第48話 探索準備

 幽霊剣闘士――ヴィックの言う通り、窓から外を見てみると遺跡の様な場所の真ん中に家を出していた。

 人があるまる前にと、急いで準備を済ませ、全員で家を出る。


「ほぉー。出し入れ自由な家かー。凄いですな。この町で様々な人を観察してきたが、そんなスキルを使える人は初めて見たぜ」


 とりあえず場所を変え、観光客向けなのか、遺跡からそれなりに近い場所の露店で朝食と情報収集をしてみる。

 三人分のホットドッグみたいな食べ物を買い、ついでにオバちゃんに遺跡の事を聞いてみた。


「遺跡の地下? 一応、入れるけど自己責任よ。何でも、昔は墓地として使われていたらしいし、流石に町でも地下までは管理していないから、怪我とかしても知らないわよ?」

「いえいえ、ちょっと覗いてみようかなーって思っただけでして」

「そうなのかい? だったら、この町に夏頃また来てみなよ。闘技場で亡くなった人たちのために、毎年ゴスペルコンサートをやっているからさ」

「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」


 例を言って露店から離れると、


「今、言ってたコンサートなんだけど、あれうるさいんだよなー」

「えーっと、ゴスペルって言っているくらいだし、神様の歌なんじゃないの?」

「歌の内容はそうかもしれないけど、歌っているのは教会の人でも何でもない、ただの歌好きの人たちだから、何の効果も無いね」


 ヴィックが中々に辛辣な事を言う。

 聖なる歌とかそういう類は、日本でも結婚式とかで聞く事があるけれど、あれって意味ないのか。

 まぁ結婚式は牧師さんもアルバイトの外国人だって言うし、とりあえず雰囲気があれば良いのかもしれないけど。

 遺跡が見えるベンチに腰掛け、一先ずホットドッグ風の朝食を食べ終え、さぁ次だ……と言った所で、


「って、セシル。口に何か付いてるよ」

「えー、お兄さん取ってー」

「はいはい。じゃあ、行こうか。遺跡探索の前に、食料を補充しよう」


 セシルの口に付いていたパンくずを取る。

 やれやれと思っていると、


「あの、リュージさん。リュージさんも口にソースが付いていますが」

「えっ!?」

「あー、手で拭かないでください。……はい、取れましたよ」


 アーニャにハンカチで口を拭かれてしまった。

 俺、結構良い歳なんだけど、セシルと変わらないじゃないかと苦笑していると、


「リュージ殿。その女の子は……娘さんで?」

「いや、違うから。大事な仲間だよ」

「なるほど。じゃあ、こちらの猫耳のお嬢さんが奥様?」

「奥様……って、いや俺は結婚してないから」

「はっはーん。なるほど。両手に花ですな。いやぁ、羨ましい」


 ヴィックが何かを盛大に勘違いて、一人でうんうんと頷いている。

 セシルはキョトンとしているし、アーニャは完全にスルーしているので、俺も放っておこうか。

 町の商店街へ移動し、アーニャが望む食料を買い込み、遺跡の中でどれくらいの時間居るかも分からないので、すぐに食べられるサンドウィッチみたいな物も購入しておく。


「リュージ殿。では、いよいよ出発ですな?」

「いや、待って。先に二人の服を買うから。ヴィックが急ぐ気持ちも分かるけど、これはこれで大事な問題だから、ちょっと待って欲しいんだ」


 セシルもアーニャも、同じ服を洗濯して着続けているし、下着は芽衣のものだからね。

 このまま遺跡の中へ入ってしまったら、また暫く服が買えないなんて事になる可能性が無くはない。

 ヴィックには悪いけど、今度こそちゃんとした服を買ってあげないと。


「分かった。まぁ今まで待ってきた年月に比べれば、一日や二日なんて、ほんの一瞬だからな」

「いや、流石に服を買うだけでそんなに時間は必要ないけど」

「リュージどの。甘いですぞ。女性が服を買う……これ程までに時間の掛かる買い物など、そう無いですからな」


 ヴィックが恋人の事を思い出しているのか、遠い目になり、ちょっとげんなりした表情に変わる。

 愛する恋人の事を思い出しているはずなのに、そんな表情になるくらい時間がかかるの!?

 けど、それは流石にヴィックの恋人が迷う人だからじゃないかな? セシルやアーニャは、あまり服に拘る感じはしないんだけど。

 この二人ならすぐ終わるだろうと思いながら、町にあった服屋さんへ。


「えっと、ヴィックの話もあるんだけど、一先ずセシルとアーニャの服を買おう。幸い、ララさんから貰った報酬もあって、資金には余裕があるから好きな服を買ってきてよ」

「お兄さん、いいの?」

「リュージさん。私にまで宜しいのですか?


 困惑する二人に大きく頷くと、早速店内を見て回り、


「お兄さん。じゃあ、ボクはこれだけ」

「私も、これだけお願いします」

「分かった。じゃあ会計を済ませようか」


 ほんの数分でそれぞれの服を何枚か選んで来た。


「……え? 何これ、早くない? 普通は、『この白いのと赤いのどっちが良いと思う?』ってどっちを答えても正解にならない質問をされたり、『こっちと、こっち、どっちが似合う?』とか、間違い探しかよってくらいに似た服を出されたりするんじゃないのか!?」

「えっと、見ての通り二人とも選び終わったけど?」

「何故だっ!? ここから似たような服を何着も試着室へ持ち込み、一着ずつ着替えては感想を聞かれ、適当に答えたら拗ねられるという、無限地獄にハマるんじゃないのかーっ!?」


 後ろで理解に苦しむ叫び声をあげるヴィックをスルーしながら会計を済ませたので、いよいよ遺跡の地下を探索だ。

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