第64話 スカウト

 一体どうしてこうなったのか。

 いつも通りセシルとアーニャの三人で、この後どうするかの相談をしていたはずなのに、どういう訳か一国の王女様と最強剣士、伝説の黒魔道士というメンバーでお茶を飲んで居る。

 しかも、基本的にミアさんとセシルが久々に会ったという話をしているのだが、ちょいちょい俺に話題が飛び、


「何でも、その聖者さんは疫病に冒された街を丸ごと救ったのよね?」

「どうして、そんな事を知って居るんですか?」

「だって、私の国の事だもの。当然、知っているわよ」


 どういう情報網があるのかは知らないが、俺の事が知られていた。

 ホント、どうなっているのだろうか。


「そういえば、どうしてミアの所にはヒーラーが居ないの? ボクたちみたいな人探しじゃなくて、魔王討伐なんて言ったら、ヒーラーは必須じゃないの?」

「それがねー。教会が優れた白魔道士を紹介するって言って連れて来たんだけど……それがまぁ、碌に魔法を使った事が無くて、魔物と戦った経験も無い中年の使えない司祭だったのよ」


 あー、俺が最初に異世界召喚された時の説明そのままの状態になってしまったのか。

 召喚魔法で異世界からクレリックを呼び出そうとするくらいだし、本当に困って居たんだろうな。

 とはいえ、俺が力になれる事はないけど。

 そんな事を思いながら、適当に話を聞いて居ると、


「ところで、さっきの話だけど、どうして聖者さんがうちの国の機密事項――私が魔王退治の旅に出た事や、レオンとダニエルの事まで知って居るの?」


 ミアさんが先程曖昧に終わった話題を掘り返す。

 さて、どうしたものか。異世界召喚されたと正直に言うべきか。

 ミアさんたち一行には俺が異世界から来た事が知られても別に構わないが、セシルとアーニャが知った時、どう思うだろうか。

 異世界から来た俺とは、行動を共に出来ない……なんて事になったら流石に悲しい。

 それとも、二人はそんな事を気にせず、これまで通り一緒に居てくれるだろうか。

 何と答えるべきか迷っていると、


「ミア。機密事項だって言ったけど、その話はボクも知ってたよ? ミアが魔王退治の旅に出たって聞いて、面白そうだと思ったから、ボクもミアを真似して王国を飛び出して……お兄さんと出会ったんだ」

「あー、なるほど。セシルからかぁー。まぁ流石にエルフの国には筒抜けだよねー」


 セシルがフォローしてくれた。

 いつも自由気ままなセシルが、こういう事をしてくれるのは珍しい気がするけれど、何にせよ異世界召喚の話はしなくてよさそうだ。


「それで、セシルと聖者さん。それに、そちらの女性は、どうして行動を共にしているの?」

「えっと、アーニャ。王女様に、話しても良い?」

「え? あ、はい。大丈夫です」


 許可を取ったので、アーニャが不思議な力によって飛ばされて来た事や、家族と離れ離れになってしまった事。

 家族を探す為に、商人ギルドの本部まで来た事。

 全く情報が得られなかったので、これからどうしようかと相談していた事を話すと、


「なるほど。じゃあ、後でお城に問い合わせの手紙を出しておくわ。商人ギルドよりも、詳しく情報を得られるでしょう」

「あ、ありがとうございます!」


 ミアさんが王女の力を使って調べてくれるらしい。

 異世界召喚の話をしなければならないのかと思っていた時は正直困ったが、これは本当にありがたい。


「ちなみに、貴方が飛ばされたという不思議な力に心当たりは?」

「私自身には全く無いのですが、父が魔王討伐の最前線に居るので、そのせいではないかと思っています」


 ミアさんの問いにアーニャが答えると、イケメン剣士レオンが何かに気付いたらしく、口を開く。


「む……。魔王討伐の最前線の猫耳族か。もしや、貴方の父上は、ミハイル=スヴォロフという名前では?」

「はい! そうです! 父を御存知なんですか!?」

「えぇ。僕が魔王城の前線に居た時、より先に進んで居た別の国の戦士で、時々少し話した事もあるので。スピードを活かし、二本の短剣を扱う凄腕の方でした。顔見知りなので、もしもミハイルに会ったら、娘さんが探していたと伝えておきましょう」

「よろしくお願いしますっ!」


 商人ギルドはハズレだったけど、初めてアーニャのお父さんの話が出てきた。

 やはり大きな都市へ行って、大勢の人から情報収集すべきだろうか。


「あ、そうだ! これをあげる」


 ミアさんがおもむろに腰のポシェットを漁り、セシルに小さな何かを渡した。


「これは?」

「魔法の手紙っていうマジックアイテムだよ。この封筒に手紙を入れて魔力を込めると、一瞬で私の所へ届くの。何か困った事があったら知らせてよ。力になるからさ」

「わかった! ありがとっ!」


 封筒は全部で三つ。

 少なくとも三回くらい助けを求められそうだ。


「じゃあ、お礼……っていうには早いかもしれないですが、これをどうぞ」

「えっ!? ちょ、ちょっと待って。この純度……もしかしてAランクポーション!?」

「えぇ。俺の力ではAランクかBランクのポーションしか作れないんで、Sランクとかは持ってないんですけど」

「いやいや、AランクどころかBランク、いえCランクを作れるだけでも一流の薬師なのに、Aランクが何本も……って、ちょっと待って。今、このポーションってどこから出したの?」

「倉魔法……というか、空間収納ですけど?」

「えぇぇぇっ!? 何その魔法!? ダニエル知ってる!?」


 Aランクのバイタル・ポーションを六本出したら、ミアさんのテンションが再び上がり、空間収納については伝説級と呼ばれる黒魔道士が知らないと首を振る。

 あ、これ、やっちゃった!?


「ねぇ、リュージさん。改めて、私たちと一緒に……」

「ダメっ! お兄さんは絶対にボクと一緒なんだからっ!」


 収まりかけていたスカウトが、再び再開されてしまい、それを阻止しようとするセシルに抱きつかれてしまった。

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