第11ー9話カムアウトと月夜の微妙な秋への視線
「なあ、どうして外でキスしちゃ駄目なんだ? もっとどこででも、あれこれしたいんだけど」
テラスで鬨子さんが砂糖さんに迫っています。周りに人がいるのもあって、砂糖さんは極度に恥ずかしがってるようなのですが、わたしみたいに周囲の敵意には敏感に反応してしんどい思いをしていても秋とくっついたりするのに躊躇いのない側から見ると、変に気にしすぎじゃないかなと思うのですが、人前でパーソナルな領域の関係性を開陳するのが嫌なんでしょう。
「だから、そうやってするのが嫌だって鬨子ちゃんにはずっと言ってるよね。ボク、変に目立ちたくないし、月夜ちゃんの事があったからじゃないけど、怖い人達に目をつけられたくないんだよ」
むむむと唸る鬨子さん。何でこんな話題になっているんでしょうか。
秋との個人的な事情、情事じゃないですよ、それを知られるのはちょっとなぁとわたしも思うし同じ事であるかもしれないと考えていて、秋とは部屋での交わりは楓ちゃん達意外には内緒にしておこうと言ってあるんですが。
「ねえ、二人は付き合ってるの? なら、ラブラブに見せつけても、月夜みたいには恨みは買わないんじゃないかな。なんか野分ちゃんに教えて貰ったけど、どうも私のせいで月夜は凄く嫉妬の目で見られてるとからしいけど」
後半は何だか、自分の話になってしまってますが、直球に聞いたものですね。暗黙の了解じゃなかったんですか。
「えーと、これ答えていいのかな。さとちゃんがどうするか決めなよ。って言うか隠し通せないぞ、もう」
うーん、これで隠してるつもりだったんですね。わたしのいつぞやの秋への恋心と同じようにバレバレではないかと思うのですよ。でも他人がとやかく言う事ではないし、カムアウトする時は自分で選べばいいし、他人が勝手に人にバラしちゃうのは絶対に駄目ですしね。
「う、うん。じゃあ、こっそり皆には言うけど、ボク達実は女子同士の交際をしてるの。付き合い始めたのは、大分前で中学の時だから、月夜ちゃん達より前なんだけどね。秘密にしててごめんね、からかわれたりするのが嫌だから、ボクが鬨子ちゃんに口止めしてたんだ」
「二人の時は、偶にときちゃんって呼んでくれたりするんだぜ。さとちゃんは本当に可愛いぞ、まぁ誰にもやらんけどな。で、これだけ吐けば許して貰えるのかな」
なるほどねぇ、と納得している秋。野分ちゃんも楽しそうに聞いているのですが、わたしは何だか同類がいた事に感激してしまっています。
「あちこちにカップルがいたら、自分が求めてなくても、何だかいたたまれなくなっちゃうなぁ。私はそんなの今はそんなに欲しいと思わないけど、出来れば目につかない所でイチャついてくれないかなって、時々誰かのを見かけると思うんだよね。だから、月夜ちゃん達も目に毒だよ。ああ、桐先生もおんなじだよ。杏子先生はちょっとTPOを弁えて欲しそうにしてるけど、押し切られてるからなぁ」
そんな風に野分ちゃんが皮肉めいた事も言っていると、砂糖さんのボブくらいの長さで髪留めがバッチリ見える所にあるのと、何気に対称性と言うかギャップが面白い鬨子さんのツインテールな髪型についている髪留めがお揃いなのに目が行きます。
「あのさ、その髪留めってお揃いにしてるの? 仲いいのは本当にずっと一緒だからなのかな」
わたしは秋への一撃も込めてそう言ったのですが、秋は全然気づいていないし、砂糖さんは照れながら微笑んでいます。
ヤバい、この子ボクが一人称なのに、鬨子さんの言う通り滅茶滅茶可愛いぞ。
「うん・・・・・・。前に鬨子ちゃんがプレゼントしてくれたんだ。誕生日にくれたんだよ」
「へえ。誕生日ねぇ・・・・・・」
そう言いジッと秋を見ていると、不審な視線にようやくハッとなったのか、慌てて自己弁護と名誉回復を図ろうとして来ます。
「あ、ああ。あの時は私知らなかったんだよ。え? その後もそう言えば何もしてなかったね・・・・・・。じゃ、じゃあ。今度何かお揃いの物プレゼントするよ。それでいいんでしょ」
ああ、しかしこの人はグラスのコップの事にまだ気づいてないんですね。後で教えてあげる方がいいのか、この話題を進めた方がいいのか、とにかくわたしは不機嫌を装ってちょっと無茶ぶりをしてみるのです。
「それなら、帰りに雑貨屋さんで何か買ってよ。そこで秋が無視してる事もキッチリ教育してあげるから」
これなら、一石二鳥だとわたしが思っていると、秋はもう混乱していて、どう宥めたらいいんだろう、この子は癇癪が酷い時はどうしようもないみたいな感じなので、そんなにわたしは怒ってばかりじゃないでしょと怒りそうになって、これじゃ罠に嵌まってるみたいだなと思って苦笑します。
そんな訳でわたしの方にも話題は逸らせたので、砂糖さんがこれ以上根掘り葉掘り聞かれて、真っ赤になって茹で蛸になるのは回避出来たようです。
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