終:依頼『軍事拠点防衛戦・Act.3』

 雷光のように速い砲撃が、刻一刻と自分たちの元へと迫る中、電磁バーストの影響で満足に操縦ができない敵性MFモビルフレームのライダー達は、どうにかして危機を回避しようと様々な挙動を試していた。

 重二脚のMFは、辛うじて脚部の関節を動かしたり、背部の推進装置を動かそうとしたりと、試行錯誤を繰り返せる状態だったが、しかし、もう片方の逆間接型MFは、何れの部位も、まともに機能している様子は無かった。

 二機のコクピットには、警報システムによるビープ音が、断続的に聴覚装置から鳴り響いている。

 敵性体によるロックオンを報せる警報、電磁バーストによる電子機器の動作不良を報せる警報、武装の機動不良を報せる警報など、あらゆる機能が大混乱を起こし、荒波となって、二機のライダー達の感覚器に押し寄せている。

 それに加えて、隣り合う機体からの悲壮な通信音声が、多分にノイズを含んだ状態で受信されており、混乱により拍車をかけていた。

 そして、二機の目の前に、一条の光線が飛来した。


 次の刹那。

 光線の着弾によるものと思われる、強烈な閃光や放電現象が、二機のライダー達の視界を焼き、また聴覚を半ばまで麻痺まひさせた。

 その後、そう言った荒々しい全てが過ぎ去り、重二脚型MFのライダー達が感覚器を回復したとき、コクピット内に響いていた悲壮な通信音声ノイズは、隣に居た逆間接型MFの反応と共に、綺麗に消え去っていた。

 ゆっくりと、視界を向ける。

 そこには、胴体コアパーツが融解して帯電し、装甲部に大穴を開けられたMFが、煙を噴きながら行動不能に陥っている姿があった。

 見ている場所からは、装甲内部の様子は分からないものの、戦域図の反応や通信音声ノイズの消失から、そのコクピットがどのような状態になっているか、想像に難くなかった。


 一方、その頃。

 同じく戦域図の反応を見ていたアリオとクィンは、自分たちの作戦が成功したことに安堵し、同時に、未だ帯電し、冷却のための蒸気を上げている、肩部の可変式スナイパーキャノンに苦笑していた。

「実体弾頭・エネルギー弾頭を問わず、多目的に使える点は評価できるけど、実体弾頭からエネルギー弾頭に切り替えると、その後の使用に不安が出るのはマイナスかもね」

 その映像を見ていたアリオが、仮想キーボードを打ちつつ、率直な感想を口にする。表示されている画面には、依頼遂行報告書と銘打たれた文字データが表示されている。

「まあ試作品なんて、そんなもんでしょ。むしろ良いデータが取れたとかで、報酬上乗せしてくれるんじゃない? 先方は。ホント、そう言う物の研究者は好きになれないわ」

「あ、あはは……」

 愚痴たっぷりに感想を口にするクィンに、アリオは苦笑を浮かべる。

「ところで、相手さんはどうなった? ちゃんと逃げられた感じ?」

 しかし、クィンは直ぐに愚痴を引っ込めて口調を切り替えると、手元の装置を操作して、機体の砲撃照準モードを解除する。

 脚部のアンカーボルトを元に戻し、肩部スナイパーキャノンを狙撃形態から格納状態に戻し、代わりに、腕部に中・近距離用の武装を準備させていった。

「そうだね。生き残った方は、ボク達が蒔いた電磁バーストの領域を隠れみのにして、退いていったみたい」

 アリオは、クィンの質問に対し、報告書を纏める作業はそのままに、戦域図に表示されている情報の整理を行ってから分析を口にした。

「うんうん、狙い通り」

 その報告に、クィンは喜ばしそうに“苦笑”を浮かべた。

「マッチポンプとか言われそうだけど、こうしておかないと余計なトラブルを呼び込むし、向こうのMFの依頼主も、余計な絶望感を持っちゃうから」

「仕事の口は残しておきたいからね。もしかすると、向こうから声が掛かるかも知れない。その辺りを考慮しないといけないのも、ボク達のような傭兵の辛い所だね」

「いやホントにね。まあ、あの退いたMFのライダーにしても、やられたMFのライダーにしても、MLメタルレイバーに負けたわけじゃなくてMF相手にやられたわけだから、そこまで評判は落ちないでしょ」

 変化する戦域図を見つめながら、クィンはそう言って肩を竦めたのだった。


 その後、報告書の提出と共に報酬を受け取ったアリオとクィンは、別の依頼へと向かい、また別の出会いを果すのだが、それはまた別の話である。

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