魔釣り少女

うにどん

魔釣り少女 1

 青白く光る池のほとりに少女が一人。

 少女の手には釣り竿、どうやら釣りをしているようだ。

 釣り竿の先にある浮きがビクンと震えると少女は素早く釣り上げる、釣り上げたのは半透明で腹が光り輝いている魔力を宿す不思議な魚――魔魚まぎょ

 少女は釣り上げた魔魚を置いていたバケツに入れる、バケツの中には大小様々な魔魚が5匹、先ほど釣り上げた魔魚を入れて6匹になったバケツを見て少女はニヤリと笑う。


「うん、これぐらいで大丈夫です。きっと母さんも喜んでくれるです」


 満足そうに言うと少女はバケツを持って池を後にした。


 ところ変わって森の中。

 とある町の東に存在する事から東の森と呼ばれる森に緑色のマントを羽織った少年が一人。

 少年の目的はこの森に住む魔女ミッケ。


 少年――グリンは町で西の森を中心に狩りを営む両親の元に育った狩人見習いである。

 グリンがこの森に来たのは狩りをする為ではない。

 昨日の夜、倒れた妹の為だ。


 妹がある日、友達と西の森に遊びに行った日の夜に高熱に魘された。

 医者に診てもらったが原因は不明、それを聞いた時の両親の青ざめた顔をグリンは忘れられない。

 父が医者に縋ると医者は「東の森に住む魔女ミッケをどうにかすれば助かる」と言った。


 東の森に魔女が住んでいるという話は聞いていた。

 伝説の魔女の唯一の弟子で伝説と称えられた魔女の元に居たため、様々な魔法――呪術を使いこなし若い娘に若いからという理由で嫉妬し呪いをかけるという噂も。

 妹が遊びに行ってるときにミッケもその場に居て妹を嫉妬から呪いをかけた、その呪いを解くには。


――ミッケを殺せば妹は助かる。


 その翌日、両親が起きる前にグリンは狩りに使うナイフを持ち、この森へとやってきた。


「来たものの、東の森は初めてだからな~。ミッケの家は何処にあるんだ?」

「母さんに用事です?」

「うわっ!!」


 独り言を呟いてたら、その独り言に返事が来てグリンは驚き、自分に声をかけた人物を見る。

 青みのかかった白銀の髪と金色の目を持った美しい少女が其処に居た。少女の手には彼女と不釣り合いな釣り竿とバケツを持っているがそれが気にならない程に美しい少女。

 町でも可愛いと評判の少女に頬を赤らめた事がないグリンだが今まで見たことがない美しい少女に頬を赤らめる。


「あのどうしたです?」

「い、いや、なんでもない!! それより、君はミッケの家を知ってるのか?」

「はい。一緒に暮らしてるのです。宜しければご案内するのです」

「本当!? ありがとう!!」

「どういたしましてです。コッチです」


 グリンは少女の後をついて行く。

 後をついて生きながらグリンは案内してくれる少女とミッケの関係を考えるが止めた。


――妹の為だ。


 腰に差したナイフをギュッと握り熱に苦しむ妹を思い浮かべた。


「此処です」


 どうこう考えている内にミッケの家に着いた。

 魔女の家と言えばおどろおどろしい暗いイメージを持っていたがミッケの家はイメージとは正反対で明るいロッジ風の家に可愛らしい花が咲いている綺麗に整えられた花壇や小さめの畑、お伽噺に出てくるような家だ。

 思わぬ可愛らしい家にきょとんとするが少女がトントンとグリンの肩を叩いて「大丈夫です?」と現実に引き戻された。


「い、いや、想像してたより明るいな~って」

「そうです? 他の魔女さんの家もこんな感じです」


 少女が不思議そうにグリンを見ながら家の中に入るのでグリンも慌てて家の中に入る。

 ようやくミッケとの対面、直ぐにナイフを出せる体制にする、当然解らないように。

 少女は背後でミッケを殺そうと動くグリンに気付かないのかスタスタとミッケの元へと向かう、かと思ったがテーブルの上に座っている三毛猫の元へと向かった。


「母さん、ただいまです。魔魚釣ってきたです、あとお客さんを連れてきたです」

「リーベ、お帰りなさい。魔魚ありがとうね、お客さんのご案内も」

「母さんの子供なのですからこれぐらいは当然です」


「はああああああ!? 猫がしゃべってる!?」


「ど、どうしたのです?」


 先ほど三毛猫にリーベと呼ばれた少女はグリンの驚きの声に驚き、三毛猫はグリンを見て「この子がお客さん?」とニコニコとした顔で特に驚きもせずマイペースだ。


「待って? どういう事? 東の森のミッケは伝説の魔女の弟子で若いからって嫉妬して若い女に片っ端から呪いをかける魔女で・・・・・・・・・・・・」

「母さんはそんなことしないです!! 誰がそんな話を流したです!!」

「まあまあ、二人とも落ち着きなさい。これからお茶を淹れてあげるから、リーベ、台所に焼いたクッキーがあるから持ってきてくれる?」

「はいです」


 スクッと立ち上がり二足方向で歩く三毛猫を見てグリンは「猫が立った」と呟くと気絶してしまった。


「あらあら、私を見て驚く子は沢山居たけど気絶する子は初めて見たわ」


・・・・・・・・・・・・


「ウチの息子がご迷惑をお掛けして申し訳ございません!!」


 グリンの父親と町医者がミッケを訪ねに来たのはグリンが気絶して直ぐだった。

 家に居ると思っていた息子が居るので驚いた父親は気絶したグリンを叩き起こし、どうして此処に居るのかと問いただしたらあっさりとミッケの呪いを解く為に殺しに来たのだと話したせいで顔を青ざめさせながら謝っているという状況である。

 グリンは医者が「ミッケならどうにかしてくれる」と言ったのを「どうにかすればいい」と聞き間違えたのだと解り同じく顔を青ざめさせて父親と共に謝っていた。

 リーベはミッケを殺そうとやってきた相手をすんなりと案内した事を悔やんでいた。


「いえいえ気にしてないわ、それより私に用があって来たんですよね。

リーベ、落ち込んでないで、お茶の用意を」

「は、はいです!」


 二足で立つ三毛猫――魔女ミッケは優しく声を掛け、客人に椅子に座るよう促すと自身はテーブルの上に乗ってその場に座ると話を聞く体制に入る。


「昨日の夜から娘が高熱を出して魘されているんです」

「私が診た所、只の熱ではない事ぐらいしか解らずミッケさんならば解るはずだと思い訪ねました」

「成る程ね。娘さんはその日は何処かに出かけていたの?」

「はい。友達の誕生日プレゼントに贈る押し花を作るために他の友達数人と西の森に」

「他の子達の様子は?」

「異常はありません。娘だけです」

「ふむ。これは診ないと解らないわね。リーベ、出かける準備を」

「はいです」

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