第13ー10話神無先生ご立腹

 そんな風に数日を過ごしていたら、休日に秋の顔を眺めながらぼんやり昼過ぎに起きた快適具合を満喫してたのに、菊花さんに呼び出されました。


 何やら神無先生がヤバいとの事。

 不機嫌な先生を宥めるのを手伝って欲しいとか。何かあったんでしょうか、と思い出来るだけ早くそちらに行くように返事をして、秋にその旨伝えたのです。


 そうしたら準備して外出するわたしに、秋はいってらっしゃいのチューをしてくれて、これはほっぺにちゅっとされる程度だったのですけど、とても嬉しくて高揚してしまいますし、なので今度わたしも秋にやってあげたいなと思い、それを約束してからわたしも秋にキスして、すぐに帰ってくるからと言ってから、電車に乗る苦痛を押して神無先生の所に行きました。


 こう言う場合もcomeなんだっけとか、些末な事を心の隅で思いながら。


 何があったのか行って聞くと、ブスッとしている神無先生に代わって、菊花さんが溜め息を吐きながら、説明してくれました。


「どうも、あれこれネットの意見の問題を収集していたら、あまりにも偽科学だとかに嵌まったり、デマの拡散だとか、これまでの学的な体系など無視した意見が、相当に支持を集めたりして、法学的哲学的人権的意識を引っ繰り返す様な、全体主義の様な多数派に少数派を強いる圧力なんかも含めて、もううんざりなんだそうですよ。何とか言ってあげて下さいよ。

そりゃあ、滅茶苦茶言ってる意見もありますし、でもそれを反駁してくれてる人もちゃんといますし、それが成果を上げているかは疑問ですけど、まだ絶望するには早いんじゃないかって」


 うーん、そうですか、ネットの悪い意味でのミームの様な、情報の氾濫に加えて、リテラシーの低下だけじゃない、情報に接する際の脳の作用に基づく、偏見に染まりやすい人間の性質や、古く言われている君子豹変すとかの、間違いを直ちに正すなんて事が出来ないで、頑なになる状態、それが知性の限界も示すようで確かに絶望しますよね。


「正しい情報や意見を皆が信じる訳でもないのは、この間も言ってたじゃないですか。宗教の派閥争いだとかでも、ちゃんとした神学的知識がある人が、きちんと発言するのでもないですし、アカデミックの腐敗なんかもその背景に過去にはあったそうですからね。

例えば経済学者が、庶民の暮らしの事なんか見向きもせずに、大企業優遇だとかの政策を提案していたり、自分達の利益だけを考えたり、それは破綻した銀行なんかの役員ボーナスなんかでも同じ批判はあったと思うんです。

そうして耳心地のいい言葉だとか、力強く印象づける広報活動なんかが効果を上げるのは仕方がないですよ。

先生も脳科学とかやっていたら、人間の性質がどうなっているのか、それをわかっているからわたしに教えてくれたんでしょう」


 神無先生はグイッと飲み物を飲み干します。まさか真っ昼間からお酒とかじゃないですよね。


「ああ、安心して下さい。神無さん、お酒嫌いですから、ジュースでやけ起こしてるだけですよ」


 なるほど、菊花さんのすかさずのフォロー、助かります。


「いや、それはマジでわかるんだが、ここまで科学を蔑ろにした言葉が飛び交うのが、どうも愚弄されている気がしてな。

精神障害に対する偏見も、犯罪に関わる場合に限り、リベラル気取る奴からもかなり繰り出されるのがうんざりして仕方がないんだよ。

ペドフィリアもサイコパスも、器質性の脳障害だって言ってるのに、やれ予防拘禁からのホルモン投与だとか、GPS埋め込みやら、隔離だとか、非人道的な手術だとか、滅茶苦茶だぞ。

サイコパスだってだけで何したって言うんだ。児童加害の事件は、実数としては本物のペドフィリアよりも、その児童の肉親だとかの同居人の犯行だって統計には、断然目を瞑るみたいだしさ。

それにまだ言えば、ペドフィリアは男だけじゃなく、女も存在してるんだが、それは不可視化されるんだよな。実際には、逮捕者も出てるのに。

そんな口でLGBTの権利向上を叫んでも、口先だけで取り繕って本当の意味で認めてるんじゃないのがバレバレなんだよ。

で、そんな奴らがわたしみたいなのを異常者扱いするのも、ずっとそうやって生きて来たからわかるし、本当に理性って何なんだろうな。

しかし、だ。しかし、一般市民の考え方を一概に否定すると、理解は得られないし、それを今のリベラルは放棄して市民を罵倒するしな。左派にも右派にもうんざりするんだよ」


「ね? そりゃあ、差別に怒る気持ちもわかりますけど、普通の市民の気持ちはそうなっているのは、未だに変えられないのも人間の本能的な問題だったり、脳の作用だったりで、どうしようもない事でもあるから、それで法制度とか色々やってるんであって、前進しようと今もしてるじゃないですか、って言ってるんですけどね」



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