戦闘記録:バンディット

序:略奪する者

 その戦場では、少しずつ傾き始めた太陽の下、今しも敵対者同士で激しく銃火が交わされていた。

 光の尾を曳航する銃弾が、砲弾が、あちらこちらへ飛び交い、どこそこに着弾し、盛大に爆炎を上げている。それらの消えた後には、残り火くすぶる装甲戦闘車両を始め、急所に穴を穿たれて機能停止したMLメタルレイバーや、黒焦げに焼けた人型の何かが転がっている。


『体勢を立て直す! 一度、後退せよ!』

『敵の砲撃が止んでいるうちに、距離を取るんだ! そこのルーキー、急げ!』

『そっちに車を回す! ただ、負傷者を優先してくれ!』

『こっちのタラップや、空いているハードポイントも使える。ワイヤーを持ってる奴、掴まれる余力がある奴、こっちに掴まれ!』


 そのような凄惨な状況の中でも、それぞれの技能を生かして生き残った兵士クローン達は、まだ使用可能な車両を回して相乗りしたり、余り損傷を負っていないMLの装甲に掴まったりしながら、何とか前線から離れようと行動していた。

 そして、準備を終えた互いの陣営が、砲撃を再開しようとしていた時だった。


 突如として、両方の陣営が展開している砲撃陣地付近に、所属不明のML部隊が六機一組で出現。あろうことか、無差別に攻撃を開始した。

 所々で砲撃音や爆発音が響き、その度に、兵士全員が使用している電子戦域図から、陣地の表示と、陣地付近に展開していた部隊の表示が消滅。瞬く間に、所属不明機の表示に塗り潰されていく。


『こいつらは何だ!? どっちの陣地も攻撃して……』

『な、なんだ? 赤と黒のMLがこっちに……』

交差剣と頭蓋骨パイレーツ・スカルのエンブレム? こいつら、まさか……』


 無線通信の向こうでは、状況に混乱した部隊からの悲痛な声が、響いては爆音に掻き消され、響いては掻き消され、と言う状態を繰り返した挙句、最後は、不気味なノイズのみを残して、一切の声が消え去った。


『く、くそっ! 冗談じゃないぞ!?』

『逃げるんだ……! 今すぐにここから!』

『おい! お前たち待て! 勝手に隊列を外れるんじゃない!』


 それを実際に耳にしていた兵士達もまた、混乱のただ中に叩き込まれたせいで、一部の経験の浅い兵士がパニックを起こし、一目散に逃げる者、その場に立ち尽くす者等々、およそ秩序だった行動とは言い難い状態に陥ってしまった。

 その暴走は、各々が生存を最優先にしてしまったがゆえの行動だったが、しかし、砲撃陣地と周辺部隊を喰らい尽くした所属不明機たちは、その兵士たちの暴走を一切見逃さなかった。

 彼らは、真っ直ぐに暴走した兵士達の元へと向うと、情け容赦なく、彼らの生命反応を塗りつぶして消失させた。それだけに留まらず、撤退中だった部隊にも食らいつき、まさに蹂躙と呼ぶに相応しい勢いで浸透、そこに居たほぼ全てを吞み込んでいく。


『くそ。何処の誰だ。バンディットを呼んだのは……』


 そして最後に、そのような音声を残して、戦域図上から消滅したのだった。


――――――――――― 


 その数時間後。

とある場所の会議室にて、柄の悪そうな何人もの男女が、壁に広げたスクリーンに映っている、戦闘の様子を記録した映像を、思い思いの姿勢で鑑賞していた。

そして、映像が終わると同時に、端のパイプ椅子に座っていた大柄な男が立ち上がり、スクリーンの映像を止めた。


「今回の依頼で、俺達にやられた奴らの記録映像は、こんなとこだ。こいつを編集してクライアントに送る。おい、グスタフ。部屋の電気点けろ」

「へーい」

「今回はヤラレ役なしの、ハイエナのような狩りがテーマだったわけだが、お前らどうだ? やってみて」


 大柄な男が声を掛けると、全員が豪快な笑いを上げた。


「いやー、ヤラレ役出さなくて良いって、マジで楽っすね。こんな依頼ばっかなら、俺ら大歓迎っすよ」

「俺、まともに報酬貰ったの、久しぶりかもなー」

「ははは、グスタフはそうだよな。アタイも、思いっきり暴れられたから満足さ。アンタもそうだろ? ボルックス」

 そして、数人が意見を述べ、ボルックスと呼ばれた大柄の男が頷く。


「ま、次はヤラレ役が要るかもしれんから、気は抜くんじゃねぇぞ?」

「分かってるさー。適度に負ける準備はいつも出来てるよ」

「なら良い。そんじゃ最後に、お頭達に締めて頂くか。お願いします、姉御」


 ボルックスがそう言うと、全員がその場に起立し、回れ右した後に姿勢を正した。

 その視線の先には、二人の若い女性が立っており、一人は、大人の余裕と色香を醸し出した美女。もう一人は、冷たい雰囲気と威厳を身に纏い、凛々しく端整な顔立ちに冷徹な表情を浮かべた美少女だった。


「ふふふ。私からは、特にいう事は無いわ。ラピナーレは、何かあるかしら?」

「まったくラドゥロは……。全部を私に振るんじゃない。だが、そうだな……」


 となりで笑うラドゥロにジト目を向けたラピナーレは、一つ咳払いをした後で全員に向き直った。


「皆、よくやってくれた。我らは依頼に沿って、私掠者バンディットとして果たすべきことを、ただ忠実にこなす。これからも常にそう考え、各自全力を尽くせ。私は全責任を持って、それを支えてやる。励めよ」

「「イエス! マム!」」


 その声は部屋中に、その横の廊下に、響き渡った。

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