第5話 調合ごっこ
異世界の少年を勘違いから保護? した事により、一緒に旅をする事になってしまった。
まぁ一人で旅して回るより、二人の方が退屈しないかもしれない。
それに、この世界の事を全く知らない俺だけだと、ルールやモラルの知識の無さで、トラブルに巻き込まれるかもしれないしね。
ただ、ベッドは沢山あるし、宿代も掛からないから良いのだが、食料だけは二人分確保しなければならないが。
「そうだ、セシル。もしも知っていたら教えて欲しいんだけど……ちょっと来てくれ」
「ん? 何なに?」
セシルを連れて、二階のキッチンへ。
「これなんだけど、使い方って分かるか?」
「これって、アレでしょ? 確か、黒魔法で火の精霊の力を模倣するっていうマジックアイテム」
「黒魔法? じゃあ、使おうと思ったら、黒魔法が使えないとダメなのか」
「ううん。仕組みに黒魔法を使っているだけで、使う時に黒魔法は要らないって聞いた事があるよ。だから、単に魔力を込めてあげれば……ほら、点いた」
俺が昨日使い方が分からず途方に困っていたガスコンロに、セシルがあっさりと火を点ける。
「あのさ、それってどうやっているんだ?」
「だから、魔力を送るだけだよ。多く送れば火が強くなるし、少ししか送らなければ火は弱くなるでしょ」
「……その、魔力を送るって、どうやってやるんだ?」
「どうやって……って言われても、普通に送るだけだよ?」
困った。俺たちが呼吸の仕方をわざわざ教えて貰わないのと一緒で、この世界では魔力を送るという行為が、教える程でも無い当たり前の基本行動なのか。
例えば俺が、右手を前に出す方法を教えてくれと言われても、右手を前に出す……以外に言いようがない。
同じように、この世界では魔法を送るといえば、魔法を送るとしか言いようがないのだろう。
……とりあえず、食料は出来ている物を買うか、もしくはコンロだけはセシルに点けてもらうかだな。
一応、一人暮らしで自炊していたけれど、チャーハンやヤキソバを作ってたくらいで、大したものは作れないしね。
じゃあ、一先ず俺の朝食を買いに行きながら、セシルと観光でもするか。
「おし、セシル。じゃあこれから……って、居ない!? ……セシルー! どこだー!」
いざ出発! と思った所で、セシルの姿が見当たらない。
幸い、コンロの火は消してくれているみたいだけど、どこへ行ったのか。
三階……は居ない。一階か?
二階から一階にあるクリニックのスタッフルームへと降り、各部屋を覗いてみると……居た。
「セシル。調剤室なんかで何をしているんだ?」
「調剤室! なるほど。それでかー。お兄さん、これ凄いねー。ありとあらゆる薬草や薬があるねー。あ、調剤って事は、お兄さんは旅の薬師なの?」
「え? そ、そんな感じかな」
異世界から間違って召喚されたサラリーマンとは流石に言えない。
とりあえず適当に誤魔化していると、薬の棚を見て居たセシルが大きな声を上げる。
「うわっ、へーゼルの実がある! しかも、大量に! ねぇ、お兄さん。これ、ポーションにしてよ!」
セシルの言うへーゼルの実が何かと思って見てみると、木の実……というか、へーゼルナッツだった。
酒のつまみとして一緒に出てくる事がある、アレだ。
こんなナッツがポーションになるのか? というか、ポーションにするって、どうすれば良いのだろう。
セシルは何かを期待するような目でジッと待っているし、今更出来ないとは言い難い。
昨日の聴診器の様に、見よう見まねでやってみたらスキルとして使えるかもしれない……というか、そうであってくれ。
祈るような気持ちでへーゼルナッツを手に取ると、近くにおいてあったすり鉢へ入れてみる。
――スキルの修得条件を満たしましたので、お医者さんごっこ「調合」が使用可能になりました――
やった! 予想通りスキルが使えるようになったよ。
ただ、相変わらずお医者さんごっこというスキル名はどうかと思うが。
内心では喜びつつも、顔に出さないようにしながら、修得したばかりのスキルを使ってみる。
「調合」
そう言うと、すり鉢の中身が青色の液体に変わって居た。
……なんで、ナッツが青色になるんだよ。
そう思いながらも、その辺にあった空のビンに液体を入れ、
「はい、出来たよ」
「凄い! こんなに簡単にマジック・ポーションが作れるなんて!」
「マジック・ポーション? ……あ、いや。まぁね。これくらい、簡単だよ」
「それに、この純度……おそらくAランクかBランクって所だろうね。いや、お兄さん。凄腕の薬師だったんだね」
マジック・ポーションって何だろう。名前から察すると、魔法の力を回復する系かな?
それにランク……AとかBとかって言っていたけど、よくある異世界物では品質とか効力を表す感じだ。
昨日使ったポーションもFって書いてあったし、やはりそういう類の意味なのだろう。
……って、AとかBって不味く無いか? 普通、ポーションを作る異世界チートだと、FとかEとかを売って、高ランクのポーションは隠すよね?
「あ、あのさ。セシル。その、俺がAランクやBランクのマジック・ポーションを作れる事は秘密に……」
「なんで? せっかく凄い腕があるんだから、ポーションを作って売ればお金が入ってくるよ?」
「いや、でもAランクやBランクって、珍しいだろ?」
「そうかなー? ボクの所には普通にあったよ? AとかSとか」
あー、なるほど。Aが一番上じゃないパターンか。SとかSSとかが存在する世界か。
なら、AとかBじゃ騒がれないか。
だとしたら、薬草を集めて調合スキルでポーションにして売る……うん。これなら、旅をしながらでもお金が稼げそうだ。
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