第11話 離せない? 離したくない?

 衝撃的な事があった翌日僕たちは入学式に向かう。

 父さんは単身赴任、母さんも仕事があるとの事で両親は不参加。

 まあ、中高一貫校なので高等部の入学式はあまり意味をなしていない気がする。


 とはいえ、今日から高校生、真新しい制服に身を包み妹との高校生生活が始まる事は大きな変化だ。

 

 中等部は制服の着用は義務だったが、高等部からは私服通学も可能となる。妹は私服通学をするとの事なので、この先滅多に見られない妹の制服姿を目に焼き付ける。

 まだ散りきっていない桜がヒラヒラと舞う中で妹と一緒に歩く通学路……妹の髪や真新しい制服にピンクのハートが乗っかる姿は凄く愛らしく、まるで普段の僕の脳内を映し出しているかの様だ。ああ、眩しい……ああ、美しい……なんて可愛いんだろうか……僕の天使は……。

 

「お兄ちゃん……あまりジロジロ見られたら……恥ずかしい」

 僕の視線に気が付いた妹は頬を赤らめながら僕を見る。その恥じらう姿がまた凄く可愛くて、僕はさらに妹をガン見してしまう。


 いや、まあ、一緒に暮らしているのだから頼めば着てくれるだろうけど……さすがにそれは変態チックなので、今日たっぷりと見納めさせて貰い、また次の楽しみに取っておく事にする。


 

 やはり高等部への入学式なのでわかってるでしょ? 的な色々と雑な進行、回りは知っている奴らばかりで感動もあまり無く終了し、クラスでの顔合わせとなる。


 入学して初の顔合わせ、普通はドキドキしたり、高校デビューを目論んだり、「宇宙人は私の所へ来なさい」とか言ってる奴にドン引きしたりするんだけど、これまた中高一貫のうちではあまり意味はない。


 ただ嬉しい事が一つ、妹と久しぶりに同じクラスになった。

 妹はそれを知った瞬間僕に抱きつこうとしたが周りの目を気にして自重した……ちぇっ。

 

 入学式場の体育館から高等部の教室に移動する。まあ、わかってはいたけ

どやっぱりクラスの連中は知ってる顔ばかりだ……。


 そして妹は相変わらずの超人気者、教室へ入るなり皆妹の元へ集まって行く。


 そして僕はと言うと……。


「うえーい、陸おひさ」

 僕がとりあえず決められていた自分の席に着席すると、後ろから茶髪の少し軽そうな男が唐突に声をかけて来る。


「おお! えっと……なんだっけ?」


「うーーわひっで、五十嵐いがらしだよ! お前の親友の五十嵐快いがらし かいだよ!」


「いがらしかい?」


「疑問形で呼ぶな!」


「あ、ああ久しぶりだねえ、えっと……確か……5年振りだったっけ?」


「何でだよ、小学生のお前何か知らねえよ、中等部1、2年の時同じクラスだっただろ!」


「……いや、『親友』のって言われたから……」


「……わかった言い過ぎた、そこまで仲は良く無かったな」


「ああ、そうそう思い出した、拳でおおいに語り合った仲だったな、久しぶりに殴っていい?」


「何でだよ!」

 いや、ごめん……僕は男には、てか妹以外には興味無いもんでつい……。


「いや、それにしてもさあ、やっぱりお前の妹可愛いよなあ、中学の時から俺……ぐはあああああ」


「あ、ごめん……つい」

 あ、ごめん思わず手が出ちゃった。


「なにすんだ! つい、で殴るな!」


「ごめんごめん、つい……手加減しちゃった、次は本気で」

 僕はもう一度、今度は確実に仕留めるべく思いっきり拳を握り、五十嵐の眉間を狙って!


「うわああああ、や、やめろおおお!」



 と、まあ……こんな感じで僕の周りには妹と違ってろくな奴が来ない……そしてその殆んどが妹目当てという……妹を狙う輩は片っ端から殴ってやる……。


 まあ、実の妹だって思ってた僕でさえ恋に落ちるぐらいだもんなあ……そりゃ誰もがホレるよね……。


 今までずっとこうだった、だからこんな事には慣れっこだった、だったはずだけど……でも今は……。


 僕は楽しそうに友達と話す妹の事をじっと見つめる……駄目だ……なんか落ち着かない……。


 今までとは違う不安が……もし妹に彼氏が出来たら……今までもそれは嫌だったけど、今は……それを考えると不安で仕方がない、そしてどうしようもなく辛い……苦しい……。


 もしそうなったら、僕は妹と他人になってしまうような……そんな気持ちになる。

 幸いにも妹が喜んで話しているのは女子ばかり、周りの男子は遠巻きに見ているだけ……だった。


 

◈ ◈ ◈

 

 

 今日は入学式とクラスの顔合わせ担任副担任の紹介だけで終わる。


 妹はいつも通り放課後も皆に囲まれ始めた。


 中等部の時と同じ、登校は一緒にだけど帰りはほぼ別々に帰る。なので僕はいつも通りに一人家路に着こうと教室を出た。するとそこには……。


「ようこそ高等部に!」


「げ……」


「げって何よ!げって」


「げ……元気一杯で何よりです阿佐見先輩」

 何故か上級生、2年の阿佐見先輩がそこにいた。

 中学の時も何故かちょくちょく僕の前に現れていた阿佐見先輩……。

 

 高等部に行ってもたまーーに中等部の門の前にいたりしてたけど……今日わざわざ僕の教室前迄……一体……なんなんだ?

 

 阿佐見先輩は、どこのかの国のハーフで髪は金髪しかもその髪を巻き巻きに巻いている……まるで古いアニメや漫画の様な、異世界のお姫様の様な髪型。そして着ている服、先輩は今制服姿なんだけど、うちのとは違う制服……フリルをあしらったオリジナル制服? を……お召しになっている……いやはやなんとも……言えないセンス……。


「ワタクシが直々にお祝いを言いに来て上げたのよ、嬉しく思いなさい」


「はあ……」

 それ自分で言う? 


「そうそうワタクシ、今生徒会長をやらせて頂いてるの、尊敬していいわよ」


「はあ……」

 それも自分で言う? いや、言われなくても入学式の時壇上で喋ってたので知ってる……それも殆んどが自分の自慢話で、進行の先生が止めに入ってたし……。

 会場は大爆笑だったけどね……お笑い生徒会長……。


「そ、それでね、お祝いを、貴方のお祝いを兼ねてこれから、その……ご一緒に!」


「お、お兄ちゃん! 帰るよ! 今日はお母さんがご馳走作っるって! 家族だけで食事するって言ってたから!」

 僕が廊下で話している最中、妹が突然阿佐見先輩を遮る様に僕の前に現れると、そのまま先輩に軽くお辞儀をし、僕の腕を掴み少し強引に先輩の前から引き剥がされた。

 

 な、なんだ? 妹は必死の形相で僕を強引に引っ張る。


「そ、空?」

 今までこんな事無かった……僕が誰かと話してる時、妹は終わるまで待っててくれた……一体?


「ごめん……お兄ちゃん……」

 下駄箱の前でようやく掴む力を緩め素直に謝る妹……。


「いや、いいんだけど……どうかした?」

 あの悪役令嬢から引き離してくれたのは寧ろ感謝なんだけど……。


「……ううん……なんでもない……さあお兄ちゃん帰ろう」

 素早く上履きを履き替え僕の腕をまた掴む妹……なんだろう、そう言えば朝もやたらと僕の腕を掴んでいた……。


 なんかそれがまるで妹が僕を離さない、離したくない……ずっと一緒にいたいって言ってる様な、そんな気がした。

 

 やはりまだ義理の兄妹だった事で不安に感じてるのだろうか?

 僕はもっと兄らしくしなければいけないのか?


 もし僕が妹の事を好きだって言ったら……僕たちの兄妹としての関係は崩壊してしまうんじゃないか?


 でも……でも……もしかしたら……妹も…………いや、そんなわけないか……。

 

「じゃあ……帰ろっか……」


「うん……」

 ニッコリと笑う妹の笑顔……もしも、もしもこの笑顔が見れなくなったら僕は……生きていけない……。


 でも……この思いはどうすればいい、僕は今後……妹とどう接したらいいんだろうか……。

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