第13ー13話次の音楽。月夜の追想

 それで時間が経ってから、この日はどちらからともなく決めて、別々にお風呂に入る事にして、いつもそんな時は絶対に秋はわたしの方を先に入れさせるので、そうさせて貰って、出来るだけ迅速にいつも出て来るつもりではいるのですが、わたしは毎回とにかく体を念入りにゴシゴシと洗う癖があるので、それで結構時間は掛かるようでしたが、それも気にしないで秋は続いてメルセデス・ベーンツなんて鼻歌をやりながらお風呂に向かったのです。


 秋も割と長風呂なのはわかっていましたし、わたしはあんまりにも今もジャニスを聴いていたら当てられてしまいそうなので、思い切って一人で聴くのだからと、ブラック・サバスの「ヘヴン&ヘル」を聴いていました。


 往々にして、オジー・オズボーンを至高のものとするファンが多いのですが、結構この新しいメタルの時代に適応した、ロニー・ジェイムズ・ディオの所属したアルバムもいいとわたしは思っていて、これを聴いていると表題曲なんかのラディカルな世界に感激するわたしがいて、これはボブ・ディランの「ミスター・タンブリンマン」なんかもそうですが、結構暗黒面だとか切ない曲にわたしは弱いのだろうと、自身では推測しています。


 「ダイ・ヤング」なんかを聴いて、先程のジャニスを筆頭に3Jだとかニルヴァーナのカート・コベインなんかの二十七歳クラブに思いを馳せてしまい、そうだとしたらそれ以前の年齢で亡くなったイアン・カーティスだったり、その周辺もしくは若くして亡くなったアーティストの事を思うと、段々自分のタナトスな部分も感じてしまい涙が流れて来てしまいます。


 クイーンもフレディ不在の曲を思い出すし、それならフレディみたいにわたしはあんな風に人生を肯定出来る言葉を言ってのけられるだろうかと考えてみて、そうだ、その為に今は秋と暮らしているんだ、もっと楽しめる人生にしたい、その下地を作る事に専念するのに、もっと努力が必要だし、だからこそその先に秋がもっと好きになる様な素敵な女性になりたいと言う像があるのですよね。


 神無先生があんなに怒るのも、もっと自己の人生を充実してより良い物にするには、邪魔になると言うかして来る存在が、出来るだけ社会に少ない方がいいだろうし、それは神無先生にとってはまだ結婚しないのかとか恋人は?なんかの質問だったりもするでしょうし、わたし達の場合は同性愛者に偏見を持つ人とか認めない類の勢力でしょう。


 もしかすると、わたし達以上に菊花さんなんかの方が辛い現実が待っているかもしれません。

 適切なホルモン治療だとか手術にしても、費用は結構掛かるし捻出するのも大変でしょうから、その事に関しての心理的な負担も多大なのに、自分が中々理想像の女性に近づけないだけならいざしらず、性器の事実がある為に男性性を強調して揶揄する人も未だに多いと聞きますし、それはわたしも姉の体験で実感しているのですが、更にそこに加えてトランスジェンダー女性のレズビアンだと言うのが、もっと障壁を大きくしているのだと思うのです。


 だからこそ漱石が「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」なんて言ったように、しかしその後に続く言葉じゃないけれど、だからと言って引っ越す訳にもいかないし、そしてそこを住み良くしようとする試みの中で芸術も生まれる。


 詩や画になる所まで、わたしが高めた物を作れるかは、未だにわかっていない様なものだけど、でもその挑戦は続けていきたいし、世界を諦めたくもなければ、完全に出来るとも思っていないので、生活の範囲では大体の所でも手を打ちながら改善を求めていきたいし、そして創作の分野に於いては妥協などする事なく、飽くなきチャレンジをし続けて、秋が誇れるパートナーとしての仕事をしていきたいのです。



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