ちゃんは何も言わず、私に腕を掴まれたまま歩いている。

 

 本当は手を繋ぎたい……腕を組みたい……お兄ちゃんの腕にしがみつきたい……でもそんな事したら…………だから今は腕を掴むだけ……でも……これだけでも安心する……お兄ちゃんと繋がっているって……そう思える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る