第62話 愛と勇気と希望
「んんー、おはよ……って、セシル!? な、何してるのっ!?」
「んぅー……あ、お兄さん。おはよー」
高級ホテル相当のちゃんとした宿で、もちろんベッドは一人一つあるというのに、何故かセシルが俺のベッドに……というか、俺の胸の上で寝ていた。
「おはよー……じゃなくて、どうしてベッド二つあるのに、俺のベッドで寝ていたの?」
「んー、だって何だかベッドが硬いっていうか、いつもより寝心地が悪いんだもん。だからー、お兄さんの上で寝れば、いつもと同じ寝心地でしょ?」
「でしょ? って言われても……まぁ確かにベッドは少しイマイチだったよな」
とはいえ、部屋の内装はしっかりしているし、掃除も行きとどいている。
ベッドメイクもしっかりされていたから、これはこの宿のベッドが悪いというより、日本の――城魔法で呼び出しているベッドの方が質が良いからだろう。
……まぁ俺の部屋のベッドも、クリニックのベッドも日本からすれば普通のベッドなんだけどさ。
とりあえず、起きて朝の準備をしようとて、先ずはセシルが毛布を身体に纏ったまま上半身を起こした所で、
「失礼いたします。お客様、朝食のご準備が……きゃっ! し、失礼しましたぁっ!」
「待って。違う! 違うんだーっ!」
起こしに来てくれたメイドさんが顔を真っ赤にして逃げたしたので、慌てて追いかける。
よくよく考えたら、こっちの世界は時計や電話が無いから、朝食の時間にメイドさんが起こしに来るのか。
だけど、それにしてもタイミングが悪過ぎるよっ!
……
「うーん、なんだろうなー」
アーニャと合流して朝食を済ませ、ギルド本部へいざ出発……となったのだが、昨日のモヤモヤがまだ晴れない。
この違和感みたいなのは一体何なのだろうか。
「お兄さん、どうかしたのー?」
「んー。いや、別に具合が悪いとかではないんだけどさ、昨日からどうも身体に違和感があるんだよ」
「そういえば、昨日の夜からそんな事を言っていたよね。お兄さんは自分で自分を診る事は出来ないの?」
「あ、そうだ。診察すれば良いんだ……って、あれはクリニックでしか使えないんだよな。とりあえず、先にギルドへ行ってしまおう。俺の事は後で良いよ」
宿をチェックアウトするついでに商人ギルドの場所を聞いて、今度こそ出発した。
人が多いので、逸れないようにセシルとアーニャと手を繋ぎ、教えてもらった通りに大きな通りを歩くと、水色の大きな建物の前に辿り着く。
「これが、商人ギルドの本部か」
「へぇー。それなりに大きいねー」
「あの、早く! 早く中へ入りましょう!」
アーニャに引っ張られるようにして中へ入り、ギルドの職員や、他の街から来たと言う行商人などに話を聞いてみたが、アーニャの家族の情報は出て来なかった。
しょんぼりしているアーニャを連れ、ギルドから少し離れた場所にあるカフェで、これからどうしようかと話をしていると、
「よう。アンタたち、獣人族を探しているんだってな」
ガラの悪い五人程の男たちが話しかけてきた。
見た目は明らかに胡散臭い、いわゆるゴロツキと呼ばれるような風貌なのだが、
「は、はい! 何か、御存知なのですか!? 些細な事でも構いませんので、教えてください!」
アーニャがキラキラと目を輝かせて話に喰いつく。
「いやー、俺たちもちょいと耳にした程度だから詳しくは知らないんだがよ。あっちに見たって奴が居るんだよ。話だけでも聞きに行くかい?」
「はいっ! お願いします!」
あからさまに怪しいのだが、アーニャが居ても立っても居られない様子で立ち上がってしまった。
仕方が無い。嫌な予感しかしないが、行くしかないか。
アーニャと一緒に行こうと俺が立ち上がると、
「あー、そっちの兄ちゃんはここで待っていてくれ。その見たって奴が極度の人見知りでよ。出来るだけ少ない人数にしてやりてーんだわ」
もっともらしい言い分で、アーニャを一人にしようとする。
そのくせ、
「でも、そっちのお嬢ちゃんなら来ても良いぜ。人見知りする奴だけど、一人くらいなら増えても大丈夫だろ」
などと言ってくる。
いやいや、だったら俺が一緒でも良いだろうが。
確実に黒だと決めつけて、セシルに目をやると、俺と同じ考えだったようで、無言のまま小さく頷いた。
だがしかし、
「すみません。ではリュージさん、セシルさん。少しだけ待っててください。私、ちょっと話を聞いてきます」
俺が止める間も無く、アーニャが走り出す。
「アーニャ、待つんだ! これは、怪し過ぎる! 止まるんだっ!」
「おっと、兄ちゃん。どこへ行くつもりなんだ? 座ってな!」
だが俺の声はアーニャに届かず、三人の男が行く手を阻む。
「邪魔を、するなっ!」
ゴロツキたちにタックルを仕掛けて、強硬突破しようとした所で、
「フッ――この世に悪の栄えた試しなし! 愛と勇気と希望の名の元に、ホーリープリンセス参上っ!」
変な奴が現れた。
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