無能少女
第2話 ミノタウルスと拳聖
朝。
陛下に宛てがわれたホテルからチェックアウトして編入予定の学園へと向かう。名前を九州魔導学園。この学園は九州地方そのものを学園へと作り替えて出来たのでわりと地形は把握しやすかった。学園に向かうおうとするとサイレンが鳴り響く。
「
この世界において魔術やスキルに迷宮といったファンタジー要素が出現した原因とでもいうべき現象。突如、異世界「グランディウス」との繋がりをつくり両世界に災害をもたらした30年前からあるとされている現象だ。ただし両世界の合同研究によってとある複数の起点の半径3km以内に収まるように調整されているはずだが。ここは約12kmほど離れておりすぐ近くの噴水広場にその現象が起点となっている。
境界門の具現が近まり避難が始まるが近辺に軍や冒険者と言った境界門から現れる怪物や現象に対して対処する存在がいない。
「しょうがないか。 来い」
僕が呼び寄せたのは漆黒の鞘に身を潜める一本の剣。聖魔剣アルティメア。そしてその噴水を中心として漆黒の玉が現れ次第に大きくなる。成長が止まると中から牛の頭をした魔獣ミノタウルスが現れる。ただそのミノタウルスは通常種とは違い全身が深紅に染まり大剣を持ち腰のベルトに大斧を提げている。おまけに4mほどと大きい。素早く近づき大剣の振り下ろしを最小限の動きで避けてアルティメアを突き出す。
「ピアース」
剣がほのかに緑の光に包まれる。そのまま剣を突き刺そうとするが大剣での切り上げを繰り出されたのでピアースをキャンセルして横に跳び離れる。レベル5か?強いな。少し力を解放し突貫。素早く裏手に回り込んで右アキレス腱を切る。そのまま左手をミノタウルスに向けて唱える。
「岩よ来れ 岩盤の徹甲槍 ロックピアス」
魔法陣が高速で展開され巨大な岩槍が背中から推定の心臓を貫通する。するとミノタウルスはガックリと膝をつき前のめりに倒れる。斧にしろ剣にしろどちらも残っている。つまりは迷宮種の特異個体でもないと。ミノタウルスに手をかざし唱える。
「収納」
するとミノタウルスやその装備品がスキルの無限収納に収まる。聖魔剣アルティメアがあったのもこの無限収納の中だ。この中にある物は全て基本的に鑑定される。このミノタウルスの名はスカーレット・ミノタウルス。推定の
分析を終了し一旦眼を閉じ開く。弱感気にしたが今ので僕の戦闘がどのカメラにも撮影されていないだろう。速度を重視したためにかなりの異端の技を使用したので見られたくなかったのだ。右腕に嵌めていたデバイスを操作し司令部に直接連絡を入れる。。
「こちら皇。九州魔導学園前駅噴水広場の境界門にて出現したミノタウルスと交戦。これを撃破」
『了解。ひょっとして月光眼使った?』
応答したのは聞き覚えのある女性の声。園部理奈という電子干渉系異能を持つオペレーターだ。
「ええ。
『なら良いわ。そこら辺のカメラが砂嵐で』
「此処らのカメラは干渉対策がありますから。いつものようには行きませんよ」
『そうよね。じゃあ頑張れ学生』
そう言い残され通信が切断される。学生とは懐かしい身分だな。あの頃以来7年ぶりか。となるとあの決戦から3年も経つのか。懐かしい過去を顧みながら学園への歩みを早める。あの時の誓いを守るためにも。
九州魔導学園。
そこは魔術関連にする事を教授しており優秀な魔導士を多数輩出しており数は少ないが戦術級魔術を操る魔導士も居る。また敷地内にちょっとしたダンジョンが多数存在している。
「とまあこの学園についてはそんな感じだ」
「はあ。何故に魔導学園なのですか?」
デスク向こうで語り掛けて来たその人物に素直に浮かんだ疑問をぶつける。
「確かにこの学園は魔術がメインだけど白兵戦や異能関連も節操なしに教えているし創始者の1人が君と同じだから」
「魔法師ですか。グランディウスでは魔法がないはずでは」
魔法
この世界では今の所使い手がいない異能と知られており現魔術ではフォース・シルード以上の防護魔術でないと防げないとされている。そして僕はそんな世の中で魔法を使える例外。それ故に最高位魔眼の1つ【月光眼】を用いて魔法の発動を隠蔽している。
「そうだけどね。その人物は精霊種に好かれていたから精霊魔法が使えていたから」
精霊種
精霊や聖霊に星霊と言った霊に属する超次元生命体である。知り合いに1人世界最高峰の霊種使いがいるが彼女はそう言った類の戦闘がかなり上手い。またかなり気まぐれであり人に手を貸すのはとても珍しい。
「精霊術師とは上手い人だと無類の強さがありますし」
「だな。俺も相当世話になった。特に精霊同化には」
精霊同化
精霊術師が使用する上位技術の1つで対象者に精霊を憑依させる事でありとあらゆる能力を莫大に増幅させる。更には適性がなかろうが憑依された人物はその精霊の魔法が手に取るように使えるようになる。
「拳聖グレン・オステリアがですか?」
目の前の学園長室の部屋の主、拳聖グレン・アヴァラント。レベル25。アステリア皇国の元騎士団団長にして50年前の大災害時の救世の英雄の1人。格闘をメインスタイルにして黒魔術と武闘を組み合わせた
「本人は
それもはやヒーラーの仕事じゃない。いやとなると1人居る。
「治癒系異能者、ミリアーヌ・ヴァレンシュタインですか。ハイエルフで
そう考えると此処のパワーバランスとんでもないな。いやそれでも守れないと考えるべきか。
「君の記憶力はとんでもないな。術式学なんて満点じゃないの?」
「その術式を軍用以外知らないとなれば意味ないですけど」
「そうだな。まあ彼女の姉は優秀だから彼女に教われば良いんじゃない」
この年で二つ名を拝命しているのは本当に凄い。ただその才女に習うのは気がひける。というか相当な数の改編が入っている気がするのだが。良いのだろうか。仮にも魔術大家の令嬢のはずだが。
「良いですか?燃やされませんよよね?」
「……」
ダメじゃないか。とある調査が本当なら彼女は相当な
「シスコンを除けば此処では極めて常識だから」
凄腕集まる生徒会を束ねる生徒会会長が一般人と言うもの少し怖いものがあるが。変な性癖ではないから妹想いなだけだろうけど。
コンコンコン。
話が逸れて来た時、不意に後ろのドアがノックされる。3回となると英国式だな。
「どちら?」
『イリスです』
チラッとこっちを見るグレン。
「分かった。こっちも話したい事があるから入ってくると良い」
『では、失礼します』
その言葉とともに静かに扉が開かれる。
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