第2話〈2日目〉お揃いデート 前半

次の日の朝。俺は重い瞼をどうにか持ち上げ、目を覚ました。夜、めぐみんとのデートの計画を遅くまで考えていたせいで凄く眠い。

なんせ俺はデートと言える事なんて一度もした事が無いのだ。まぁデートみたいな事はした事はあるが。……おまけのアクア付きで。


俺は落ちてくる瞼と格闘しながら洗面所に向かい、そんな残念な思い出を冷水で頭から追い出した。そして身支度を済ませて朝食を食べるため食堂へと向かう事にした。



◇◆◇



食堂に着くと、そこには既に3人の姿があった。


「あっ、カズマ。いつまで寝てるのよ。私より起きるのが遅いなんてさすがね」

「おや、カズマ。おはようございます」

「お、カズマか。おはよう」


アクアが調子にのった事を言ってくる。


「ああ、おはよう」


俺はアクアをどうしてくれようかと考えながら席に座り、店員を呼んでトーストを頼んだ。


「なんだか凄く眠そうだな。夜更かしでもしてたのか?」


俺が注文を終えると、ダクネスが俺の顔を覗き込んで尋ねてきた。


「まあそんなところだ」

「どうせカズマの事だから枕がいつもと違くて寝付けなかったのよ、きっと」


そんな訳ないだろ。俺は今日の一大イベントの為に頭をフル回転させていたんだよ!


「おい、俺とお前を一緒にするな。そういうお前こそ、どうせいつもと違う場所で興奮して眠れず、朝も今日が楽しみですぐ目が覚めたとかそんなんだろ」


俺が適当にそれらしいことを言ってみたら、それを聞いたアクアが体をビクッとさせながら顔を背けてくる。

……どうやら図星だったようだ。

そんなアクアを横目に見ながら、俺はダクネスに尋ねた。


「ダクネス、お前は今日どうするんだ?」


すると、ダクネスが優しく微笑みを浮かべて言った。


「今日は少し行ってみたいところがあるのだ。カズマはどうせ案内してくれないだろうし……。アクア、ちょっと案内してくれないか?」


なんで俺が案内しないって決めつけるんだよ。

アクアはというと、頼られたのが嬉しかったのか顔をぱあっと明るくさせてた。


「いいわよ!どんと任せなさいな!めぐみんも一緒に来る?」

「いえ、私はカズマについて行こうと思います。知らない所に連れて行ってもらえると思いますし」


そう言って、めぐみんは俺の方を期待に満ちた目で見てくる。

そんなに期待されると困るんだが……。

しかし、これで何とかデートは実行出来そうだ。アクアを遠ざけらたるのは本当に大きい。もしかしてダクネスはその事が分かっててアクアを誘ったのだろうか?

俺は心の中でダクネスに感謝した。


「じゃあ今日は2チームに別れるって事でいいか?」

「ああ」


ダクネスはそう言うと、既に朝食を済ませていたらしく、てくてくと自分の部屋へと戻っていく。


「ダクネス、待ってー!」


アクアもダクネスを追いかけていき、テーブルには俺とめぐみんだけがとり残された。


「「……」」


沈黙が流れる。それでも向こうの席での会話が耳に入って来ないのは、自分の心臓の音せいだろうか。

いつもならどうでもいい事について話してるところなんだが……。今日デートをすると考えると、変に意識してしまって言葉が出てこない。

しばらくそのまま沈黙が続いていたが、俺は意を決してめぐみんに尋ねた。


「な、なあめぐみん。そ、その、今日のデート10時にホテルの前に待ち合わせでいいか?」


すると、めぐみんはにこにこしながら。


「いいですよ。カズマもダクネスをしっかり説得してくれたみたいですね。上出来です」


そう言ってどういう訳か椅子から立ち上がった。

ど、どうしたんだろう?

めぐみんはそのままこちらに歩いて来て。



── 俺の頭を優しく撫でてきた。



「ちょっ!!な、何やってるんだめぐみんっ!周り!周りの人が見てる……ぞ…」


俺はいきなり人前でとんでもない事をしてきた魔性の女に慌てながらそう言い、周りを見渡して……。

……視界の端に、アクアの姿が映った。


「あわわわわっ!め、めくみんがっ!めぐみんがカズマの頭をなでなでした……っ!!み、みんなに知らせなきゃ!」


「ま、待ってくださいアクアっ!少し私と話をしましょう!!」


走っていこうとするアクアをめぐみんが必死に引き止めている。

俺はその光景を見て何とか落ち着きを取り戻し、頭をフル回転させた。

……そしてここには、この事を広める相手がいないことを思い出した。またアクアの場合……。

俺は必死にアクアを止めているめぐみんに言った。


「めぐみん、もう行かせてやれ」


めぐみんは俺の言葉を聞いて諦めたのかアクアの手を離すと、アクアは走って自分の部屋の方へ走って行った。

しばらくすると、遠くからホテルの人の注意する声が響いてきた。

あいつは小学生かよ。


アクアにうんざりしながらめぐみんの方に顔を向けると、めぐみんはとことこと俺の前へと戻ってきて顔を赤らめながら言ってきた。


「カ、カズマ、そ、その、いいのですか?アクアを放っておいたらみ、皆に広められますよ…?」


自分からやっておいて何恥ずかしがってるんだ。俺の方が恥ずかしいに決まってるだろ!

そう言いたいところだが、俺はそんな事では動揺しない男だ。

……え?さっきは思いっきり動揺してたって?それはきっと幻覚でも見ていたんだろう。

気を取り直し、俺はさっき考えた事をめぐみんに話す。


「まあまあ、落ち着けめぐみん。よく考えろ。ここは日本だ。アクアが話を出来る奴なんてダクネスしかいない。しかもアクセルに帰るのは3日後だ。3日も経てばどうせあいつの事だ。こんな事はすぐに忘れるだろ」


俺はめぐみんがこれで納得してくれるかと不安になったが、めぐみんはしばらく考えてから。


「……確かにそうですね。アクアですもんね」


そう言ってほっと息をはいた。

……でもやっぱり、これで納得されるアクアの頭ってニワトリと変わらないと言ってもいいのではないだろうか。あれが女神……か…。

それ以上考えると残念な気持ちでいっぱいになるので、思考を切り替えて、俺はデートの事を考える事にした。

10時に集合となるとやっぱり今から支度をした方がいいだろう。


「取り敢えず、あいつの事は放っておこう。俺は今から支度をしてくるよ」


「そうですね。私も少し準備をしてきます」


俺は支度をする為に部屋に戻る事にし、めぐみんの方を向いて言った。


「じゃあ、30分後にホテルの前でな。俺の取っておきのプランを楽しみにしといてくれ!」


すると、めぐみんはにこっと笑い笑顔を浮かべた。


「はい、楽しみにしています!」


そう言って俺に背を向け、嬉しそうに自分の部屋へと戻って行こうとして……。

ふと、めぐみんが振り返って言ってきた。


「そうそうカズマ。今日のデートでは、昨日買った赤色パーカーを着てきて欲しいのですが」


そんなに俺のパーカー姿良かったのか?


「まあ、いいけど。どうしてだ?」

「い、いえ、特に理由はないです」


そう言い残すと、めぐみんはてくてくと部屋の方へと歩いて行った。その後ろ姿を不思議に思いながら見送ったあと、俺は部屋に戻ろうと席を立ち。

トーストを食べてないのに気がつき慌てて席へ戻った。



◇◆◇



午前9時。めぐみんに言われた通り赤色のジップアップパーカーを身につけ、スマホにメモしたデートの計画を確認しながら待ち合わせ場所で待っていると、めぐみんがホテルのロビーから駆けてくるのがちらり見えた。俺はスマホをしまって寄りかかっていた壁から体を離し……。

めぐみんの格好を見て思わず息を飲んでしまった。


「どうしたのですか、カズマ?」

「いや、どうしたってお前その服……」


めぐみんはというと、緑色のジップアップパーカーを着ていた。

……そう、俺のやつの色違いだ。


「これですか?これはカズマとお揃いです。あれですよ、ペアルックってやつです」

「ペアルックってやつですってお前……」


俺が言葉に詰まっていると、めぐみんが不安そうな顔をして聞いてきた。


「もしかして嫌でしたか…?もし嫌だったら着替えて来ますよ?」

「いやいやいや、全然嫌じゃない。むしろ、その……に、似合ってるから着替えて欲しくない……」


チラッとめぐみんを見てみるとめぐみんは少し顔を赤らめていた。


「あ、ありがとうございます……。で、ではこのままで行きましょうか」

「お、おう」


そう言って俺達は歩き出した。



移動してる間、俺たちはまたもや黙り込んでしまっていた。

思えば、今までデートらしいデートは一度もしたことがなかった。デートすると言ってもゆんゆんがいたり、アクアがいたり。

そう考えるとドキドキしまう。2人で出かける事自体は特に珍しいことじゃないはずなのにどうしてなのだろう。

俺がなにか話さないとと思っていると、それより先にめぐみんが尋ねてきた。


「カズマ、まずはどこへ行くんですか?」

「ええっと……まずは水族館だな」

「すいぞくかん……?何ですかそれは?」


そういえば、向こうの世界には水族館は無かったような……。ペットショップとかもないし。どこかで俺みたいな日本人がいたらそんな感じの物を作ってるかもしれないが。

俺はめぐみんに水族館について簡単に説明した。


「水族館っていうのは、海にいる生き物を飼育して鑑賞できるようにしている所だ」


すると、めぐみんは驚いた顔をして。


「海にいる生き物……ま、まさか、モンスターを飼っているのですか!?だとしたら飼育員さんは相当な手練ということに……」

「違う違う、魚だよ魚!向こうの世界にもいるだろ!魚を飼育してそれを泳がせてるんだよ」

「なるほど、魚でしたか。しかし、魚なんかを見て何がいいのですか?」


……そ、そう言われると言葉に詰まる…。

デートスポットの定番だから行ってみようと思ったのだが、言われてみれば水族館なんて小さい時に行ったぐらいだし、何処がいいのかなんて……。

俺は答えに詰まって考えていたが、ふと、あの世界に行ってたすぐの時に一番と言っても良いぐらいにイライラした出来事を思い出し、めぐみんに答えた。


「多分見たら驚くぞ。何せ、こっちの世界では秋刀魚が海を泳いでるんだ。知らない魚も沢山いるんじゃないか?」


そう、畑に秋刀魚が生えてくることを思い出したのだ。

酒場でバイトした時に裏の畑から秋刀魚を取ってこいと言われた時はブチ切れたなあ……。

俺は思い出に浸るのを止め、めぐみんに視線を戻した。するとめぐみんは溜息を吐いたかと思うと。バカにするような声で言ってきた。


「そんな馬鹿な…。秋刀魚が海を泳いでるなんて、そんな訳ないじゃないですか?カズマ、とうとう頭までおかしくなってしまいましたか……」

「おい、とうとうってなんだよ!それに俺のどこがおかしいっていうんだ!……と言うか本当なんだって。なんなら動画見るか?」


俺はスマホで秋刀魚が飼育されているという福島の水族館で秋刀魚が泳いでる動画を見せた。

するとめぐみんは驚愕した顔をして。


「ま、まさか本当に秋刀魚が泳いでるなんて…!?カズマ!この世界はおかしいです!!秋刀魚が泳いでるなんて絶対おかしいです!!」


……お前らの世界の方がおかしいだろ。何で魚が畑から取れて疑問に思わないんだよ。今更ながら、あっちの世界の人達が変な人に思えてきた。

俺は深くは考えないようにして、未だに興奮が冷めていないめぐみんに言った。


「まあまあ、落ち着け。こんな風に、向こうの世界にはいないような面白い魚とか、イルカショーとかも見れるから行ってみようぜ」


するとめぐみんは。


「イイイ、イルカですか!?あ、あんな危険なモンスターのショーをやるなんて…!!カズマの世界はやっぱりおかしいです!!本当になんなんですかこの世界は!?」


……話が進まねえ…。



◇◆◇



水族館に入ると、休日ということもあり沢山の人で賑わっていた。

俺たちは今、巨大は水槽の前にいる。


「カズマカズマ!ま、前の人が邪魔で魚が見えないです!」


めぐみんが興奮した様子で水槽を見ようと背伸びしているが、前の人のせいで見えていないようだ。因みに俺は背伸びして何とか見えている。

向こうの世界に行ってから少しだけ身長が伸びた気がするが気のせいじゃなかったのかもしれない。

俺はめぐみんの横で背伸びしながらいった。


「ま、お前の身長じゃしょうがないだろ。だってお前の身長ってそこのお父さんに肩車してもらってる娘と同じぐらいだろ?」

「……おい、それは私が子供みたいだと言いたいのですか…?」

「まあ、そういうことだな……って爆裂魔法の詠唱するなっ!撃たないとしても心臓に悪いんだよっ!謝るから止めてくれーっ!」


めぐみんが爆裂魔法の詠唱をボソボソと呟いてきたので、俺は慌てて止める。

めぐみんが渋々詠唱を止め、俺はホッと溜息をついた。……が、つい何時もの感覚で大声を出してしまったので係の人がこっちに来て注意しに来た。


俺は何度も謝り、係の人が遠ざかって行くのを申し訳ない気持ちになりながら見送っていると、めぐみんが溜め息を吐きながら言ってきた。


「はあ。全くカズマはどうしてこう落ち着きがないのですか。アクアじゃないのですし、もうちょっと静かにしてくださいよ」

「おい。誰のせいだと思ってるんだよ。お前が爆裂魔法の詠唱したからこうなってるんだからな?」


めぐみんはというと、俺の説教を無視してそっぽを向きもう一度大きな水槽の方を見た。

こっちの世界では魔法を撃たない約束をしたが、本当に大丈夫だろうな……。


「しかし、やはり魚が見えないですね…」


めぐみんが残念そうな顔をし、背伸びをしながら呟いた。そんなめぐみんを見ていると、俺までもが少し残念な気持ちになって。

……ふと、さっきの親子の光景が目に浮かんだ。

確かにああすれば見えるだろうが……。

もう一度めぐみんの方を見ると、めぐみんは未だに必死に背伸びをして水槽を覗こうとしている。

……そうだ、今日はデートで来たんだ。少しはカッコイイ所を見せないとな。

俺は意を決し。


「めぐみん、その。良かったら肩車しようか?」


俺が少し声をうわずらせながらもそう言うと、めぐみんは驚いた様な顔をしたあとニコッと笑い。


「では、お言葉に甘えさせて貰いますね」


そう言って俺の前に背を向けて立っできた。

今思うと久しぶりの肩車だ。最後にやったのは体育祭の組体操か。めぐみんを肩車するだけだし、きっとその時よりは楽だろう。

俺はそう思い、しゃがんでめぐみんを肩車しようとした。しかし。


「……お、重いっ…」

「…っ!!こ、この男はっ!!レディーに向かって重いは最低ですよ!本当に爆裂魔法を…!!」

「わ、悪かった悪かったって!!だ、大丈夫だ!1回持ち上げさえすればっ…!」


俺は貧弱な筋力パラメーターで出せるだけの力を振り絞りめぐみんを持ち上げた。


「ど、どうだ。み、見えるか…?」

「はい、バッチリです。あっ、カズマが言ってた亀です!それとあっちにはエイが!」


めぐみんが楽しそうにキョロキョロしながら言ってくるが、俺はめぐみんを担いで歩くので精一杯だ。



肩車を始めて暫く経ち、俺の筋力は相当追い込まれていた。


「そ、そろそろ降ろしてもいいか…?」


俺がそう聞くと、めぐみんがジト目で俺の方を見てきた。


「……せっかくカッコイイ事をしたのにどうしてこうなんですかこの男は。まだ1分ちょっとしか経ってないじゃないですか。アレですか?カッコイイ事とかっこ悪い事の差し引きをプラスマイナスゼロにしないとどうにかなってしまう病気なんですか?」


ううっ、確か似たような事をアクアに言ったような……。それにまだ1分しか経ってないのかよ……。

アクアと同レベルなのは嫌なのでもう少し頑張ろうと思い、俺はもう暫く肩車を続ける事にした。


俺の足が本当に限界になってきた頃、俺はもう一度めぐみんに尋ねる。、


「な、なあ、も、もうそろそろ、降ろしていいだろ…?」


俺が震える声でめぐみんに言ったが、めぐみんは水槽に夢中なままだ。


「もうちょっと待ってください。あっ、亀がこっちに来ました!!私達の事を見てるのでしょうか!」


マ、マジで限界!!



── 結局俺は、30分もの間めぐみんを背負い続けるはめになった。



◇◆◇



筋肉が悲鳴をあげる中、俺たちはイルカショーが行われる会場に来ていた。

イルカショーなんて何時ぶりだろうか。多分最後に来たのは幼稚園の時だったか。あの頃はまさかこんな人生を歩むとは夢にも思ってなかったなぁ。

俺がそんな過去の鑑賞に浸りながら椅子に座りショーが始まるのを待っていると、めぐみんが緊張した声で恐る恐る聞いてきた。


「カズマカズマ……本当に大丈夫なのですか…?イ、イルカなんていう危険なモンスターを使ってショーをするなんて、下手したら死人が出るのではないですか…?」


い、一体向こうの世界のイルカはどんなやつなのだろう。

しかし、少なくともこっちの世界のイルカはそんな人を襲うような恐ろしい生き物ではない。


「大丈夫だって。秋刀魚みたいに、見た目とか名前とかが同じでもこっちと向こうの世界では生態とかは違うものが多いんだよ。ほら、こっちの世界では野菜とか果物は反撃してこないだろ?」

「む。確かにそうでしたね。それならば安心です」


めぐみんは緊張がほぐれたのか、力を抜いて椅子に腰掛けた。

俺が向こうの世界に行った時も、キャベツは飛ぶわ、スイカは海で採れるわで散々驚かされたなぁ。……ダメだ、思い出すだけでむしゃくしゃしてきた。

しかし、もしかしたらめぐみんも俺と似たように驚きを感じてるのかもしれない。それはきっとストレスにもなるだろう。俺がそうだったし。

なので、めぐみんの質問には出来るだけ答えようと心に決め、俺はイルカショーの開始を待った。



しばらくめぐみんと他愛もない話をしていると、会場に響きわたる声でアナウンスでショーの始まりが告げられた。


ショーが始まると、飼育員さんの合図でイルカたちが華麗なジャンプをみせる。久しぶりに見てもその凄さがよく分かった。

めぐみんはというと、興奮してさっきから子供の様にはしゃいでいる。


「カズマ!凄いです!あんな大きな生き物を自在に操るなんて、あの人達は魔獣使いの様な職業なのですか!?」

「えーっと。まあ、そんなところだ」


俺は何て返せばいいのか分からず、適当に答えた。個人的にはアクアがやってた鯉の芸の方が近い気もするが。

しかし、あのイルカたちは餌を与えられてあそこまで懐いているのだろう。本当に優秀だ。餌を与えて言うことを聞く分、うちの駄女神よりも賢いのではないだろうか。


俺の受け入れ難い事実を再確認しながら見ている間に、ショーは終盤に差し掛かっていた。


「さて。では最後に観客の中から2名、イルカショーを体験してもらいましょう。そうですね……、そこのお揃いのパーカーを着ているカップルのお二方、前に出てきてください!」


司会のお姉さんがそんな事を……。

……え?それって俺とめぐみんの事!?


見ると、お姉さんは俺とめぐみんに対して手招きをしている。これは間違いなく俺たちの事だ。


「カ、カズマ…。前に出ればいいのですよね?」

「お、おう」


めぐみんは若干顔を赤らめながら聞いてきた。

そういう俺も多分、顔が赤くなってるだろう。

だってカップルだなんて言われたらそりゃ…。


俺達が前に出ると、飼育員さん達に指示の出し方などを教えてくれた。それを見様見真似でやってみると、イルカ達はきちんと俺とめぐみんの指示を聞いて動いてくれた。


「す、凄いですカズマ!と、とうとう私に隠されていた魔獣使いの力が目覚めた見たいですね!」

「そんな訳ないだろ」


しかしこうしてみると本当に楽しい。普段のパーティーの3人なんて、指示なんか聞かずに自分勝手行動するっていうのに。……ダメだ、これ以上考えると悲しくなる。


「おい、今何か失礼な事を考えていませんでしたか?」

「考えてないよ。お前達と違ってちゃんと言う事を聞いてくれる事に感動している訳じゃない」

「全部言ってますよ!何ですか!私たちはイルカ以下だっていうのですか!!」

「いや、そうだろ」


そう言うと、めぐみんが俺に掴みかかってきた。俺もそれに応戦する。そんな中……。


「あ、あの…、イルカたちが驚いてしまうので、もうちょっとだけ静かにして貰えませんか…?」


飼育員さんの申し訳なさそうな声を聞き、俺とめぐみんは何回も何回も謝った。




→後半に続く

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