9. 稲刈りのあとで
稲刈りは始まった。
5年生はどうにも作業が覚束ない。
刃物も使うので、脇にサポートをつける事にした。
サポート役には、平川、国立、燐光寺、そしてとん吉となつき。
まあ、いつもの仲間達だ。
鎌の扱い等、事前にうちで練習をしている。
いつもの仲間達……とは言っても勝手が違う。
何せ男女が逆なのだ。
いやいや、今までが逆だった訳で、本来はこちらの方が俺の世界的に正しい。
平川は美紀男ではなくミキ。
国立は満世でなくて美代子なのだ。
そうじゃない。
本来だというのなら、こんな光景は俺の世界ではなかった。
平川、国立とは仲が良かったが、クラスの隅っこで楽しくやっていた。
今みたく、児童達を引っ張る様な集団になんぞ、なるはずもなかった。
なつきは他クラスの人であり、とん吉はただのクラスメート。
燐光寺に至っては憎むべき敵である。
昔の俺には信じられない景色。
だが、それはあり得ない事ではない。
俺の行動を少し変えるだけで、こんな風景にもなっていた。
「あの方」のフォローがあって、世界が壊れない範囲の変化でもこれなのだ。
田んぼに10人横並びになっている。
皆、右手に稲刈り鎌を持って前に
「よーし、稲をひと
父ちゃんの指示に合わせて、全員で稲を刈る。
「その稲の束は、自分の左側にまっすぐ縦に置く事」
「今刈った束の左側の束を今度は刈るぞ」
「いいか、ひと束をいっぺんに刈らなくてもいいからな。
掴める範囲で無理するな」
父ちゃんが説明し、躊躇している子には平川らがサポートする。
ある程度の稲が脇に積まれれば、それを刈った児童が抱えて次の人と交代。
サポートは数人からずつ稲を受け取り
これを繰り返し、全ての稲を児童達の手だけで刈り取る。
今どきコンバインを使わない稲刈りなんぞ、こんな授業だけだろう。
農家の俺でも手刈りだけなんて、後にも先にもこの時だけだ。
もちろん、刈り残しや機械を入れる田んぼの入口は、毎回チャチャッと手で刈るけれど。
全員ふた回りはした所で、稲は1本残らず刈り終えた。
稲がコンバインの側にうず高く積まれている。
昔の人はこの稲を縛って、吊るして、乾燥させていたらしい。
さすがに体験授業でそこまではやらない。
後は機械で。
その為に持って来てんだから。
「じゃあ、ここで今日は解散しましょう。
皆さん、まっすぐうちに帰りなさいね」
今回まじめに場を仕切っている、6の3担任の古賀ひとみ先生。
多分、俺のクラスの担任って事で任されてるのだろう。
解散後、斎藤も田辺も校舎に帰っていった。
残されたのは俺、サポート役の5人、うちの両親、ひとみちゃん。
コンバインは本来、生えている稲を刈り取る様に出来ている。
だから刈って地べたに積まれた稲を器用に回収し、脱穀して、米だけ袋に入れたりはしてくれない。
これから残った人間で、ひと束ひと束、人力で機械に流し入れていくのである。
「桑野が
「せっかくなんでしめ縄用に、藁を粉砕しないで脱穀するか」
両親が欲を出したせいで、気持ち作業が増えた。
脱穀する場所に穂先だけ通すのだ。
人手が多いので、母方のじいさんの藁をここで調達するらしい。
おかげで藁を抱え過ぎて、体中チクチクして堪らん。
「皆さん、お疲れ様」
何とか作業を終わらせ、やっとこさ解散となりそうだ。
父ちゃんと母ちゃんに後始末は任せて、俺らは先に上がらせてもらう。
前回、そう、30年近く前の脱穀作業は、ひとみちゃんと両親の4人でやったのを思い出した。
今回の人数は倍以上。
楽っちゃあ、楽だったな。
「皆さんには損な役回りさせたから、先生、お昼をご馳走してあげる」
「「「イエーーーーイ!!」」」
ははは、前回ヘロヘロで、そんな気力無かったくせに。
「じゃあまずは、すぐそこの銭湯で稲の
「「「ええええええっ!」」」
「「「!?」」」
しまった。
あからさまに驚いてしまった。
なつき、とん吉も俺につられて思わず声に出す。
「どうかした? ヤエちゃん達」
先生、平川、国立が頭にクエスチョンマークを付けてこちらを見てくる。
「いや~、その……
帰りに3人で銭湯行こうかって、今言ってたとこだったもんで」
「「!!」」
「何! ヤエ、ずるいぞ」「そうだよう」「師匠!」
ううっ。
まずい、実に不味い言い訳。
「丁度良かったわねえ。
じゃあ、みんな仲良く
「「「オーーーーッ!」」」
はしゃぐ4人と、戸惑う3人。
なつきとコジローとん吉が俺を睨んでくる。
分かってるよ、何とかしますよっ!
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