第7話 お店屋さんごっこ
「リュージ=サイトウ様。大変長らくお待たせいたしました。こちらが当ギルドの証となる、ギルドカードです」
先程よりもますます丁寧になった女性が、ギルドカードについて説明をしていく。
何でも、商人ギルドはこの周辺の国では、国を跨いで共通利用が出来るそうだ。
とはいえ海を渡った先にある遠い国や、東の全く異なる文化圏の国では利用出来ないらしい。
……そういえば、この国の都市どころか、この世界の国とか地域とかって、全く分かってないや。
どこかで地図が売って居たら、是非とも入手しなければ……って、話が逸れたけど、ギルドカードが身分証代わりにもなるらしい。
ただ商人としての活躍度により、ランクFから始まって、ランクAやランクSと上がっていくランクによって、信用度が大きく異なるそうだ。
だがそうは言っても、Cランク以上という一定の活躍をしている商人から紹介されて初めてギルドに参加出来るため、ある程度の信頼はありそうなものだけど。
「こちらのカードを持っているだけで、掛けでの買い物が可能となります。ですが、翌月の月初日に商人ギルドで管理している決済口座の資金が足りなければ、即刻ギルドから除名となりますのでご注意ください」
掛け……つまり、クレジットカード機能で買ったり売ったり出来るという事なのだけど、残高不足で一発除名というのは厳しいな。
商人なのだから、それだけお金の管理はきっちりしろという事なのだろうけどさ。
「あの、決済口座という話があったのですが、いわゆる銀行みたいな事もされているのですか?」
「はい、その通りです。預け入れいただければ利息が付きますし、当ギルドからお金を借りれば、担保と利子が必要となります」
へぇ……日本の銀行でお金を借りた事がないから詳細な事は分からないけれど、それでもかなり似ている気がする。
なんだったら、ローンとかも組めそうだ。
いや、組む気も無いし、今のところローンを組んでまで欲しい物も無いけどさ。
「では、サイトウ様。ギルドカードをお持ちください。尚、紛失時には再発行手数料が必要となりますので、ご注意願います」
ギルドの女性から銀色のカードを受け取った。
見た目は交通機関が発行しているICカードみたいな感じで、銀色のカードに黒い字で俺の名前と、ギルド口座の残高だろうか。預金という文字の横に、零の数字が書かれている。
――スキルの修得条件を満たしましたので、お店屋さんごっこ「鑑定」が使用可能になりました――
……って、このタイミングでスキルを修得?
名称的に、ギルドカードを貰って「商人」になる事が修得条件なのだろうが、お医者さんごっこに続いて、お店屋さんごっこって。
まぁサラリーマンだったからね。医者でもなければ、商売もしていなかったけどさ。
一先ず鑑定の効果が知りたいので、何か無いかと考え、持って来ていたマジック・ポーションの事を思い出した。
「あの、すみません。カードを作ってもらってすぐで申し訳ないんですけど、アイテムの買い取りをお願いしたいのですが」
「畏まりました。当ギルドのメンバーですので、もちろんすぐにお取引させていただきます」
「では、こちらなんですが」
鞄の中から持ってきたマジック・ポーションを取り出し、テーブルの上に並べて行く。
セシルの見立てでは、AランクかBランクのマジック・ポーションで、めちゃくちゃ珍しい品では無いという話だったのだが、何故か目の前の女性が驚いている。
AやBは珍しくはないけれど、一度に十本というのが多過ぎたのだろうか?
まぁいいや。一先ず、鑑定を試してみよう。
「……鑑定……」
小さく呟くと、見慣れた銀色の枠が現れ、
『鑑定Lv1
マジック・ポーション
Aランク』
とだけ記載されていた。
アイテムの説明とかは無いのだろうか。
……レベル1だからか? このレベルが上がれば、いずれアイテムの説明もしてくれるのだろうか。
机に並べたマジック・ポーションを女性が一つ一つチェックしている間に、俺も順次鑑定していくと、十本中六本がAランクで、四本がBランクという結果が出た。
それ一つを見れば分からないが、AランクとBランクのポーションを並べて比べてみると、僅かにBランクの方が色が淡い気がする。
「サイトウ様。買い取りをご希望されているのは、こちらのマジック・ポーションでお間違えないでしょうか」
「はい。幾らくらいになりますか?」
「そうですね。いずれもBランクですが、マジック・ポーションはあまり市場に出回らず、かつ人気商品ですので、一本金貨二枚で、合計金貨二十枚でいかがでしょうか」
えっと、金貨が一枚で一万円と同じくらいだから……二十万円!?
マジかよ。元はヘーゼルの実――ただのへーゼルナッツなんだけど、これってボロ儲けではないだろうか。
……だが、喜ぶのはまだ早いか。もしかしたら、この世界では元となったへーゼルナッツが手に入らないのかもしれない。
女性は全部Bランクだと言っているが、実際はAランクなので、その分もきっちり貰っておいた方が良さそうだ。
「すみません。全部Bランクと仰られましらが、ここから、ここまでの六本はAランクなんですが」
「……いえ、Bランクですよ。そもそも、Bランクのマジック・ポーションですら珍しいのに、Aランクのマジック・ポーションを商人ギルドへ入りたての方が所有しているというのは、ちょっと……」
あれ? AランクやBランクのポーションって珍しいの?
セシルはAもBもセシルは普通だって言っていたんだが。
どうしたものかとセシルに目をやると、
「お姉さん。お兄さんはボクの紹介なんだけどなー」
「ル、ルロワ様……で、ですが、マジック・ポーションのランクはBが妥当かと」
俺の援護をしてくれたのだが、女性は譲ろうとしない。
困った俺と、ニコニコと笑みを崩さないセシルに、泣きそうな表情の女性。
三人が膠着状態になり、暫し部屋の中を沈黙が支配すると、
「失礼。随分と静かですが、何かあったのでしょうか」
カッチリとした服装の中年男性が部屋へ入って来た。
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