第8話 マジック・ポーションお買い上げ

「えっと、貴方は……?」

「失礼いたしました。私は当ギルドの責任者、トーマスと申します。ルロワ様とお連れ様に何か失礼がありましたでしょうか」


 責任者って事は、所謂ギルドマスターと呼ばれる一番偉い人が出てきてしまった。

 俺としては、持ち込んだ物を適性価格で買い取って欲しかっただけなんだけど、どうしたものだろうか。


「あぁ、こちらの女性がね、ボクの友人が持ち込んだAランクのポーションをBランクだと言って、値切ろうとしているんだよ」

「値切るだなんて……いえ、私はこちらのポーションに適切な対価をお支払いするつもりで……」

「待ちたまえ。私が見よう……ステータス」


 事情を察したトーマスさんが、すぐさま魔法を使用する。

 俺が召喚された直後に使用されたあの魔法だ。

 おそらく鑑定と同じか、より優れた効果なのだろう。

 現れた銀色を覗き込むと、


『マジック・ポーション

 Aランク

 状態:安定

 魔法力を回復する薬』


 俺が言った通り、Aランクと表示されている。

 同様に全てのマジック・ポーションを確認し、俺が言った通りの結果となった。

 女性は何か言いたそうだったが、トーマスさんに指示され、奥の部屋へと姿を消す。


「当ギルドの職員が失礼いたしました。申し訳ありません」

「あ、いえ。誤解が解けたのなら、俺はそれで……」

「そうですか。お気使いありがとうございます。では早速買い取り金額ですが、マジック・ポーションのAランクは金貨三枚、Bランクは金貨二枚となりますので、こちらをお納めください」

「ありがとうございます……って、あれ? 少し多いですよ?」


 Aランクが六本、Bランクが四本なので、合計金貨二十六枚のはずが、三十枚となっている。


「ご迷惑をお掛けしたので、そのお詫びです。この度は、誠に申し訳ありませんでした」

「い、いえ。こちらこそ、あの、ありがとうございます」


 口止め料なのかもしれないけれど、かなり得をしてしまった。

 これだけで金貨三十枚か。セシルと二人でも、贅沢をしなければ一ヶ月は暮らせるな。

 なので、異世界での目的である観光を早速しようかと考えていると、空気を変えたかったのか、トーマスさんがタイミングの良い話題に変える。


「ところで、お二人は暫くこの村へ滞在されるのでしょうか?」

「はい。暫くは村を観光しながらゆっくり過ごそうかと思っています。とはいえ、俺は世界を旅して回るつもりなのですで、ある程度見たら、またどこかへ移動するかもしれませんが」

「なるほど、観光ですか。残念ながら、この村には観光と言える程のものは無いですね。のどかでゆっくり出来る事は間違いありませんが」

「あ、そうなんですか?」

「えぇ、残念ながら。観光をご希望でしたら、乗合馬車で王都ベルナまで行った方がよろしいかと。半日程で着きますし、この村とは違って大きな街ですからね。王城だってありますよ」


 あー、それって俺が最初に召喚された街っぽいな。

 王都――日本で言う首都だったのか。確かにお城もあったし、街も人が多くて賑やかだったよね。まぁ東京と比べると大きな街とは言い難いけどさ。

 トーマスさんにお礼を言い、一先ず商人ギルドを後にした。


「セシル、さっきはありがとうな」

「ん? お兄さん、何の事?」

「俺を保証するって言ってくれた事だよ。セシルが居なければ、俺は商人ギルドに入れなくて、せっかく作ったポーションも買い取ってもらえなかったんだろ?」

「んー、そうなのかもしれないけど、ボクとしてはお兄さんが作ったポーションでお金を稼いで貰わないと困るからねー。これから暫くお世話になる訳だし、食事には有り付きたいよね」


 おぉっと、そういう理由か。

 まぁ分かり易くて良いけどさ。


「まぁでも、ボクもその食費くらいはちゃんと稼ぐからさ」

「ん? というと? 何か商売でもするの……というか、元々商人なのか?」

「ボク? ううん、まさか。ボクは商人ではないし、商売もした事がないけれど、その代わり……これだよ」


 村の中を歩いていると、舗装されていないむき出しの地面から、黄色い花を摘む。


「これは、アルニカルっていう花なんだけど、鎮痛効果のある薬草なんだー」

「え? そうなの!?」

「うん。この辺りに住む人は知らないみたいだけど、お兄さんも知らなかったんだね。ボクは植物の知識があるから、ポーションの材料になる薬草を見つけたら教えてあげるよ」

「おぉー、なるほど。そうすれば、またポーションにして、売る事が出来るな」

「そうそう。薬草をそのまま売るよりも、ポーションにしてから売った方が、高く売れるしね」


 なるほど。

 正直、お医者さんごっこスキルでポーションを調合出来ているだけで、俺自身は薬草は元より、薬の知識なんて無いからね。

 セシルが薬草を教えてくれるのは非常に助かる。

 ただ、まだ中学生くらいだというのに商人ギルドへ顔が効いたり、植物に詳しかったりと、セシルは何ものだろうかとも思うけど、詮索されたくないのは俺も同じだ。

 異世界から来たって言っても、何言ってんだ? と思われるだけだしさ。

 時々、道端に生えている薬草を摘みながら、特にアテも無く歩いていると、小高い丘の上へと到着した。

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