魔釣り少女 2
――グリンの家
ハアハアと苦しそうに息をしベッドに横たわる少女をミッケは真剣な目つきで診る。
少女の右手の甲に触れた時、ミッケは目を細めた。
「此処、右の手の甲に傷があるわね。しかも噛みつかれた後・・・・・・」
「ええ!? 私が診た時には無かったですよ!?」
「ふむ、という事は中々厄介なのに『毒』をもらったみたいね」
「毒!?」
「お医者さんが診た時・・・・・・昨夜には無かった、今になって噛み痕が出てきたとなると西の森の奥に生息している毒虫よ」
――毒虫。
西の森の奥に生息している小さな虫。
名の通り毒を持っており、その毒を喰らった者は何週間も高熱に魘され次第に衰弱していき死に至る。当然、危険視されている。
近づいてきたモノ全てを敵と認識し噛みつく性質を持ち、周りの色と同化して噛みつく、羽音を立てることなく痛みを与えることなく噛み痕も一切残さず去って行く、未だにどうしてこのような事が出来るかは解明されていない。
毒虫に噛みつかれたと解るのは高熱を出して数時間経過した後に現れる噛み痕が見つかった時だ。
この町の住人達は毒虫の事は誰もが知っている、だからこそ森の奥に行ってはならない、特に毒虫が活発に活動する今のような暖かい時期は絶対にと大人達が子供達に忠告するのは当たり前となっている。
「この時期の西の森は綺麗な花が咲き乱れるわ、特に奥は余り人が入らないから取り放題ね。監視役の大人が居なければ行ってしまう可能性は高いと思うわ」
「帰ってきた時に何処まで行ったのか聞いた時にはぐらかしたのは奥に行ったからか・・・・・・」
「ミッケさん、それよりも妹は助かるんですか?」
頭を抱える父に代わってグリンは尋ねる。
ミッケは「助かるわよ」と答え、グリンは安堵したがミッケが続けた言葉にその安堵は打ち砕かれた。
「だけど解毒剤に必要な材料が一つ足りないの」
「はあ!?」
助かると言いながら解毒剤に必要な材料が足りないと上げて落とす発言をしたミッケにグリンは怒りを向けた。
ミッケは怒るグリンを気にする事なくニコニコと笑みを浮かべ、大丈夫よと言う。
「材料は今すぐにリーベが調達してくれるわ」
ミッケはリーベに視線を向けると今まで壁よろしくと大人しく立っていたリーベが近寄る、そこでグリンは彼女が釣り糸が無い釣り竿を背負っている事に気付いた。
「母さん、準備万端です」
「解毒剤に必要な材料は植物系モンスター・ドラゴソウに実る果実。
リーベは私が言うのもあれだけど優秀な魔物ハンターなの、この子に任せれば安心よ」
「私、頑張るです。だから、安心して待っていてほしいです」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「・・・・・・・・・・・・」
「ド、ドラゴソウってどんなモンスターなんだ?」
「竜に似た植物系モンスターです。竜に似ているけど火は吐きませんし草食ですが凶暴です、近づいたら大きな口で攻撃されるです」
「そ、そうなんだ」
「下手に挑発すれば怪我を負うです。だから何もしないでほしいです」
早めに歩くリーベの後ろをグリンは着いていく。
今、リーベとグリンが居るのはドラゴソウが住まう森だ。
あの後、ドラゴソウの元に向かうリーベの同行をグリンは願い出た。
狩人見習いである自分ならば力になれると思ったのもあるがミッケを噂と聞き間違いで殺そうとした償いをしたいという思いが強かった。
だが。
「一人で十分です」
リーベからはハッキリと断られ父親にはお前が行っても足手まといになるだけだと言われてしまったがミッケの「連れて行ってあげたら?」の一言によりグリンの同行は認められた。
そして冒頭に戻るのだがリーベから不機嫌丸出しで何もしなくていいと言われてしまいグリンは妹が不機嫌になった時と違ってどうすれば良いか解らずアタフタするだけ。
どうすれば機嫌を良くしてもらえるかと考えているとリーベが立ち止まったのでぶつかりそうになった、少し文句を言ってやろうと思ったが立ち止まった先に何かあったのだろうと興味が勝り立ち止まった先を見る。
其処には大きい空間、森の広場と呼べる空間が広がっていた。
「釣り場に着いたのです」
「釣り場?」
「此処は私が良くドラゴソウを捕まえる時に利用する釣り場なのです。此処にドラゴソウを誘き寄せます」
「誘き寄せる? どうやって?」
「こうやるんです」
リーベは背負っていた釣り糸がない釣り竿を取り出し呪文を唱える。
そうすると釣り竿は光だし、先から光り輝く糸が現れる、そして糸の先には蝶のように美しい鰭を持つピンク色の魚が浮かんでいた。
「この子はピンクちゃんです、ピンクちゃんはドラゴソウが好む果実の匂いを出せるように私が作って育てた
この子を森の中を泳がせてドラゴソウを誘き寄せます」
「は、はあ・・・・・・・・・・・・」
正直言ってドラゴソウを誘き寄せる事が出来るか半信半疑だ。
というか普通、魔物を狩る(今回は採取が目的だが)のならば剣や弓と言った武器が一般的だ。グリンの目の前に居る少女、リーベは不思議な釣り竿を武器に魔物を狩ろうとしている。
本当に大丈夫なのかと疑うのも無理もない。
グリンのそんな気持ちを表情から解ったのかリーベは独り言のように語り始めた。
「・・・・・・・・・・・・この釣り竿は母さんに拾われて魔法を少し使えるようになった頃に貰ったのです」
――私は両親の顔も解りません、いや覚えていないです。
覚えているのは白い雪と痺れるような寒さ、そして何処までも暗い世界。真夜中の北の山に捨てられたという事ぐらいです。
寒くて暗くてひもじくて泣くことしか出来ない私を拾って助けてくれたのは母さんです。
母さんは大丈夫? 寒かったでしょ? お腹空いてない? と心配してくれて暖かい服を着せてくれたりご飯を食べさせてくれたり、そして私の子になる? と私を受け入れてくれたのです。
そんな母さんに私は恩返しがしたくって、でも私が出来る事は母さんの元で魔法の修行を頑張ることだけです。
ある日、母さんがくれたのがこの釣り竿です。母さんが使い魔として仕えていた伝説の魔女が作ったものです。
伝説では好戦的だと伝えられてますが平穏を好み釣りが好きな人だと教えてくれたです、晩年、漸く争いから解放された時に魔法を使った釣り『魔釣り』を考え作ったのがこの釣り竿です。
だけど魔釣りを完成する事はなかったです。未完成のままこの世を去ったからです。
「母さんは魔釣りを完成させたいとそれが願いだと話してくれたです。
その時に私は魔釣りを完成させる為に母さんの元にやってきたのだと確信したのです。
当初は笑われたり無理だと言われ続けたです、だけど母さんの夢で私の夢だから笑われようが無理だと言われようが続けて来ました、今では認めてくれる人が沢山です。
グリンさん、貴方はこれを見て無理だと思ったです? だったら黙って見ていて下さいです。
今から魔釣りをお見せするです。
さあ、ピンクちゃん!! 釣りの時間ですよ!!」
リーベは釣り竿を振り上げると使い魔は森の中を優雅に泳ぎ始めた。
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