第2章 異世界でお医者さんごっこ
第14話 家事手伝いアーニャ
「なるほど。つまり私を助けるために、服を脱がさざるを得なかった訳ですね」
「そう。そういう事なんだよ」
アーニャの着ているワンピースのが脱げた事について、俺のスキルである診察を使用するためだという事を何とか説明し、ようやく理解してもらう事が出来た。
だが、基本的にこの世界では医療といえば教会に寄付して回復魔法を使用するか、ポーションを飲むかの二択らしい。
セシルは貴族の息子だからか、医者と言う職業を知っていたけれど、アーニャはそもそも医者を知らなかったので、説明が大変だった。
「一先ず俺は、診察と調合が出来るから、薬を売って生活費を稼ぎながら世界を回ろうと思うんだ」
「そして、ボクは薬草の知識があるから、調合に使える材料を集めて、お兄さんに渡してるんだー」
「そうだね。正直言って、俺は薬の知識はあるけれど、野生で生えている草を薬草か否かの判断は出来ないから、セシルの知識は本当に助かっているよ」
そう話した後、改めてセシルの紹介をすると、アーニャが困ったように眉をひそめる。
「うーん。それぞれ収入を得る伝手があるんだ。でも、私は薬も薬草も知識が無いから、家事くらいしか出来ないかも……」
「え!? 家事が出来るの!? もしかして、料理とか作れる?」
「職業で料理人をしている人のレベルを求められると困りますが、家庭で出す分には普通に出来ますけど?」
「マジで!? それは本当に助かる。俺もセシルも料理は出来ないからさ」
「そ、そうなんですか? 今まで、食事はどうされていたんですか?」
「露店で買ったりしてたかな。あ、昨日は野菜炒めを作ったよ!」
しかし改めて考えてみると、東京でチャーハンはよく作っていたけど、味付けは中華スープだとか、醤油とかで、この世界で作れるかと言われたら微妙な気がしてきた。
昨日の野菜炒めだって、味付けは塩だけだったし。
「では、全力で家事をするので、どうか私を連れていってくれませんか?」
「それは大丈夫だって。見ての通り寝る場所はあるから、食事さえ確保出来ればどこにでも行けるしね」
「見ての通り……って、ここはリュージさんのお家なんですよね? だったら、旅に出たらここには戻って来れないと思うんですけど」
「あ、そっか。説明し忘れてたね。確かにここは俺の家なんだけど、スキルでどこにでも家を呼べるんだ」
「……はい?」
「百聞は一見にしかず……これについては見た方が早いかな。アーニャ、ついて来て」
バイタル・ポーションを使って、病み上がりから健康状態になったアーニャを連れ、家から出る。
「何だか、変わった形のお家ですね。こっちの国では、こういう家の形が主流なんですか?」
「いや、この国でもこんな形の家は無いかな。実は俺の故郷の家なんだよ……と、今はその話は置いといて、よく見ててね」
パタンと扉を閉めると、光に包まれて家が消える。
「え? えぇぇっ!? ど、どうなっているんですか!?」
「じゃあ、もう一度見ていてね。今度は、こっち側で……サモン」
俺の言葉で、少し位置と向きが変わった状態で家が現れる。
「俺のスキルで、家を呼び出せるから、どこへ行っても野宿なんてせず、宿代も不要で安全に眠れるよ」
「す、凄い」
「じゃあ、とりあえず中へ入ろうか」
一階のクリニックから入り、二階の住居スペースへ移動すると、セシルがソファでラノベを読んで居た。
「あ……そういえば、セシルが家の中に残っているままで家を消しちゃったんだけど、大丈夫だった?」
「え? 何が? 別に何も無かったよ?」
「そ、そっか。とりあえず、次からは外へ出る時は声をかける事にするね」
薬草を入れたりしていたから問題ないとは思っていたけれど、中に誰かが残って家を消したのは初めてだったな。
何事も無くて良かったけど、気を付けないと。
一人で反省していると、アーニャがキッチンを見て声を上げる。
「リュージさん! これ、最近発売されたばかりの炊飯器じゃないですか! ……わっ! こっちはコンロまである! しかも、お魚が焼けるグリル付き! めちゃくちゃキッチンに凝ってますね!」
「凝っている? ……あ、うん。そうなんだ。どうせなら美味しい料理が食べたいからね……まぁ俺は作れないけど」
「私の家よりも、調理器具が沢山……包丁も何種類もあるんですね」
「そ、そうなんだ。あははは……」
母さんが料理好きだったからな。
あと、父さんが食器集めが趣味だったから、フォークだけでも数種類あるし、和食器も洋食器も結構な数がある。
俺は持て余していたけれど、アーニャならしっかり活用出来そうだな。
「キッチンの設備を確認するのも兼ねて、簡単にお昼ご飯の下ごしらえとかして見ても良いですか?」
「もちろん良いよ。食材だけは昨日沢山買ったから、冷蔵庫にあるものは何でも使って良いからさ。もちろん調味料も」
「……調味料? 調味料って、もしかして塩とかですか?」
「うん。塩はそっちで、砂糖はこっち。あとは……胡椒がそこにあるね」
残念ながら、味噌や醤油が良く分からない白い液体に変わっている。
実家の調味料を全て把握している訳じゃないから分からないけれど、他にも色々と変わっていそうだ。
「塩はまだしも、砂糖に胡椒って、リュージさんはどこの貴族なんですか!?」
「貴族!? いやいや、俺は貴族じゃないよ。でも、まだストックだってあるはずだから、気にせず使って良いからね」
そうか。この世界では調味料は貴重なのか。
いろいろと日本ベースで考えると、ギャップがあるな。
そんな事を考えながらアーニャの作業を見学していると、見事な手際で野菜を切っている。
中学生でこの手際は素晴らしいな。
「凄いね、アーニャ。その歳で、そんなにテキパキ動けるなんて」
「あ……そっか。こっちの国には猫耳族はおろか、獣人が珍しいんでしたっけ」
「え? あ、うん。そうだけど、どうかしたの?」
「いえ、私は幼く見えているかもしれませんが、これでも二十歳ですから」
「……えぇっ!? ほ、本当に!?」
「はい。人間より寿命が長いので、その分成長もゆっくりなんですよ」
マジですか。
十三歳くらいだと思っていたアーニャが二十歳……やっぱりここは異世界で、日本の常識は通じないみたいだ。
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