第11話 女性物のパンツでゴメン

 セシルがお風呂へ入っている間に、着替えを用意しようと思ったんだけど、良く考えたらセシルの着替えが無い事に気付いた。

 俺の服は異世界へ来た直後に買ったし、下着類は実家にある物を着れば良いのだが、流石にセシルとはサイズが違い過ぎる。

 とはいえ、真衣ちゃんの服だって小さすぎるし……妹――芽衣の服なら着れるんじゃないだろうか。

 三階の芽衣の部屋へと入り、クローゼットを漁ってみると、Tシャツと短パン、それからパンツが出て来た。

 シャツと短パンはともかく、パンツは……でも、他に選択肢が無い。芽衣には悪いが、一先ずセシルに見せてみるか。

 もう結婚しているし、二十八歳だし、今更パンツを誰かに見られた所で気にしないだろう。

 ……いや、気にするのか? というか、そのパンツをセシルに履くかどうか聞こうとしているのだが……まぁ異世界だしね。うん、仕方がない。

 一先ず芽衣の服を手に脱衣所へ戻ると、


「お兄さん……どこー」


 びしょびしょのまま、元々着ていたパンツだけを履いたセシルがキョロキョロしていた。


「ごめん。タオルの場所を言ってなかったね。はい、どうぞ」

「どうぞ……って、ボクが自分で拭くの?」

「え? 自分で拭かないの?」


 お風呂へ一人で入らなかったり、身体を自分で拭かなかったりと、文化に違いがあるのは異世界だからだろうか?

 それともセシルが実は貴族の息子だとか?

 商人ギルドでセシル事を詮索するのはやめておこうと思ったけれど、ついつい気になってしまった。

 うーん。詮索しないって決めたのになぁ。


「ふぅ、分かった。じゃあ、身体は拭いてあげるけど、せめて背中を向けてよ」

「……これで良いの? そしたら、拭いてくれる?」

「あぁ、いいよ」


 真衣ちゃんとは一緒にお風呂へ入って、着替えなんかの世話をした事があるけど、真衣ちゃんは幼稚園児だからね?

 小さな溜息混じりにセシルの身体を拭いていき、


「セシル。パンツ脱いで」

「えっ!? ど、どうして?」

「いや、びしょびしょだし。で、そっちに新しいパンツを置いたんだけど、どうだろう。出来るだけシンプルな奴を選んだつもりだけど、履ける?」

「うわぁ! 何だか、凄く滑らかな肌触りだね。サイズは少し大きいかもしれないけど、大丈夫だよ」


 うーん。女性物のパンツだけど、そういうのは全く気にならないか。

 今セシルが履いているパンツだって、ただの白い布をパンツの形にしただけって感じだし、そもそも異世界だしね。


「……って、セシル。パンツを脱いでよ」

「お兄さん。出来れば脱がせてよー。一人で脱いだり履いたりするのは大変なんだよー」


 ……うん。セシルは貴族の息子だね。

 口には出さないでおくけど、商人ギルドに顔が効いて、学校が無い国なのに本が読めて、一人で着替えが出来ない。

 まぁ間違いないかな。


「じゃあ、足元まで降ろすから足を上げて……うん。それで良いよ」


 目の前に居るのは小学校高学年って感じのセシルだけど、真衣ちゃんを相手にしていると思いながら、パンツを脱がせ、濡れていたお尻や脚を拭いていく。

 しかし、身体を見て思ったんだけど、やっぱり筋肉が少ないな。太ももだってムニムニして柔らかいし。

 これからは少しずつセシルの食事の量を増やしていかなければ。

 けど、その割に肌は綺麗なんだよな。スベスベしてるし。これが若さって奴だろうか。


「はい、セシル。足を上げて……うん。これで良しっと」

「お兄さん。ありがとー」


 女性用のパンツだから少しお尻の部分が大きいと思うんだけど、何故かあまり違和感がないな。

 セシルは栄養がお尻に行っているのか?

 一先ず髪の毛をしっかり拭いて、芽衣のシャツと短パンを着せてみると、


「わぁ。凄く着心地の良い服だね。お兄さん、ありがとう」

「あ、あぁ」


 女性向けのデザインだからか、ちょっと中性的に見えてしまった。

 おそらくセシルは全く気付いていないだろうけど、心の中で謝り、俺もお風呂へ入る。

 暫く湯船でゆっくりした後、身体を洗おうと思ったのだが、何故か石鹸が濡れていない。

 ついでに言うと、シャンプーの瓶も濡れていなかった。


「……流石に身体を洗ってあげるっていうのは勘弁願いたいな」


 仕方がないので、明日一緒に風呂へ入り、身体の洗い方を教えようか。

 苦笑交じりにお風呂と着替えを済ませ、ついでに日本と同じように使えた洗濯機を動かしてからリビングへ戻ると、セシルが一心不乱にラノベを読んでいた。


「セシル。そろそろ寝ようか」

「うーん、もう少しだけー」

「じゃあ、次のキリが良い所で終わりだからね」


 無言のままコクコクと頷くセシルを視界の端で確認し、俺は三階の自分の部屋へ。

 昨日は疲れていたから一階のベッドで寝たけど、本当は自分のベッドで寝たい。

 一人でお風呂や着替えが無理なセシルだけど、流石に寝るのは一人でも大丈夫だろう。

 そう考えながらリビングへ戻った所で、タイミング良くセシルが声を掛けてきた。


「お兄さん。キリの良い所まできたよー!」

「そうか。じゃあ就寝だけど、セシルはどこで寝る? 俺は三階で寝ようと思うんだけど」

「じゃあ、ボクもー」

「……構わないが、同じ部屋じゃなくても大丈夫だよな?」

「え? う、うん」

「そうか。じゃあ俺はこっちの部屋で寝るから、セシルはこっちの部屋を使ってくれ。あと、その部屋にある服はサイズが合うはずだから、趣味に合う服があれば自由に着て構わないから。おやすみ」

「お、おやすみー」


 とはいえサイズは合っても、異世界の服とデザインが違い過ぎるし、そもそも芽衣はスカート派だったから着れるズボンは無いかもな。

 下着類は有り難く使わせてもらうけど。

 そんな事を考えながら、俺は久々に実家の自分のベッドで眠りに就いた。

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