第4話 二人きりの誕生日

 僕の誕生日は4月2日、妹の誕生日は4月1日。


 ちょうど約1年違うけど4月1日まで同じ学年になる。


 なので周囲や同級生達への説明がちょっとめんどくさい。

 僕と妹は双子ではないからだ。


 でもこれで良かった……同じ学年で良かった。だってだって……ずっと妹と一緒にいられるのだから、家でも学校でもずっと一緒にいられる。


 入学式も卒業式も、そして修学旅行や体育祭、学園祭……学校での思い出は妹との思い出でもある。


 家と学校……僕の思い出は全部妹との思い出……妹との思い出は僕達の年齢と共に落ち葉の様に積み重なって行く。そして僕の妹への思いは木の年輪の様に1年1年と厚みを増す。


 今日と明日は妹と僕の誕生日……また一つ思い出が積み重なる、思いの厚みが増す……。


「あーーあ、やっちゃったなあ……」


「あははは食べきれるかなあ……」


 僕と妹は二人きりで家のキッチンにいた。

 僕達の目の前には大きなホールケーキが二つテーブルの上に鎮座していた。


 料理は母さんがある程度用意したからと言った。ただケーキは買ってないからと僕と妹それぞれに言った為にお互い確認しないでそれぞれケーキを買って来てしまった。



 毎年4月1日の夜に僕と妹の誕生日を同時に家族でお祝いするのが恒例となっている。


 いつもは母さんがケーキを買ってくるんだけど、4月から父さんの単身赴任が決まり今日は引っ越しやらなんやらで母さんは父さんの所に行っている。


 僕達も行こうか? と行ったが特にする事は無いし、逆に邪魔になるだろうし、入学式もすぐだし等と言われ、今年は二人きりで誕生日祝いをする事になった。


 ダイニングテーブルに母さんの料理と注文したお寿司を並べ、僕と妹はジュースで乾杯する。


「お誕生日おめでとう空」


「ありがとうお兄ちゃん……えっとお兄ちゃんも後ちょっとだけど、お誕生日おめでとう」


「あはははは、毎年恒例のセリフ……ありがとう」

 4月1日の夜だから厳密には僕はまだ誕生日を迎えていない、なのでいつもこのセリフが恒例となる。


 二人きりの誕生日会……初めてかも知れない……父さんと母さんには悪いけど……凄く嬉しい……嬉しさのあまり、パクパクと美味しそうに料理を頬張る妹をついついボーッと眺めてしまう。


「……お兄ちゃん? 食べないの? なんか私の事じろじろ見てるし……」


「へ? あ、いや……えっと……よく食べるなあって」


「! あーーー酷いいいい、デブって言いたいの?!」


「い、言ってない言ってない、て言うか空は全然太って無い、滅茶苦茶細いじゃないか?!」


「!! あーーー今度は胸が無いって言いたいの?!」


「えーーーーそんな事……そうなの?」


「ぶううううう、お兄ちゃんのエッチ!」


「いや……自分で言ってそれは無いだろ?」


「ふーーんだ」

 妹はそう言ってまたパクパクとご飯をついばむ。


 これくらいは他愛も無い兄妹の会話だよね? 僕はいつも通りに演じていられているのか心配になる……。 


 そう何気ない兄妹の関係を会話を最近僕は演じているんだ……だって……溢れそうになる妹への気持ち、この思いを抑えつけないといけないから。


 演じなければ、僕は暴走してしまうだろう……妹に対して誉め言葉しか出て来なくなる……妹への愛を思いを伝えたくなる……愛してると言ってしまいたくなるから……。


 

 ご飯を食べ終わるとケーキを用意する。折角だからと二つテーブルの上に並べロウソクを立て明かりを消す。


 僕が妹の買って来たケーキに妹は僕の買って来たケーキにそれぞれ明かりを灯す。


 揺らめくロウソクの灯りが辺りを薄暗く照らす、そして妹の顔も…………。


「綺麗……」

 僕は思わず言ってしまう……ロウソクに照らされた妹があまりにも美しいから、あまりにも幻想的だから。


 二つのケーキの灯りに照らされ壁に妹の影が映る……それがまるで天使の羽根の様に見えたから。


「そうだねえ……」

 妹はロウソクの炎をボーッと眺めそう言った……良かったバレてない……。


 数十秒の幸福な時間……ロウソクの炎が揺らめくロマンチックな空間……。


 自分の愛する人との……幸せな時……ずっとずっとこのままでいたい……僕はそう思った。


「…………そろそろ消そうか……お兄ちゃん」


「……うん」

 でも必ず終わりは来る……幸せな時が一生続くなんて事はない……。


「せーーのふううううううううう」

 妹の掛け声でロウソクの灯りを吹き消す……辺りが真っ暗になり妹の顔が暗闇に消えた。


 その瞬間……僕はいたたまれない気持ちになる、涙が出る。


 いつの日か、妹はいなくなるのだ。

 いつの日か妹は……この家から出ていくのだ……。


 好きな男の元へいつの日か行く日が来る……誕生日を迎える度にその日が近づくのだ。


 妹は立ち上がり部屋の明かりを付けた。


 僕は慌てて涙を拭う、駄目だこんな事で泣いたら駄目だ。


 慌てて涙を袖で拭き笑顔を作り妹を見ると……妹は何故か壁を向いたまま、少しじっとしていた。


「……空?」


「へ? あ、ううん……何でも無い」

 そう言って笑顔で振り返る妹……でもその妹の目は……妹の瞳は、泣いたかのようにうっすらと赤みを帯びていた。





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