壱:横槍のブーケトス・Ⅰ

 国際公認戦闘領域の一つに、グレートグリーンヒルと呼ばれるエリアがある。広大な草原と小高い丘、所々に点在する小規模の森が特徴の自然あふれる場所で、しかし同時に、その広大さを生かした軍事輸送路としても、用いられている。


 ある日。ラピナーレとラドゥロは、届いた依頼に従い、一味を率いて、このグレートグリーンヒルを訪れていた。

 傍には、一味の使う二脚型の改造MLメタルレイバー「B・アルマート」と、ラピナーレ達が使う二脚型MFモビルフレームが駐機されており、それぞれのパーツに施された赤と黒のカラーリングが、陽光を受けて鈍く光っている。


「やっぱり丘の上は気持ちが良いわねぇ。陽気も絶好のピクニック日和だし。お弁当でも持ってくるべきだったかしら。ねぇ、ボルックス?」

「そうですなぁ。この中で伸び伸びとメシを食うってのも、悪くねぇ」

「あら、話が分かるじゃない? 今度はそうしましょうか」


 依頼書に示された予定時刻までの暇で、各々好きな遊びに興じている一味たちの姿を見ながら、ラドゥロが笑う。

 その一方で、ラピナーレは、見る者の体感温度を下げるような険しい表情で、戦場を見渡していた。


「あら、なぁに? 見下ろす全部を無造作に殺しちゃいそうな顔しちゃって」

「どんな顔だ、それは……。まあ良い。この長閑のどかさの中、どうすれば、ただの補給部隊襲撃をドラマチックに演出できるか、考えていた」

「今回、ヤラレ役の要望は無いから、正面から派手に行っちゃえば良いんじゃないの? せっかくML用のローラーブレードを、全機新調したんだし」

「そうするのもやぶさかではないが、問題は、今回の補給部隊に対する本来の敵勢力を、どう利用するかだ。せっかく欺瞞ぎまん工作用の偵察ポッドリコンを放ったしな」


 ラピナーレは軽く腕を組み、目を閉じると、黙考状態に入った。

 これまでの経験や、複数の思考パターンによって編み上げられた数々の戦術が、まるでコンピュータ上で模型を組み上げるかのように、一つの形に集約。生きたデータとして構築されていく。

 そして、自分なりの最終確認を終えた後で、彼女は目を開いた。


「ボルックス。ちょっといいか?」

「へい、姉御」

「もしお前なら、今回の補給部隊襲撃、何機編成で行く?」

「俺なら、そうですなぁ……。正面から強襲するだけってんなら、ローラーブレード履かせたMLの機動力を使えば、六機くらい貸して貰えれば、行けると思いますぜ」

「六機か」


 ラピナーレは、そこで一度言葉を切ると、再び黙考を始めた。その様子を、ラドゥロはにこにこと、ボルックスは固唾かたずを飲んで見守っている。

 それから十数秒後。ラピナーレは一つ息を吐くと、すっと目を開けた。


「ふふ……。それで、どうするの? ボルックスは六機で行けるみたいだけど」

「ああ。ボルックスには六機編成で、開始時刻と同時に先手を打ってもらう」

「機動力をフルに出して、強襲だな?」

「そうだ。幸い、護衛のMLは少ないからな」


 そこで再び言葉を切ると、彼女は二人に背を向け、広大な草原の先にある舗装路を見やる。そして、道に沿って視線を流すと、小さく二度頷いた。


「これだけ広く遮蔽しゃへいの少ない戦場なら、機動力で制圧するのは容易い、だが、速攻を掛けて制圧した後は、遅滞戦術に移行してもらう」

「ほほう? 敢えて足止めに専念するってワケですかい」

「ああ。ただ制圧して終わりでは、面白くなかろう。だから少しだけ、趣向を凝らすことにした。あとは、全員を集めた後で説明しよう」


 そう言うと、ラピナーレはラドゥロ達を連れて、未だ遊びに興じている一味の居る場所へと向かい、集合の号令をかけたのだった。

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