第20話 森の中の休憩

 セシルを無理矢理起こして、アーニャに身の潔白を証明して、ようやく三人で朝食となる。

 相変わらずアーニャの作ってくれる食事は美味しいし、エアコンが動いているので温度も快適なのだが、変な汗が出るのは何故だろうか。

 何も後ろめたい事は無いはずなんだけど、無意識にいろいろと考えてしまっているのかもしれない。


「ごちそうさまっ! さぁ、お兄さん。いよいよ森だね。楽しみだね」

「お、おぅ。そうだねっ! 森の中は自然がいっぱいで良いよね」


 何とか気分を変えようと、セシルの言葉に便乗すると、


「……リュージさんは、あまり森の中へ入りたがっていないような感じがしたのですが……」

「ち、違うよ? 夜の森はどうかなって思っただけで、そんな事は全くないよ? いやー、森林浴良いよね。マイナスイオンって感じで」

「マイナス……イオ?」

「いやいや、気にしないで。こっちの話だから。さぁ、今日は張り切って行こう!」


 アーニャが訝しげな表情を向けてきたけれど、何とか勢いで乗り切った。……乗り切ったと思う。

 別にアーニャが何か言ってきた訳ではないんだけど、「俺は変態じゃないんだ。朝起きたら、セシルが俺の胸で寝ていただけで、無実なんだ」と心の中で言い訳をしてしまう。

 一方で、当のセシルは早く行こうよーと、俺の腕に抱きついてくる。

 無邪気に喜んでいるだけなんだけど、女の子なので、もう少しボディタッチを減らしてくれた方が良さそうなのだが。

 一先ず朝食の後片付けを手伝い、出発準備が整ったので、セシルを先頭に森の中へと入って行く。


 大きな森だとは思っていたけれど、広さだけではなく、樹木の一本一本も太く、背が高い。

 上の方で葉が生い茂り、陽の光が殆ど届かないのだが、


「二人とも、次はこっちだよ」

「そこに窪みがあるから足元に気を付けてね」

「お兄さん。そこに生えている草は薬草だよ。少し摘んでいこうよ」


 セシルは夜目が効くのか、薄暗い森の中でも普段と変わらぬ歩みを見せる。

 しかし正直に言わせてもらうと、暗くて視界がはっきりしない事と、どれも同じ樹木に見える為、同じ場所をグルグル回っているかのように思えてしまう。

 結構長い時間を歩いているし、道に迷っていないかセシルに聞いてみた方が良いだろうか。だけど、セシルはエルフだという話だから、森で道に迷うような事は無いのか?

 どうしようかと考えていると、


「お兄さん。結構歩いたし、一度休憩にする? その先に、少し開けた場所があるんだ」


 と、セシルから言ってくれた。

 少し歩くとセシルの言った通り、木々に囲まれた中に小さな広場のような場所があったので、早速城魔法を使って家を出す。


「ふぅー、お兄さん。やっぱり森の中を歩くのは楽しいねー」

「そ、そうだね」

「うん。だけど楽しさのせいで、つい歩き過ぎちゃって、休憩を忘れちゃうけどね」


 確かに、随分と歩いた。

 二時間くらい歩きっぱなしだったのではないだろうか。

 正直、俺は脚がメチャクチャ痛いし、物凄く疲れているのだけれど、それでもセシルはまだまだ余裕がありそうだ。


「……って、しまった。結構歩いたけど、アーニャは大丈夫?」

「私ですか? この程度でしたら全然大丈夫ですが」


 あー、そういえばアーニャは獣人族だから体力はあるって言っていたね。

 一先ず、この森の中で薬草を沢山拾ったし、疲労回復と体力向上のポーションが作れないか挑戦してみよう。

 セシルやアーニャが一休みしている中、俺は調剤室へ移動し、並べられた薬草や薬を鑑定していく。

 暫く鑑定を使っていると、滋養強壮や持久力、夜盲症に効くという複数の薬草を見つけたので、とりあえずそれぞれを調合してみる事にした。


「先ずは滋養強壮効果があるって表示されたグワオーデンの根という薬草を調合すると……出来た。えっと、ナリッシュメント・ポーション? 何だこれ?」


 と言う訳で、名前から効果が想像出来ないので、すぐさま鑑定してみる。


『鑑定Lv2

 ナリッシュメント・ポーション

 Bランク

 滋養強壮効果がある』


 うわー。説明が薬草の効果そのままだー。

 ただ、薬草の状態ではDランクとなっていたので、ポーションにした事で、効果が上がっているのだろう。

 まぁ要は、栄養ドリンクだって事だよね。

 とりあえず、かなり歩いて疲れているし、早速飲んでみよう。


「……あ、熱い!? 身体の中から力が湧いてくるみたいで……大丈夫なのか? このポーション」


 実際の効果は分からないけれど、ただ効いている感じはする。

 徹夜で仕事をしなければならない時に飲んだ栄養ドリンクよりも、即効性があり、力が溢れ出るかのようだ。

 いざという時にあれば便利そうだし、材料も豊富にあるので十本分くらい作っておいた。


「よし、どんどん作るぞ」


 気合が入った所で、持久力の効果がある薬草――タレハ草を調合すると、エンデュランス・ポーションというBランクのポーションが出来た。

 これも鑑定してみると、元の薬草と説明が同じなのが残念だけど、効果は上がっているのだろう。

 一先ず、ナリッシュメント・ポーションの効果があるので、こっちは飲まずに、ストック用として十本作っておいた。

 そして最後は、夜盲症に効くという、サエグサの花だ。これを調合してみると、暗視目薬(A)というアイテムが出来た。


「目薬か……初めてポーション以外のアイテムが出来たな。とりあえず、使ってみるか」


 とりあえず使って窓から外を覗いて見ると、薄暗かった森の中が照明が点いているかのように明るく見える。

 これは、夜に活動する事があれば役立ちそうだなと、一気に二十本くらい作った所で、


「お兄さーん。そろそろ出発しても良いー?」


 休憩が終わり、移動が再開される事となった。

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