第10話 お風呂タイム

 暫く景色を眺めていると、お腹が空いてきた。

 日も落ちてきたし、そろそろ夕食の準備を始めても良いだろう。


「おーい、セシル。コンロに火を点けて欲しいんだけど……って、セシル? おーい、セシルー」


 セシルがカーペットの上でゴロゴロしながらラノベに没頭している。

 まぁ気持ちは分かるけどね。

 そのラノベは日本でメチャクチャ売れてアニメ化もされているし、俺も凄く好きなシリーズだしね。

 確か全十巻だったかな? 最初は何とも思っていなかった、ただの仲間だったはずのなのに、互いに惹かれ合っていくっていうね。いやー、最高だ!

 ……最高だ! じゃないよ。晩御飯作らなきゃ。


「セシル。セシルってば」

「わひゃぁっ! お、お兄さん。いきなりどうしたの?」

「どうしたの? じゃないって。晩御飯を作るから、下でコンロを点けて欲しいんだ」

「え? あ、うん。別に良いけど」


 何度声を掛けても気付かないので、ゴロゴロしていたセシルのお腹に手を置いて揺すったら、思いのほか驚かれてしまった。

 どうやら、相当ラノベにのめり込んでいたらしい。

 今も一緒に二階への階段を降りているのだが、ラノベは手離していないし、おそらくリビングで読むのだろう。


「じゃあ、やや強めの火力でお願い」

「わかった……けど、ボクに頼まなくても、お兄さんが自分で魔力を流せば良いんじゃないの?」

「うーん。やってみたんだけどさ、上手くいかなくてね。とりあえず、食事を作るから座って待って居てよ」


 そう言うと、セシルがソファへ座り、再びラノベの世界へと入り込んで行く。

 さて、俺は野菜炒めを作ろうか。

 予め切っておいた野菜と肉をフライパンで炒めるだけの簡単な料理だ。

 というか、凝った料理なんて出来ないよ。


「よし、出来た! ご飯も……うん、大丈夫。セシル、ご飯だよー!」


 日本のブランド米には遠く及ばないかもしれないが、ちゃんとしたお米が炊飯器で炊きあがっていた。

 これなら、異世界でも食事で困る事はなさそうだ。


「おーい、セシルってば」

「……あ、ご、ご飯だね? お兄さん、ありがとー」


 今度は割と早く気付いてくれたので、冷めない内に食べ始める。


「いただきまーす」

「いただきます……って、お兄さん。ボク、こんなに沢山食べられないよ?」

「いやいや、育ち盛りなんだから、遠慮しなくて良いって。盛るぜぇー。超盛るぜぇー」

「そんな事言われても……残すのも悪いからさ。ごめんね」


 そう言って、増し増しにした大盛りの野菜炒めを、殆ど俺の皿へ戻されてしまった。

 うーん。俺が小六の頃は、あれくらい食べていた気がするんだけどな。

 まぁしかし、普段から食の細い人にいきなり沢山食べさせて体調を崩させる訳にもいかないし、そこは徐々にかな。

 俺が箸で、セシルがフォークで夕食を食べていると、


「ところでお兄さん。今読んでいる物語に出てくるんだけど、学校って何?」


 困った質問が出てきた。

 なるほど。この世界……いや、少なくともこの国に学校は無いのか。


「えーっと、俺の故郷にはあったんだけど、子供が集まって、皆で教育を受ける場所だよ」

「教育……って、政治とか、税金とか?」

「まぁそういう勉強も無い訳じゃないけど、今セシルが読んでいる話の舞台は高校だから、数学……計算だとか、国の歴史とかだよ」

「なるほど。じゃあ、テレビっていうのは?」


 テレビか。実家からテレビが消えているし、コンロや炊飯器とは違って、この世界に類似の物が存在しないって事なんだろうな。


「テレビっていうのは、いろんな情報が得られる魔法の箱……かな?」

「ふーん。じゃあ、ファミレスっていうのは?」

「あぁ、それなら……」


 ご飯を食べながらラノベに出てくる物の質問攻めにあったものの、一先ず無事に食事を終えた。

 さて、次はお風呂だな。

 昨日はバタバタして入れなかったから、今日は湯船にゆっくり浸かりたい。

 どういう仕組みかは知らないけれど、水は出るから、お湯もいけるのではないだろうか。

 というか、出てくれ! やっぱり温かい風呂には入りたいんだ!

 祈るような気持ちで風呂場へ移動し、レバーを動かすと……


「出た! やった! これでお風呂にも入れる!」


 蛇口からドバドバとお湯が出てきた。

 石鹸は日本の形そのままで四角いのが置かれてあり、シャンプーはボトルの代わりにビンの中に入っていた。

 容器はどうあれ、使えるのならそれで良いだろう。

 ただ、うちの実家の風呂はちょっと古くて、自動でお湯が止まってくれないんだよね。

 異世界でもそこが改善される事は当然無くて、暫くお湯を出しっぱなしにしたままキッチンへ戻り、後片付けを済ませてしまう。

 それから再びお風呂へ戻って来ると、丁度良いくらいにお湯が溜まっていた。


「セシル、お風呂の準備が出来たよー」

「へぇー、お風呂まであるんだー。本当に凄いね」


 あ、しまった。

 当たり前の様にお風呂へ入ろうとしていたけど、こういう異世界ものって、大体お風呂は貴族だけしか使えないとかって設定なんだっけ。

 まぁでも今更だし、あるんだから使わないと勿体無いしね。何より、俺がお風呂へ入りたいしさ。


「セシル、先に入る?」

「え? 一人で入るの!? お兄さん、一緒に入ろうよー」

「いや、流石にお風呂は一人で入ろうよ」

「えぇー」


 親とお風呂へ入るのは小学校の低学年くらいまでじゃないの?

 流石に俺は一人で入っていた気がするんだけど。

 異世界だからかもしれないけれど、嫌がるセシルを説得し、何とか一人でお風呂へ入って貰う事にした。

 セシルには悪いけど、お風呂はのんびりゆっくり入りたいからね。

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