第16話 少し早めのお風呂タイム
商人ギルドの本部へと続く街道が通れないという話があったのものの、セシルに策があるというので、トーマスさんに礼を告げてギルドを出た。
ちなみに、トーマスさんは策について何かピンと来たらしく、「セシル様が居られれば、森が使えますね」と言っていたのだが、俺にはよく分からない。
なので、馬車が出ていないというのに、どうするのかとセシルに聞いてみると、逆に質問が返って来る。
「えっと、遠回りするよりかは早く目的地へ付けるんだけど、お兄さんも猫のお姉さんも、少しくらいは歩いても大丈夫だよね?」
「まぁ少しくらいなら。疲れたら家を出して休む事も出来るし」
「私は獣人族だから、全然平気よ」
ふむ。アーニャは体力に自信があるのか。
俺は日本での仕事はデスクワークばっかりだったし、趣味もゲームやラノベだから、正直言ってあまり体力は無い。
後で時間があったら、体力が上がるポーションが作れないか試してみよう。
「じゃあ、二人とも大丈夫って事かな。だったら、一先ず食料を買っておこうよ。念のため」
「念のため……って、セシル。どういう方法で次の街へ行くんだ? 今の話からすると、歩いて行く見たいだけど、街道は途中から通れないらしいぞ?」
「うん。簡単に説明すると、この先に大きな森があって、そこを迂回するように街道が作られて居るんだけど、その迂回する街道を通らずに、森の中を突っ切れば良いと思うんだ」
「なるほど。街道を通らないから道が塞がれて居ても関係ないし、おまけに最短距離で移動出来るという訳か」
悪くはない策だ……森の中を迷わずに通り抜けられるのならば。
「セシル。森の中って、似たような樹が乱立していると思うんだが、大丈夫なのか?」
「大丈夫……って、迷わないかって事? それは絶対に無いよ。任せて」
「そ、そっか。あと、街道から外れて魔物とかも出ないかな?」
「この辺りの森に魔物なんて居ないから大丈夫だよ」
「な、なら良いんだけど」
やけにセシルが自信満々だけど、この辺りを通った事があるのだろうか。
……いや、もしかしてセシルの家の領地とか?
だったら、モラト村の商人ギルドの対応も分からないでもない。
自分の村を治める領主の息子が来たら、それなりの対応をするよね。
それに、道に迷う心配が無いのなら、仮に魔物が出たとしても城魔法で逃げられるし。
「よし。じゃあ食料を買い込んだら出発だ」
正直料理の事は良く分からないので、アーニャに食材を選んでもらい、七日間分の食料を購入した。
町の外で城魔法を使い、買った食材を冷蔵庫へ入れた所で、
「ついでだから、お昼ご飯も済ませちゃおうか」
せっかくなのでアーニャにお昼ご飯を作ってもらう。
何でも、アーニャの故郷の定番料理らしく、細切りにした牛肉を煮込んだクリームシチューみたいな料理だ。
「おぉ、美味しい!」
「うん、美味しいね。この辺りでは、こういう料理は珍しいと思うよ」
「ふふっ。料理は良く作ってたので。おかわりもありますから」
そう言われて俺は二回もおかわりして、小食のセシルもおかわりこそしなかったものの、しっかり完食していた。
やっぱり女の子の手料理って良いよね。
アーニャが一人でやるって言っていたけど、俺も後片付けを手伝い、少し食休みをした後、改めて出発する事にした。
街道を三人で歩いて行くのだけれど、途中で薬草を見つけたら程々に摘み、疲れたら家を出して小休憩をする。
休憩中は飲み物もあるし、ソファでぐったり休めるし、徒歩の旅だけど思っていた程辛くは無い。
そして、日が傾いてきた頃、目の前に大きな森が見えて来た。
「お兄さん。あれがボクの言っていた森だよ。そこから街道が右に大きく曲がるけれど、ボクたちはこの森を突っ切ろう」
街道の先に目を向けてみるけれど、どこまでも森が続いているように見えていて、かなり大きな森を迂回しているように見える。
ここまで真っ直ぐ南西に向かって街道が伸びていたけれど、ここで突然北に向かうので、確かに真っ直ぐ行けば時間短縮になるし、途中で通れなくなっているという箇所もすっ飛ばせるのだろう。
……森で迷わなければ。
「セシル。日も落ち始めてきたし、森に入る前に今日はここで一泊しておかないか?」
「んー、でも早く先に進んだ方が良いよね?」
「そうなんだけど、夜の森ってちょっと危なそうだし、ここまで結構歩いたしさ。ここでしっかり休んで、明日の朝から森へ入ろうよ」
「うーん。別に夜でも昼でも森は危なくないんだけど、お兄さんがそう言うなら……ちなみに、猫のお姉さんはどう思う?」
セシルは早く森に入りたいみたいで、俺の言葉に少し戸惑いながら、アーニャに話を振る。
「私は連れて行ってもらっている立場なので、お二人の意見に従いますよ。家族を探そうとしてくださっているだけで感謝しかありませんので」
「……じゃあ、お兄さんの言う通り、今日はここまでにしよっか」
案外セシルがあっさりと折れてくれたので、森の手前で城魔法を使って家をだし、それぞれ寛ぎ始める。
セシルはリビングでいつも通りラノベの続きを読みふけり、アーニャは時間があるからと、凝った料理の下ごしらえをするそうだ。
じゃあ俺は……と、ここまで結構歩いて来たので、夕食の前に風呂へ入る事にした。
軽く風呂場を洗い、お湯を張って……準備が出来た。
「おーい、セシル。今日はいっぱい歩いたし、早めにお風呂へ入ろうか」
「はーい。……あ! どうせなら、猫のお姉さんも呼んで、三人で一緒に入ろうよ」
「いやいやいや、それはダメだって」
「えー? どうしてダメなの?」
どうしって……って、それを聞いちゃうの?
貴族の息子とはいえ、セシルは十二歳か十三歳頃だと思う。
日本であれば、男女の違いは十分に分かっていると思うのだけど、異世界だからなのか、それとも貴族だからか。ちょっと回答に困る質問をしてきた。
「あのさ。アーニャは女の子だからさ、その……一緒に入るのは、あんまり良く無いかな」
「そうなの? でもボク、家に居た時は女の子と一緒にお風呂へ入って居たよ? だって身体を洗って貰わないといけないし」
「マジで!? 羨ま……いや、何でも無い」
き、貴族ぅぅぅっ!
女の子と一緒にお風呂へ入って、身体を洗って貰うだって!?
いや、それって所謂ハーレムだよね?
確かにセシルは自分一人で身体を拭けなかったり、着替えが出来なかったりだけど、お風呂まで女の子――おそらくメイドさん――に頼っていたとは。
……人肌が恋しいから俺と一緒に寝るって事になったけど、むしろ俺より人肌に触れているのでは!?
ぶっちゃけ羨ましさしかないけれど、これから一緒に旅をするならお風呂くらい一人で入って貰わないと困る。
一先ず羨ましい気持ちは置いておいて、身体の洗い方を教えるか。
セシルと話していると、声が聞こえたからか、アーニャがやってきた。
「あれ? 今日はもうお風呂へ入られるんですか?」
「うん。汗もいっぱいかいたしね。ほら、セシル。行くよ」
「えぇっ!? セシルさんとリュージさんは、一緒にお風呂へ入るんですか!?」
「一先ず、今日はね。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
アーニャが物凄く困惑しているけれど、その気持ちも分かる。
もう少しセシルが幼ければまだしも、既に親と一緒にお風呂へ入る年齢ではないからね。
何か言いたげなアーニャの視線を余所に、昨日と同様に芽衣の下着を適当に見繕って、俺はセシルを連れて脱衣所へと移動した。
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