第13ー12話お家での感慨。電話と音楽と二人の空気

 帰って来て、疲れから寝転んで、そう言えばフォークもいいなと思いながら、バート・ヤンシュだとかジョン・レンボーンを聴いていると、心が洗われるようでもあり、ペンタングルで取り上げられる残酷なマーダー・バラッドなんかには戦慄しながら、ぼんやりしたのです。

 どちらかと言うと、ジョン・レンボーンにわたしの気持ちは傾いていたように思います。


 そうやってしばらく聴いていると電話が掛かって来たのですが、着信を見ると、あれ?砂糖さんです。

 慌てて、音楽をエミリーに止めて貰って出ると、


「あ、月夜ちゃん。・・・・・・今、いいかな?」


 とおずおずと聞かれたので、何かと訝りながら、オーケーの旨を伝えると、今度は藪から棒にこんな事を質問されてしまいました。


「えっと、あの、月夜ちゃんにこんな事聞くのもなんだけど、あのね、ボク、聞きたい事があって・・・・・・」


 何だか言いにくそうです。とにかく先を促しますと、


「うーん、あの、月夜ちゃんは秋ちゃんと、した事、ある?」


 これです。何をとは勿論聞きません。

 飛び上がりそうになりますが、何か重大な意図があって、砂糖さんは勇気を振り絞ってこんな行動に出たに違いありません。


「それ聞いちゃう? まぁ、いいや。あーっと、秋にも色々問題はあるから、わたしが主導権握らなくちゃいけないんだけど、何回かした事あるよ。それが?」


 ・・・・・・沈黙。

 相当恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしているのでしょう、やがておずおずと答えをくれます。


「その、ね。ボク、鬨子ちゃんと一緒に暮らす事にしたって、前に言ってたじゃない。卒業前に教えてたよね。それで、この前ついにときちゃんにされちゃったの。

別に強引な訳じゃなくて、ちゃんと確認してから優しくしてくれたんだけど、あれ以来どんな顔すればいいかわからなくて、緊張しちゃうし、どうすればいいかな。

目を見られないんだよ、ボク、恥ずかしくて死にそう・・・・・・」


 あー、なるほど、わたしも確かにもう慣れて来たと言っても、未だに秋にされるがままに抱き締められたら、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうにもなりますし、行為の後の気まずさってありますよね。


 でも本人同士は愛し合ってるんですし、何も気後れする必要はないのではないでしょうか。

 大体、羞恥心があるのはそれだけ相手が好きな証拠でもありますよ。

 砂糖さんの出来る範囲で、何かしてあげるとか、真摯な態度で接すればいいとわたしは思ったので、そのように伝えました。


「・・・・・・うん。ときちゃんは、優しく笑って受け止めてくれるの、わかってるんだけど。やっぱり何か変わっちゃうのも怖いし、ボクの事今どう思ってるのかなって不安なの。それをちゃんと聞けばいいって事だよね」


「そうだね。二人で話をするのを、もっと増やせばいいんじゃないかな。わたしも秋が、接触するのが増えて、段々慣れて来たし、今でも恥ずかしさは勿論あるけど、欲望的になってもいいんだ、失望されたりしないんだってわかったし」


 えへへと笑う砂糖さん。

 やっぱり彼女は可憐さを兼ね備えている、稀有なボクっ子でありましょう。

 それはそうと、鬨子さんの事、今ずっとときちゃんって言ってますね。


「ありがとう、月夜ちゃん。やっぱり何でも友達に聞いてみるもんだね。ボク、ちょっと楽になったかも。もっとちゃんと出来るように、頑張ってみるね」


 そう言って、別れの挨拶をしてから、わたし達は電話を切りました。

 傍で秋が興味深そうに聞いていたので、何だか盗み聞きは良くないんじゃと抗議しましたが、秋はどこ吹く風。


「ふーん、あの二人も仲良しだね。月夜もちゃんと答えてあげて、お姉さんみたいで可愛かったよ」


 何だか馬鹿にされた気分で真っ赤になってしまうので、話題を逸らす為に別の言葉を投げました。


「あのさ、秋は聴きたい音楽とかないの。わたしばっかり、好き放題聴いてる気がして、悪いなって思うんだけど」


 ふむ、と秋は思案顔。


「えーと、私は別に月夜の好きにして、それを享受するので楽しいけどなぁ」


「いいから、秋のリクエストで何か掛けようよ。駄目?」


 そんな風に言うと、うっと秋は詰まってから、またも考えてから、照れたようにじゃあと渋々返事をします。


「それなら、ジャニス・ジョプリンとかにしない。ああ言うの、私結構好きなんだよね。重い時もあるとは思うけど」


「へー、そんなの好きなんだ。じゃあ、エミリーに好きなアルバム注文してよ。無月さんにも、どれがいいか聞いてもいいかもね」


 そんなやり取りして、無月さんともわたしも多少コミュニケーションしていて、結構育成されていくのを間近で見るのは、割と楽しいものかもしれません。

 とにかく、秋は気分良く生活しているみたいで、わたしとしてはその事に安心していて、秋が安寧を得られているのは、わたしにも幸せが巡って来る事なので、素直に嬉しい気持ちなのです。


 二人で聴いていると、ジャニスのボーカルが、秋が初めて勧めてくれた高揚もあって、じんわり染みて来るどころか、かなり参ってしまうくらい感じ入ってしまい、「生きながらブルーズに葬られ」の経緯を考えて泣きそうになったり、「トラスト・ミー」の切実さと真摯な愛への姿勢がどこまでも心を打ちのめして、ジャニスの虜になってしまい、秋にもたれながら何だか胸が苦しくなりそうで、秋の腕をぎゅっと掴んでいました。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る