第49話 地下墓地
服を買ったついでに、近くにあった露店で売っていたランプを購入し、いざ遺跡の地下へ。
暗視目薬があるから不要だとは思うけど、薬の効果が切れた時の為だ。
ちなみに、当然だけど買った服もランプも、倉魔法で収納している。流石に、探索へ出掛けるのに余計な荷物だらけって訳にはいかないからね。
「セシル、そこ段になっているから気を付けて」
「はーい」
先頭をヴィックが進み、俺、セシル、アーニャと続くのだが、幽霊の本領発揮と言うべきか、歩き難い場所も、ちょっとした岩も関係無しに、スーッとヴィックが進んで行く。
「ヴィックは障害物を通過出来るんだ」
「まぁ幽霊だしな。だから、戸締りがしっかりしてあったリュージ殿の家にも入れたって訳さ」
「なるほど。じゃあ、この先に魔物とかが居ないか見て来てくれる?」
「いや、ここに魔物なんて居ないさ。今はまだ大丈夫だが、もう少し進むと外の光が届かなくなって、闇しかなくなる。草も生えないし、こんな所に来る人や動物なんて居ないから、魔物の類も寄りつかないんだ」
あー、表現は悪いけど、魔物だって食べる餌がある場所に棲むよね。
こういう場所だと、居たとしても暗闇が好きなコウモリくらいだろう。
……コウモリみたいな魔物は居ないの? 大丈夫?
「何となく想像している事が分かるが、ここには闇を好む魔物も居ないぜ。俺はもう何百年とここに居るからな。間違いねぇ」
「ヴィックがそこまで言い切るのなら、きっと大丈夫だね」
「まぁそこは信じてもらって良いぞ。しかし、リュージ殿。既にかなり暗いはずなんだが、よく歩けますな」
「あ、暗闇でも良く見えるようになる薬を使っているから。三人とも使っているし、そこはあんまり心配しなくて良いよ」
「なるほど。リュージ殿は薬使いであったか……と、早速見えてきたな」
ヴィックに言われて視線を遠くに向けると、何やら半透明の檻? みたいな物が見える。
一先ず、その近くまで移動すると、太くて荒い格子状の檻みたいな物と、薄い膜が道を塞いでいた。
「これが、例の結界だ。この奥を三百六十度、球状に囲っていて、俺が触れると火傷したみたいに痛みが走るんだ。で、痛みを我慢して無理矢理突破しようと試みたんだが、その薄い膜みたいな奴が行く手を阻むんだ」
「火傷かぁ……俺たちが触っても大丈夫なの?」
「おそらく、大丈夫だろう。闘技場の死者を運びに来た奴は、全く気にした様子も無く通っていたからな。おそらく、見えてすらないのだろう」
「なるほどね」
Aランクの暗視目薬を使っているからハッキリと見えているけれど、本来はここに結界みたいな物がある事にも気付けないのか。
一先ず、試してみないと何も進まないので、恐る恐る手を伸ばして行く手を阻む膜に触れてみる。
すると、そこに何もないかのように、一切の抵抗無く手が素通りしていった。
「あ、ほんとだ。何ともないね」
結界の中へ入ってみたけれど、息苦しいとか、痛みを感じるとかって事も全く無い。
「んー、ボクの想像だけど、アンデッド……幽霊とか不死の魔物が墓地から外へ出ないようにしているんじゃないのかな?」
「げ。そんな魔物が出てくるの?」
「あくまで想像の話だよー? まぁ出て来た所で、ボクが居るから大丈夫だけど」
俺に続いてセシルが中へ入ると、
「ちょ、ちょっと二人とも! おいて行かないでくださいよっ!」
いつになく余裕の無いアーニャが飛び込んできた。
「……アーニャ。無理しなくても良いよ? そこでヴィックと待ってる?」
「そ、それはそれで怖いですよっ! い、一緒に居てくださいっ!」
アーニャががっちり腕を組んできた……というか、しがみ付いてきた。
それを見たセシルが、何故か反対側の腕にしがみ付いてきたけれど、全然怯えてないよね? むしろ、少し拗ねてるよね? 場所と行動と表情がバラバラだよ?
「じゃあ、ヴィックはそこで待ってて。俺たちで少し中の様子を見て来るから」
「分かった。ちなみに、俺の恋人の名前はロザリーっていうんだ」
「了解っ! じゃあ、行ってくるからー」
セシルがグイグイと俺の右腕を引っ張って前に進み、アーニャがぎゅーっと俺の左腕を締め付ける。
そんな状態が暫く続き、それなりに奥へと進んだ所で、コツコツと前から何かが向かって来る音が聞こえて来た。
「……セシル。何か来るぞ」
「うん。でも、大丈夫だよ」
何が来ているのかも分からないのに大丈夫という、セシルのこの自信は非常に心強い。
一先ず、相手が何かを見極める為に待ち構え――というか、アーニャが怖がって一歩も進んでくれなくなっただけなのだが――その姿が視界に映る。
「うげっ……骨が歩いてる」
「スケルトンだね。死んでしまった剣闘士のものかな? 剣を持っているね」
「ひぃぃぃっ! セシルさん、リュージさん! 後は任せましたっ!」
俺は任せられても何も出来ないよっ!
テンパッているからか、余裕を見せるセシルではなく、全く余裕の無い俺が、もっと余裕の無いアーニャから盾にされてしまった。
まぁ良いんだけどね。
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