銀河系ほのぼのSFー交易船エンタリスの航海日誌
@akausagi12
第1話 漣と荒地と宇宙船
荒野。荒野。荒野。
見渡す限りの不毛の大地。
そして、その荒野の真ん中には、銀色の鶴の形をした大きな何かが、静かに佇んでいる。
山崎漣(やまとれん)が最初に見たものはそれだった。
数瞬間前、自分の部屋で漫画を読みながらベッドでゴロゴロした大学生の漣は、ズキズキ痛む頭を抱えて、真っ黒な土から起き上がって周りを見た。
漣には、どうやってここまで来たのか、どういう経歴で東京郊外の住宅街からこの世紀末の荒れ地にたどり着いたのか、まったく記憶がない。あるのは、二日酔いのような鋭い頭痛と、非常に強い違和感だけ。
漣は目の前の鶴の形をしたようなものを見上げた。「鶴のような形」と言っても、それは300メートルぐらいの長さで、レンが住んでたぼろいアパートより大きかった。その表面は銀色に輝いて、ところどころに幾何学な金属のデザインが施されている。きれいな流線型の鶴の翼は太陽の光を反射して、漣は思わずまばゆい光から目をそらした。そして、鶴の首には、うっすらとドアの形をした凹みが見れる。
「宇宙船、かな?」
サイズと形からすると、それは明らかに人間が作ったものではない。もともとSFが好きだった漣は、すぐにわかった。
なんでここに宇宙船があるのかわからないけど、なんで自分がここにいるのかもわからないから、状況は大して変わらない。
他にやることがなさそうなので、漣はドアのところを目指して歩き出した。そして数歩歩くと、何かに転んで冷たい地に倒れた。
もう一度起き上がって振り返ると、それは大地に半分埋もれた人間の骨だった。そしてよく見ると、周りは骨だらけ。助骨、腕骨、頭蓋骨。。。
さっきは気づかなかったが、漣は数十人分の骨に囲まれている。漣は悲鳴を上げた。本能的な恐怖を感じて、一瞬、どこかに逃げようと思ったけど、どこにいるかわからないので、逃げる場所はない。
「生体反応を確認」どこからか、無機質な女の声がした。漣は周りを見渡したけど、相変わらず誰もいない。
「テラトンレベルの高エネルギー反応形跡感知につき、警戒レベルを最大に移行。正体不明の生体反応を敵とみなし、排除します」と女の声は続いた。
宇宙船の翼の端に、小さな光の粒子が現れる。ヤバイ。これはヤバイパターンだ。
「待って、お姉さん」別に声がした。今度は人間らしい、若くて、優しそうな女性の声。「あの方のデータをよく見て!」
光の粒子は一気に消えた。よかった。
「局地的管理者権限の実行を確認。排除行動を中止。対象のデータスキャンを高精度モードで開始。」無機質な女の声が言った。漣は急にめまいがして、バランス感覚を失って倒れそうになった。何も見えないが、どうやら自分は何かのスキャンを受けてるらしい。
「これは。。。」無機品な声に初めて感情が混じった気がした。それは「迷い」だった。
「不可能なデータを感知。スキャン精度を上げます。」
くらくらした感じが強くなって、今度は本当に倒れた。二日酔いの痛みに加え、頭が爆発しそうな痛みに襲われた漣は、苦悩の声を上げた。
「スキャン終了。データを分析中。。。完了。対象のDNAは先祖種のそれと99.99997%一致するとデータは示しています」
それきりで何も言わなくなった。だけど、鶴の首のところにあった凹みが静かに消えて、宇宙船への入り口が現れた。これって、入っていい、ってことかな?
漣はおそるおそる入り口に向かって、骨をよけながら歩き出した。その向こうに見えるのは、淡い光を放つ白い壁と銀色の床。中には誰もいない。そして一歩踏み入れると、入り口が音もなくもう一度消えて、また壁が現れる。もう逃げ場はない。最初からなかったけど。
周りを見渡すと、漣は長い廊下のような一本道にたってた。いくつかのドアや階段が見えたけど、ドアの上には赤いライトがついてて、試しに押してもびくとも動かないし、階段の向こうは暗くて何も見えない。しかし、廊下の突き当りのドアの上のライトだけが、青い光を点滅してる。自分の足音以外、何の音もない。
漣は突き当りのドアまで行くと、ぷっしゅとそれは開いた。
銀河系ほのぼのSFー交易船エンタリスの航海日誌 @akausagi12
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