第12話 七日呪いの少女

 翌朝。

 カーテンの隙間から入り込む朝日で目が覚める。

 久しぶりに実家のベッドで眠ったからか、それとも空気が旨いからか、とにかくやけに寝心地が良かった。

 まるで人肌に触れているような、柔らかくて温かさを感じていた気がするのだが、異世界へ来てベッドの質が上がったのだろうか。


「……って、今も脚に何か触れている?」


 下半身に何かが触れている気がして、毛布を剥がしてみると、何故か俺のベッドの中でセシルが眠っていた。


「……なんでやねん」


 十年も東京で過ごしていたのに、思わず関西弁の典型的なツッコミが出ちゃったよ。


「セシル。セシル……朝だよ」

「んー。お兄さん、おはよー」

「あぁ、おはよう。で、どうして俺のベッドで寝てたんだ?」

「あはは。いやー、いつもは一人で寝てたんだけど、人の温もりを一度知っちゃうと……ね」


 なんだろう。その言い方だと、誰かと一緒に寝た事がないように聞こえるんだが。

 流石に今の年齢では無いだろうけど、幼い頃には親と一緒に寝るよね?

 あ……でも、セシルは貴族の息子だ。

 だから幼い頃から両親の温もりを知らずに育ったとか!?

 もしもそうだとしたら……なんて悲しいんだ。

 確か、年齢に「つ」が付く間……つまり、九つ――九歳までは、親が沢山子供と接して愛情を注がないといけないとか何とかって、芽衣が言っていた気がする。

 セシルは十二歳か十三歳って所だけど、今からでも間に合うだろうか。


「……分かった。じゃあ、これからは毎晩俺と一緒に寝る?」

「え!? いいの!? じゃあ、お兄さん。お願いしますっ!」

「あぁ。じゃあ、お風呂も一緒に入ろうか」

「やったぁ! お兄さん、ありがとう!」


 身体を起こしたセシルが大喜びで抱きついてきたけれど、男に抱きつかれてもな。

 とは言いながら、何だか父親になったみたいな気分で、ちょっと悪くは無い気もする。

 これが父性と言う奴なのだろうか。

 ……子供どころか、嫁も居た事は無いけどなっ!

 一先ず、真衣ちゃんが大きくなったと思えば良いか。


「さて、とりあえず朝食にしようか。先ずは着替え……って、これも少しずつ自分で出来るようになろうな」

「えー。それはお兄さんにしてもらいたいんだけど」

「それはちょっと甘え過ぎかな。とはいえ、今までやってない事をいきなりやれって言われても無理だから、ゆっくり覚えていけば良いさ」


 ベッドから降りるとサッと着替えを済ませ、今度はセシルの着替えを手伝う。

 手伝うと言っても、セシルは立ってされるがままになっているだけだが。

 それからリビングへ移動して、二人で朝ごはんを食べていると、突然セシルが叫び出す。


「――ッ! お兄さん、伏せてっ!」


 訳が分からないまま、咄嗟にテーブルの下へ潜り込むと、ゴゴゴッと家全体が大きく揺れた。


「地震か!?」

「ううん。何かは分からないけど、家に大きな魔力がぶつかったみたい」

「この家に!?」


 異世界とか魔力とか、正直良く分からないけれど、家が壊れて無ければ良いのだが。

 一先ず家の外を確認しようと思い、玄関から外へ。

 扉を閉めず、開けっぱなしにしておいて家の周囲をぐるりと回ってみると、中学生くらいの少女が倒れている。


「だ、大丈夫か?」

「……ぅ、ぅ、ぅ」


 セシルの時と違って、流石に眠っているだけという訳ではないだろう。

 良く分からないけれど、物凄く苦しそうだ。


「そうだ、診察だ!」


 動かしても大丈夫だろうか。

 クリニックへ運び込めば、お医者さんごっこスキルで助けられるかもしれない。


「セシル! 扉を閉めずに来てっ! 女の子が倒れているんだ!」

「こ、これは……お兄さん! この子、何か強力な魔法の呪いが掛けられているよ!」

「呪い!? いや、それよりもとにかく中へ運ぼう。手伝って」


 セシルにも手伝って貰い、慎重にクリニックのベッドへ寝かすと、急いで聴診器を手に取る。

 緊急事態だからと、少女が来ていたワンピースを少し脱がし、胸に手を当て、


「診察!」


『診察Lv1

 状態:七日呪い』


 いつもの銀色の枠を見ると、七日呪いという状態が表示されていた。


「セシル! 七日呪いって、何か知っているか!?」

「ううん。ごめん、聞いた事も無いよ」


 なんだ、七日呪いって。

 よく分からないけれど、とてつもなく良く無い気がするし、何よりも少女が苦しんでいる。


「セシル! ちょっと調べてくるから、この子を看てて。何かあったら知らせて!」


 セシルの返事も待たずに調剤室へ。

 あの呪いが何かは分からないけれど、調剤室には大量の薬草があるんだ。

 何か一つくらい、あの呪いを解く薬草があるはずだっ!


「鑑定!」

「鑑定!」

「鑑定!」


 商人ギルドで得た新たなスキルを使って、調剤室にある薬草を片っ端から鑑定していく。

 今の鑑定レベルでは薬草の名前しか分からないけれど、時々棚の下に貼られたラベルと違う名前の薬草もあるし、何かそれらしい名前の薬草があるはずだ。というかあるだろ!? あってくれっ!


「鑑定! 鑑定! 鑑定……」


 だが、草花の名前やポーションの名前が表示されるだけで、解呪草みたいな分かり易い名前の薬草は出て来ない。

 すがるような思いで、鑑定した薬草の種類が二十を超えた頃、


――スキルのレベルが上がりました。お店屋さんごっこ「鑑定」がレベル2になりました――


 鑑定のレベルが上がったという声が響く。


「鑑定!」


『鑑定Lv2

 ロニセーラ

 Cランク

 解毒効果がある』


 レベル2に上がったからか、鑑定で簡単な説明が付与されている!

 これなら、名前からは分からなった効能が確認出来ると、改めて最初から鑑定をやり直す。

 そして、三十回近く鑑定を行った頃、


『鑑定Lv2

 クレイエルの葉

 Bランク

 浄化効果がある』


 浄化効果と書かれた薬草を見つけた。


「これだっ!」


 呪いっていうくらいだから、浄化すれば解呪出来るはず!

 クレイエルの葉という緑色の尖った葉っぱを数枚手にして、すり鉢の中へ入れる。


「調合!」


 何故か無色透明の液体になったが、これを鑑定すると、


『鑑定Lv2

 クリア・ポーション

 Aランク

 解呪効果がある』


 出来た。解呪効果って書いてあるし、きっとこれで治るはずだっ!

 すり鉢からビンに移し替え、急いで少女の元へと持って行った。

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