2. ここは何処? 私はどっち?

「「なつきともかが女の子!?」」


 思わずふたりの声がややハモる。

 先程も告白の言葉が似たような感じではあったが、今度は実際の声が重なっていた。

 しかも、なつきが女になって……


「「えっ?」」


 俺が女だ? 

 それはそうだろう帰れなかったんだから。

 なぜ驚く?

 それになつきが女だと?

 違う世界に来た?

 いや、元の世界の過去?

 だったら俺も男だろう?


 なんだ? どういう事だ?

 わからん! 何がなんだかさっぱりわからん!


「ともか。

 ともかはオバサンなの?

 それともオジサンなの?」


 なつきが聞いてきてくれた。

 そうだ!

 さすがなつき。


 俺と一緒に混乱しただろうに、状況を整理する方法を考えたんだな。

 確かになつきには、俺がどちらかで現状があらまし把握できるだろう。


「ああ、そうだな。

 俺はオッサンだ。

 男の八重洲ともかだ」


「そ、そう……ですか。

 やっぱり、ともかは帰っちゃったんだ……」


 なつきの顔がはっきりと落胆に沈む。


 一度は覚悟を決めて送り出し、だがそれが別れとはならずに済んだ。

 そう喜びに心が緩んだ所へ、やっぱり別れてました……だとっ?

 だったら最初っから分からせてやれよっ!

 ぬか喜びにも程があるだろ!


 俺もなつきと同じように天国と地獄を一瞬で味わってしまった。


 この様子では聞くまでもなく俺にも状況が大体掴めた。

 今いる世界は、なつきが女の子の世界。

 つまりは俺がいた世界の過去の世界。

 本来なら神様の「あの方」が戻したかった時代だ。


 だが俺が歴史を変えず、また自然とふたりの想いを遂げられるために、今までいた世界は学年の男女が逆転していた。

 パラレルワールドなのか、世界を変化させてしまっているのか。

 俺と葉月は密接に関わった等価値の世界で、魂だけが移動してきたのだろうと仮定している。

 俺達の推論で平行世界に移っていた場合、俺らの世界には俺と同じ様なオバサンが同じ様な行動をとっているはずだ。

 

「なつき悪い、ちょっといいか?」


 俺はガックリ肩を落とし、悲しみに打ちひしぐ少女に声を掛けた。

 わかるよ。

 今俺だって同じ気持ちだよ。

 人生辛酸舐めてもこたえる一撃だ。

 こんな幼い子の初恋に、この仕打ちは酷すぎる。


 しかし……聞かねばならない。

 俺の胸が失恋の痛みで悲鳴をあげたがっている。

 だが今は別の感情が騒いでいて、そんな場合ではない。


 それは焦り。

 猛烈な焦燥感。


 何かがマズイ!

 とてつもなくだ!

 その感覚が俺に催促してくるのだ。


「うん、なに? ともか……さん」


「ああ、すまん。

 俺は、さっきまで男だったか?

 いや、体は男の子だったのか?」


「え?

 はい……そう、です。

 気を失うまでのともかは、いつものともかでした」


「そのいつものともかは男だったんだな?」


 念を押した俺に、なつきは睨みつけるように顔を上げた。


「そうよ!

 体は男、でも心は温かな女の人。

 彼女は、私の愛したともかは、あなたじゃないともか!」


 そう言うと、堰を切ったように泣き出すなつき。

 もうとっくに悲しみの限界だったんだろう。


「すまない。悪かったな」


 思い出のオレンジ色を背景に……

 かつての想い人が足元でくずおれて泣いていた。


 

 


 

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