第63話 ホーリープリンセス

「悪よ、滅びよ! セイント・ボム!」


 赤いマントをなびかせた変な奴――もとい、ホーリープリンセス? が爆発を起こし、ゴロツキたちだけを綺麗に吹き飛ばした。

 どこから現れたのかは分からないけれど、アーニャを助けてくれたので悪い奴ではないようだが、爆弾みたいな物を武器にしているのに、丈の短い白いワンピース姿というのは、何故なのだろうか。

 当然、スカートが捲れて下着が見えてしまっているのだが、髪が長く、プリンセスという自称なので、流石に実は男だという事はないだろう。


「そこの貴方、気を付けなさい。さっきの男は悪人よ」

「え? で、でも、私の家族を見たって……」

「アレは嘘ね。私のカンがそう告げているわ」


 カンなのか。

 いや、あのゴロツキたちが嘘を吐いている事には同意するけどさ。


「ぐはっ!」「ぐぇっ!」


 一先ずアーニャが攫われなくて良かったと思っていると、俺の邪魔をしていた二人が突然その場に崩れ落ちる。


「ミア様。いくら相手がゴロツキといえども、一人で先行しないでください」

「はっはっは。まぁそう固い事を言わなくても良いではないか。姫さんなら大丈夫じゃろうて。まったく、剣聖ともあろう者が、柔軟性が無さ過ぎじゃぞい」

「賢者殿が緩すぎるのです。ミア様に万一の事があってからでは遅いのです」


 気付けば、いつの間に現れたのか、金髪のイケメン剣士と魔法使い風の老人が立って居た。

 しかし、若いイケメン剣士はともかくとして、この老人が素早く動けるものなのだろうか。


「そっちの人が居れば、この人はもう大丈夫かしら。レオン、ダニエル、私たちは行きましょう。更なる悪を倒すのよっ!」


 ミアと呼ばれた変な少女が二人に声を掛け、俺たちの前から立ち去ろうとした所で、


「あれ? もしかして、ミアって……ミア=ガリアルディ!?」

「ん……あ! セシルッ! どうして貴方がこんな街中に!?」


 セシルが少女を呼び止め、一方の少女もセシルの名を呼ぶ。


「セシル。知り合いなの?」

「うん。というか、ミアはこの国の王女だよ」

「えっ!? 王女!? この変な……ゴホン! この華麗な女性が!?」

「華麗……へぇー。お兄さんはミアみたいな女の子が好みなんだ。ふーん」

「いや、そういう訳じゃないけど、王女って魔王討伐の旅に出たっていう、あの王女様なの!? という事は、こっちの二人は冒険者ギルド最強の剣士と魔法学院の伝説のウィザード?」


 何故か頬を膨らませるセシルを宥めつつ、王女――ミアさんの顔を見る。

 顔は初めて見るけど、話はよく覚えているよ。

 なんせ、この王女様が魔王を倒すなんて言い出さなければ、俺が異世界に呼ばれる事は無かったからね。

 ……旅に出てくれて、ありがとう!


「あれ? セシル。この人は? どうして、うちの国の機密事項を知っているの?」

「お兄さんは……何て説明すれば良いんだろ。薬師? それともお医者さん? 違う街では、聖者様って呼ばれる事もあったよね」

「セシル、聖者はやめてくれよ。そんな柄じゃないし、とりあえず旅の薬師が一番しっくりくるかな」


 ただ異世界で観光しようとしか思っていない俺が、たまたま人を助けて聖者と呼ばれた事があったけど、世界の平和のために魔王を倒そうとしている人たちを前に、その呼び名はどうかと思う。

 なので、なんちゃって聖者の事は黙っていたかったのだが、


「えっ!? 聖者って呼ばれている旅の薬師……もしかして、この人が噂のリュージさん?」


 何故かミアさんが俺の事を知って居た。

 しかも、それに追い打ちをかけるようにして、


「ふむ。この方が聖者殿ですか。思っていた以上にお若いですね。しかもセシル様と一緒に居るという事は、エルフが認める程の実力という事」

「ほっほっほ。噂通りの者ならば、是非ワシらと共に来て欲しいくらいじゃの。なんせ、こちらには治癒能力を持つ者が姫様だけじゃからの」


 ミアさんのお供の二人が俺の事を値踏みするように見てくる。


「ダメだからねっ! お兄さんはボクと一緒に居るんだからっ! あげないよっ!」

「ふぁっふぁっふぁ。いや、あくまで希望じゃよ。もちろん、エルフの王女様を護る騎士様を取ろうなんて思っとりゃせんよ」

「もぉっ!」


 ダニエルと呼ばれていた老人――伝説のウィザードにからかわれ、セシルがちょっと涙目になりながら俺に抱きついてくるけど、まぁ俺が魔王退治に参加する事は無いよ。

 参加したいとも思わないし、出来るとも思わない。何より俺が望むのは、異世界でのまったりとした観光な訳だしね。

 不機嫌そうなセシルの頭を撫でていると、


「うーん。ダニエルの話じゃないけど、割と本気でヒーラー不在なのが困って居るのよね。とりあえず、セシルと久々にあった事だし、少しだけお茶しない? というか、私たちも相席させてもらって良いかしら」


 どういう訳か、一国の王女様とその一行と共にお茶を飲む事になってしまった。

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