第15話 次の目的地

 アーニャが下ごしらえを終えたので、一先ずこれからどうするかを決める事にした。

 大前提として、俺たちはアーニャの家族を探すが当面の目的だ。

 その上で、俺は異世界を見て回りたいので、行った事が無い場所ならどこでも良い。

 セシルも、近くに森があればどこでも良いと言っている。

 じゃあアーニャは? となるが、遠い国から飛ばされて来たので、この周辺国の事が全く分からない。

 ……まぁ周辺の地理を知らないのは俺も同じだが、要は行くアテが無かった。


「うーん。情報を収集するなら、とりあえず人が多い場所の方が俺は良いと思うんだけど、どう?」

「まぁそうだろうね。だけど、ボクはただ多いだけでは意味が無いと思うよー」

「ん? どういう事?」

「例えば貿易が盛んな街だと、人の出入りが多いから、この国の事だけじゃなくて、いろんな国の事が分かるんじゃないかなー?」

「おぉー、流石セシル。なるほどねー。じゃあ、この近くで貿易が盛んな街はどこだろ? やっぱり王都?」

「んー、詳しくは知らないけど、王都は違う気がするよー。なんでも、王都に商品を持ち込むと、税金が高いとか何とかで、貿易はそんなに盛んじゃないって聞いた事があるから」


 セシルは凄いな。貴族の息子――って、勝手に俺がそう思っているだけだけど――ならではの情報だ。


「あ、あのっ。貿易なら港町が盛んではないでしょうか?」

「そうだね。じゃあアーニャの言う通り、海を目指してみようか」

「そうですね……って、私、どっちに海があるか分からないんですけどね」


 うん。俺も分からないよ。

 こういう時はセシル先生に聞いてみるのが一番だと思うのだけど、何故か当のセシルが不思議そうな表情を浮かべている。


「セシル、どうかしたのか?」

「え? あ、うん。二人とも普通に話していたけど、港町とか海って何?」

「えぇっ!? セシル、海を知らないの!?」

「うん。話からすると、貿易が盛んになる要素があるんだよね?」

「マジか。……セシルが海を知らないって事は、つまりこの辺りに海が無いって事なのか?」

「お兄さん。だから、その海って何なのさー」


 思わずアーニャと顔を合わせ、二人がかりでセシルに海と港町について説明していく。

 だが、俺のイメージしている海とアーニャの言う海はほぼ同じなんだけど、時々食い違いもあった。

 例えば、


「海は青くて、綺麗で、キラキラしていて、海産物もいっぱい採れるザ・青春って場所なんだ」

「海は黒くて、暗くて、冷たくて、水棲の魔物も居る凄く危ない場所なの」


 と、アーニャの話を聞いていると少し不安になるな。

 俺は大学生の頃に友達と言った海水浴場をイメージしているんだけど、この世界にはそんな甘い場所じゃないって事か?

 ……まぁ俺が行った海水浴場だって、甘い出来事なんて一つも起こらなかったけどな!


「一先ず、二人が言っている海や港町っていうのは何となく分かったけど、この国は元より、近くに海なんて無いと思うよ?」

「うーん、じゃあ……あ! 商人ギルドは? そこなら、貿易みたいな事もやっているんじゃないかな」

「良いんじゃないかな。けど、この村の規模だと貿易なんて大きな取引は望めないから、どうせなら商人ギルドの本部に行ってみようよ」

「へぇー、本部なんてあるんだ」

「うん。でもボクも、流石に本部の場所までは知らないから、商人ギルドへ聞きに行こうよ」


 俺とセシルが未だ着替えを済ませていなかった事に気付き、それぞれいつもの格好に着替えて商人ギルドへ行くと、受付の女性が俺たちを見た途端に奥へと引っ込み、ギルドマスターであるトーマスさんが現れた。

 今日はセシルが俺の後ろに隠れてなかったからなんだろうけど、本当にセシルはどういうポジションに居るのだろうか。


「セシル様、サイトウ様。本日は、当ギルドへどのような御用件でしょうか」

「あー、すみません。そんな大した用事では無いんですけど、商人ギルドの本部がどこにあるのか教えて欲しいんですよ」

「本部でございますか? 私も一度か二度程しか行った事がないのですが、ヂニーヴァの街にございます」

「ヂニーヴァ……って、近いですか?」

「いえ、遠いですね。ここから南西の方角にあるのですが、通常でも馬車で十日程掛かるかと」


 馬車で十日って、それメチャクチャ遠いよね。

 王都からこの村までの半日でさえ、する事がなくて結構苦痛だったのに。


「って、ちょっと待ってください。通常でも……って、今は通常じゃない何かがあるんですか?」

「えぇ。二日前に起きた大きな地震で、西へ繋がる街道が崩れてしまったのです。そのため、それを知らずに出発していた馬車も軒並み戻ってきたようです」


 大きな地震があったのか。

 はっきり言って地震は怖いからな……って、二日前? あれ? それって……


「あぁ、あの地震は凄かったね。とてつもなく大きな魔力が働いたのを感じたよ」

「なんと、魔力ですか! セシル様が仰るのであれば、お間違いないでしょう。何か良からぬ事が起こらなければ良いのですが」


 セシルが魔力がどうとか言っているけど、もしかしてその地震は、俺を異世界召喚した時に起きたのではないだろうか。

 俺がこの世界へ来た時、物凄く家が揺れていたし。

 ……いや、きっと気にし過ぎさ。偶然、偶然だよ。あははは……たぶん。


「えーっと、ここから直接行けないのであれば、一度王都へ戻った方が良いんですかね?」

「そうですね。王都からですと南周りの街道がありますが……かなり遠回りになるため、おそらく二十日以上かかるのではないかと」

「二十日以上!? うーん、流石にそれは厳しいかな」


 十日でもどうかと言うのに、その倍以上掛かるのは勘弁願いたい。

 けど、歩いて行けばもっと時間がかかるだろうし、自分で馬を調達して……って、馬なんて乗った事ないよ。

 どうしたものかと考えていると、


「そうだ。お兄さん、一先ず南西に行ければ良いんだよね?」

「え? あ、うん。その崩れた街道さえ抜けられれば、次の街で馬車があるだろうし」

「じゃあ、大丈夫。きっと何とかなるよ」


 セシルがニコニコと微笑みかけてきた。

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