第6話 ネックレスの理由

はああああああ、幸せ……」

 私は部屋に戻るとベットに寝転びお兄ちゃんからのプレゼントのネックレスを首から指で持ち上げ、宝石部分を天井の明かりに透かして眺める。


 ネックレスの鎖とお兄ちゃんが繋がっている様な、私がお兄ちゃんに繋がれている様な……二人の間が繋がっている様な、不思議な感覚になる。


「ふふふ、やっぱり……本当なのかも……」

 ネックレスを贈るのはその人を繋いでおきたい……自分の物って自分だけの物にしたい……そう言う意味があるって聞いた事がある。

 そう……まるで、ネックレスはペットの首輪の様に、ペットを自分の所有物だと周りにアピールする為に付けるのと一緒で、その贈った相手は自分の所有物だという事をアピールする為に贈る……。


「なーーんてね……お兄ちゃんが私の事をそこまで思ってる筈ないしねえ……」

 そうだったらどれだけ良かったか……どれだけ嬉しかっただろうか……。

 


 二人きりの誕生日……ロマンチックな空間……好きな、大好きな人との最高のひととき。


 幸せって……こういう事なんだろうって思った。


 ずっとずっと続けばいい……お兄ちゃんとのあの空間が、幸せな時間がいつまでも、ずっとずっと続けばいいって……そう思った。


 でも……ロウソクを拭き消した時……私は気付いてしまった。


 この関係は、この生活はいつか終わってしまうって事に……。


「お兄ちゃんにも……いつか彼女が出来るよね……」

 そしていつか結婚……もしかしたらお嫁さんをこの家に……。


 そう考えてしまった……そうしたら涙が出た……。


 私はお兄ちゃんさえいればいい……彼氏もいらない……結婚なんてしない……だから……もしかしたら……この家に居続けられれば……お兄ちゃんとずっとずっと暮らせるかもなんて考えていた。


 でも……お兄ちゃんは違う……いつか彼女を連れて来て、結婚して家を出て行ってしまう……仮にここに住んだとしても……家にはお兄ちゃんの奥さんがいる事に……そして仲睦ましい奥さんとの色々な事を見せられて……聞かされて…………お兄ちゃんの部屋から色んな音や声が…………。


「──私……耐えられるかなあ……衝動で……刺さないかなあ……」

 いけないいけない……そんな先の事を考えても………………は! 私……今なんて事をググってるの?!


 いつの間にか手にしていたスマホを慌てて放り投げた。


「でも……あの後お兄ちゃん……何かおかしかったなあ……」

 私がプレゼントを渡しても……何か上の空というか、心ここにあらずというか……。


「嬉しく無かったのかなあ……」

 毛糸の手袋……バレンタインの時間に合わなかったから誕生日で渡そうって……でももう暖かくなってきたし……やっぱり嬉しく無かったのかなあ。


「ふううううう、失敗したかなあ……」

 それとも妹からの手作りが重かった? ひょっとしたら……私の思いが……バレた?


「お兄ちゃん……」

 私はまた胸元のネックレスを持ち上げ眺めた……じっとじっと眺め続けた。それだけで……今はそれだけで……幸せになれるから、お兄ちゃんを感じられる……お兄ちゃんと繋がっていられる……今私はお兄ちゃんと一つになっている……そんな気がするから……。

 



 【あとがき】


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