第32話 姫、再び狙われる
まもなく
日本最大のコミック、アニメ、ゲームの総合祭典、『ジャパン
声優トークショーやミニライブ、有名漫画家のシンポジウム、二次創作即売会や、コスプレ大会などイベントも盛りだくさんで、国内はもとより海外からも多数のファンが押し寄せる。昨年度は3日間開催で40万人が来場。本年度は好調なインバウンドの影響により、海外参加者の増加を予想して同じ3日間で43万人が見込まれている。
俺も3日間とおしでHAZUMAKIブースに詰める。今期アニメの今後の展開や、夏アニメのフライング速報などのアニメキャンギャルらしいお仕事だけじゃなく、コスプレでダンスなどのミニステージや、サイン会、声優ライブのゲストなどのイベントもこなす。
準備でダンスレッスンやリハーサルに集中するため、この
予想外に早いスピードで名前が売れたので、プレミアム感を大事にしていこうというメディア事業部の思惑もあった。
写真集などの販売戦略も考慮しているんだろう。
なんにせよスケジュールに余裕があるのは助かる。魔法の勉強がはかどるからな。
楽屋で出待ちの時などにこつこつ覚えてるんだが、時間が小刻みなので集中しにくいんだよね。
それにしても、ソフィと二心同体したまま
それに、まだ初級とはいえ、
ソフィとの共同作業ではあるけどね。
二人で術式を詠唱すると魔法が発動する。詠唱といっても、実際には術式を脳内にイメージしているので、詠唱自体に時間はかからない。二人のイメージがシンクロした瞬間、効果が即発生する。
俺は、姉ちゃんが言ってた球面上の正三角形を脳内にイメージして同調させている。緯線方向の2辺を固定し、経線方向の1辺の中心角を変えて周波数を変調している。三辺とも変化させるとカオスになって上手く操れない。
俺の脳内イメージはソフィにも伝わるので、同調までは俺にソフィが合わせてくれる感じだ。
いったん同調するとソフィが主体的に操作する。パワーアンプはソフィの中にあるので、その方が精緻なコントロールが出来るからだ。
時空魔法は道具なしで使えるが、それ以外の系統の魔法は姉ちゃん開発の魔法デバイス『プリセル初号機』を使う。
壊した初代はボックス型の筐体だったが、今の二代目はソフィが身に着けやすいよう金色のバングル型に改造した。幅広のブレスレッド状で、初代の基盤を三分割し中に納めている。
初代にあったスイッチや動作確認用のLEDなどはない。デジタル無双なソフィには不要だからだ。
だから、見た目はただのおしゃれアイテムだ。実は女性用にしてはかなり太く、厚く、径も大きいのだが、背が高くて腕が長いので、気にならない。
排熱の都合で防水じゃないのが残念だが、量産前の試験機なのでそこまで望むのは贅沢だろう。
青い4WDスポーツに乗り込んで、さあ、出ようとすると、いきなり白のロングバンが前に突っ込んで来て道を塞いだ。危ねっ!
スライドドアが開き、若い男がわらわらと下りてくる。金髪、サングラス、髭面、スキンヘッド、舌ピアス。全員、派手なスーツを着ている。まともなファンではなさそうだ。
ドアは開いたままになっている。中には誰も残っていない。
全員出てきているということは、目的は暴行か? それとも誘拐か?
薄ら笑いをしながら鶏冠井さんの愛車を取り囲み、ウインドウ越しに中を覗き込んでくる。
舌ピアスがヨダレを垂らしてる。汚いなあ。
髭面がバン、とボンネットに手をついた。
鶏冠井さんがむっとするのが分かった。
この車、発売されたのはもう25年ほど前だが、新車と見まごうくらい美しい。鶏冠井さんの手入れが行き届いているからだ。
乱暴に扱うと、痛い目見るよ。
「女神様、シートベルトをしっかり締めてください。鶏冠井が道を作ります」
サイドウインドウまで男たちは取り囲み始めた。前にはロングバン、左右にはもともとほかの車が駐車している。その隙間に男たちがにやにや笑いで立っている。
鶏冠井さんどうするの? まさか、たかが車ひとつ押し出してやる! ってやつ?
「イエ、ダイジョウブ、デス」
突如、無人のロングバンが発進した。
「うぉっ!」
「車が!」
「追いかけろ!」
慌てて男たちが駆けていく。
ソフィが
ロングバンは加速し駐車場の壁にぶつかった。ドオンと衝撃が伝わる。
「イマデス」
「承知!」
鶏冠井さんは4WDスポーツのタイヤを軋ませながら発車した。
「なんだったんだ、今の男たち。ファイヤー関係かな?」
「今どき、こんなわかりやすい暴力沙汰は起こさないでしょう。駐車場には監視カメラもありますし。女神様のストーカーでしょうか? スタジオには定期的に通ってますから、特定されやすい場所ですね」
「クルマノなんばー、ケンサク、シマシタガ、トウナンシャ、デシタ。デモ、ヒトリ、デンワヲ、シテマシタ」
「電話番号の検索はどうなんだ?」
「きゃりあハ、ワカリマシタ。かなだノ×××シャノ、ぷりぺいどロム、デシタ。モチヌシハ、キロクガ、アリマセン」
「海外で販売している、日本でローミング出来る端末ですか。それは、厄介かもしれません」
「どういうこと? 鶏冠井さん」
「日本国内では犯罪防止のため、個人情報を登録しなくても買えるプリペイド端末はもうありません。ですが、今でも海外ではコンビニや食品店などで身分証なしで手軽に購入出来ます。そのうち、いくつかの
「それって……」
「ただのチンピラというわけではないですね。バックに大きな組織がついています」
おいおいおい。
事故の通報はビルの保安部が行っていたのをソフィが確認している。消防と警察がもう現場に到着しているだろうが、チンピラたちはとうに逃げただろうなあ。
監視カメラには俺たちも映っているが、ソフィが映像データを差し替えた。
警察に呼ばれたら面倒だからな。魔法使って逃げました! とか言えないし。
「だけど、あの5人はプロっぽくなかったぞ」
「多分、金で雇われただけの素人でしょう。はじめから捨て駒だったのかもしれません。警告か、宣戦布告か……」
「うまくいけばよし、失敗しても組織そのものには足がつかないようになっている、ってことか」
「そうですね。でも、必ず次の動きがあるはずです。女神様、気をつけてください」
「鶏冠井さんもだよ。姉ちゃんにも注意するよう言っとかないと。どこまで
「そうですね」
(敵が動いた時がチャンスです! 手掛かりさえあれば、正体突きとめて、壊滅させてやります!)
(本当に出来そうなだけに怖いよソフィ。日本は法治国家だから、反社会的集団といえど勝手に潰すとこっちが罪に問われるぞ)
(大丈夫です。ばれないようにやります!)
(いや、だからその思考怖いよ!)
戦闘狂かよ!
確かに俺も異世界で兵士を何人も殺して平気だったが。
ソフィにとってここは異世界。
この世界の人間が何人死のうとも、ソフィが気にすることじゃないのかもしれない。
いや、あの世界はそもそも戦争してたんだ。兵士は職業軍人だし。
日本とは違う。
悪の組織であっても、ここでは法で裁かないといけない。
だが、この時の俺の考えは、甘かった。
すぐに俺はそのことを身にしみて知ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます